機嫌が良い、とはこういうこと
- ★ Good!
肩肘張らない語り口のまま、読んでいるうちに自然と情景が立ち上がってくる短編でした。
カーラジオの音楽やエンジンの感触、西日に照らされる最終コーナーまでの描写が心地よく、主人公の「今日の調子の良さ」がこちらにも伝わってきます。
全体を通して、出来事そのものよりも、その瞬間ごとの気分や手触りが大切に描かれている印象を受けました。何気ない運転の時間や帰宅までの流れに、静かな高揚感が積み重なっていく感じがあります。
最後まで読んで振り返ると、「機嫌が良い」という一言の意味が、どこかあたたかく、少し照れくさいものとして胸に残りました。
日常の中にある小さな幸福の輪郭を、さりげなくすくい上げてくれる一編だと思います。