エピローグ
テレビのニュースでは、梅雨明け宣言が報道されていた。
ああ…今日も暑い。気の早い蝉が我先にと鳴き始めている。
あれから…和美がこの世からいなくなってから何日…何ヶ月経っただろう。
【では、続いてのニュースです】
神妙な面持ちのアナウンサーが澱みなく原稿を読み上げて行く。
不倫の末の男女の痴情のもつれによる殺人…長きに渡っての横領の件も上乗せされ、さらに心象の悪くなった元専務は、めでたく暗い塀の中へ放り込まれて行ったようだ。
さようなら。専務…いや、元専務。
ちりんちりんちりん…
金魚が跳ねるように風に揺れている。
ああ…やっと…やっと長い長い暗闇から解放された。
ああ…やっと…やっとこの日が来た。
ああ…長かった…本当に。
俺はもう、何も思い残すことはない。何もやりたい事が思い浮かばない。何を見ても何を食べてもどんなドラマや映画を観ても、もはや何の感動もない。感情を揺さぶられる事も…もう…何も…ない。
生きていく気力も、正気も、何もかも失った。
ただ一つ、手に入れた物があるとすれば。
『空虚』…からっほの虚しさだ。
……ちりん……
風に乗って金魚が一跳ねした。
夕日を受けてオレンジ色に染まる川縁にカンパニュラの花が咲き誇っている。淡いピンクの絨毯の中、所々菜の花の黄色が揺れている。
春風と共に静かに流れる水音が耳に心地良い。
宇田川は水面に映る自分の顔を覗き見る。
酷い顔色だ…。だがもうそんなことは取るに足らないどうでもいい事なのだ。
『さようなら。』
誰に宛てたものなのか、一筆箋にただ一言の遺書を残し、宇田川は、橋の欄干からぶら下がる大きな風鈴となった。
了。
憂愁のカンパニュラ 葉山 うさぎ @usagimaru1208
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