第21話 星喰いの標と、槌音の爺の条件
朝の空気は、やけに冷たかった。
ほとんど眠れなかったせいかもしれない。
(“実験区画:トレス村”……)
昨夜、呪詛核の欠片から【アイテムボックス】が暴いた刻印。
俺が生まれ育った場所。リリアが今もいる場所。二人で小さな未来を夢見た、不毛だけど大切だった土地。
それが、誰かにそう名付けられた“実験場”だった。
胃のあたりが、思い出すたびひっくり返りそうになる。
(許せるわけがない)
でも——。
『推奨:感情より先に情報収集および戦力整備』
「……分かってますよ」
小さく返事をして、顔を洗い、パンとスープの簡単な朝食を流し込む。ついでに昨夜【自動錬成】で作っておいた栄養強化ポーションをひと口だけ。
身体の芯がじんわり温まる。
『状態:安定』
『前回吸収呪詛の影響:問題なし』
「問題なしって言うなら、信じます」
深呼吸して、外套を羽織り、家を出た。
◇
冒険者ギルドの前には、既に二人がいた。
紺のマントに銀の胸当て、朝日にも乱れない金髪の女騎士と、柱にもたれてパンを齧る黒髪の情報屋。
「遅い」
エルザさんが眉をひそめる。
「約束の刻限より三分遅れだ」
「すみません。寝不足で」
「理由にならん。次はない」
「はい」
即答すると、彼女はふいと顔をそらした。
相変わらず容赦ない。でも、夜明け前からここにいるってことは、ちゃんと待っていてくれたんだよな。
「おはよ、旦那。顔色悪いけど、目は冴えてるな」
カイが笑う。
「悪いのか良いのか分からない評価ですね」
「夜中に何かいじってた顔だ。言っとくが、“黙って危険物触るな”ってルール、覚えてるよな?」
鋭い。ごまかしても無駄だ。
「“星喰いの標”を、自分でも少し解析してました。外側だけ。結果は、バルガスさんにまとめて渡します」
「単独で危険物をいじるなと言ったろう」
エルザさんの視線が冷える。
「自分の中に入れる前に、スキルの外で読める範囲だけです。無茶はしてません」
「“無茶はしてません”は無茶してる者の常套句だ」
「それは……否定できないです」
カイがぷっと吹き出す。
「まぁまぁ騎士サマ。今日はちゃんと“監視付き”なんだし」
「監視ではなく“同行”だ」
「昨日、自分で“監視”って——」
「行くぞ」
一方的に会話を切り上げて、エルザさんは踵を返した。
ブレない人だ。本当に。
◇
最初の目的地は、ギルドの奥にある鑑定室。
「入れ」
低い声に従って扉を開けると、薄汚れたローブに片眼鏡の男——鑑定士バルガスが、既に机一面に魔術器具を並べていた。
中央には昨夜預けた呪詛核の欠片、黒い残滓、そして黒札。
「来たか、“器”の坊主」
「その呼び方、本当にやめてほしいんですけど」
「事実だろうが」
ぶっきらぼうに言い捨てて、バルガスは黒札を指先で弾く。
「星喰いの標は処理した。追跡式は潰して、代わりにこっちから偽の信号を流す細工を仕込んである。今向こうが見てる“器の位置”は、フロンティア南方の山中だ」
「そんなことまで……」
「面白ぇオモチャだからな。で、本題だ」
バルガスの指が、黒い残滓と呪詛核を示す。
「結論から言う。残滓に含まれる黒鉄砂と呪詛核の術式パターンは完全に一致。同じ術者が組んだ呪詛だ。精神干渉で判断を鈍らせて、生気をじわじわ吸い上げる複合型。タチが悪ぃ」
「やはり……」
トレス村のあの異様な空気が、頭をよぎる。
エルザさんが問う。
「“実験区画”の文字は?」
「あった」
バルガスは短く答える。
「お前のスキルが拾った通りだ。肉眼じゃ見えん微細刻印だが、『実験区画:トレス村』としっかり刻まれてた」
室内の空気が、きしむみたいに重くなる。
「断定はできんが、“星喰教団”系の術式を使う連中が、トレス村と蝕まれし森を同じネットワークの“ノード”として扱っている可能性は高い」
「ネットワークなんて言葉を呪詛に使わないでほしいんですけど」
カイが眉をひそめる。
喉の奥から、勝手に言葉がこぼれた。
「つまり俺の村は……あいつらの“実験場”だったってことですか」
「感情で決めつけるな」
エルザさんの声が鋭い。
バルガスも首を振る。
「あくまで“候補”だ。ただ、偶然って線は薄いな」
「……ふざけるなよ」
低く漏れた自分の声に、少し驚く。
エルザさんが横目で俺を見る。
「復讐に走るな」
「走りません」
深呼吸。
「順番は守ります。森。鉱山。その先にいるやつらを辿ってから、トレス村に向き合います」
バルガスが口の端だけで笑った。
「賢い。で、残る問題はこれだ」
指先が、呪詛核の黒晶を叩く。
「黒鉄砂は“触媒”だ。呪いの本体はこの未知の黒晶に練り込まれてる。俺の鑑定じゃ鉱石の“出自”までは追えん。鉱石と呪術、両方に通じた本物の専門家が要る」
「……“槌音のドルガン”しかいない、ということか」
エルザさんの表情が、わずかに渋くなる。
「ああ。石ころ一つから産地の伝承まで嗅ぎ分ける化け物だ。偏屈で有名だがな」
「行くしかありません」
俺は即答した。
「どれだけ偏屈でも、この呪いを断つ手がかりになるなら、頭でも何でも下げます」
「威勢はいい」
バルガスが肩をすくめる。
「ならさっさと行け。“器”と“鋼鉄女”と“物好き”の三人なら、退屈はせんだろ」
「おう信頼されてんな俺」
「皮肉だ」
エルザさんが切り捨てる。
◇
ギルドマスターの執務室。
簡潔に報告を終えると、白髭の男は顎に指を当てた。
「槌音のドルガンか。懐かしい名だね」
「協力してもらう必要があります」
エルザさんが言う。
「呪詛核の鉱物的性質が分からなければ、森も鉱山も根から断てない」
「そうだろうね。ただし、あの老ドワーフは金でも権力でも動かんよ」
マスターは苦笑しつつ印章を押した羊皮紙を差し出す。
「紹介状だ。効くとは限らないが、ないよりはマシだ。あとは君たち次第だね、“器”殿」
「その呼び方流行らせないでください」
「残念だが既に一部で流行っている」
やめてくれ。
◇
槌音のドルガンの工房は、鍛冶師街区のさらに外れ、小さな谷の縁にあった。
古びた石造りの建物。使われていない煙突。外壁には、鉄塊や鉱石の山。
「ここだ」
エルザさんが重い鉄扉を拳で叩く。
「フロンティア冒険者ギルド。槌音のドルガン殿に面会を求む!」
静寂。
しばらくして、地の底から響くような低い声。
「……帰れ」
三文字なのに、空気がびりっと震えた。
「待ってほしい! これは街と周辺一帯の安全に関わる案件だ。“夢見の銀晶”と呪詛核について——」
「知るか!」
雷鳴みたいな怒声が扉の向こうから飛んでくる。
「街が滅びようが森が腐ろうが、わしの知ったことか! ギルドも騎士も商人も、まとめて失せろ!」
ガチャン、と内側で更に鍵がかけられた音。
「くっ……!」
エルザさんが歯噛みする。
「見事な追い返されっぷりだな」
カイが苦笑する。
(話に聞いた以上の偏屈さだな……)
このまま正面から叫び続けても、扉は開かない。
エルザさんが小さく言った。
「普通に頼んでも無駄だ。“本物”を嗅がせるしかない」
顎で合図される。
「アレン、“例の石”を」
「了解です」
俺は【アイテムボックス】から、一つの小さな鉱石を取り出す。
蝕まれし森の残滓ではなく、グレンデル鉱山近くで見つけた、微かに銀色を帯びた石。俺の“価値感知”が妙な反応を示したやつだ。
「ドルガンさん!」
扉に向かって声を張る。
「これは“本物”かどうか、あなたにしか分からないと思います!」
「うるせぇと言っとるだろうが——」
怒鳴り声が途中で途切れた。
扉の向こうから、気配が近づく。
「……今、何と言った、小僧」
「“本物”って言いました」
俺は鉱石を指で弾き、意識して【アイテムボックス】の“価値”の感覚を表面に滲ませる。
石が、淡く銀色に瞬いた。
分厚い扉の隙間から、ぎらりと金色の瞳が覗く。
「その光……見せろ」
「中で、じっくり見ていただけますか?」
「……入れ」
ガチャガチャと錠が外され、重い扉がきぃと開いた。
そこにいたのは、小柄だが岩のようにどっしりした老人。
白く長い髭。節くれだった太い腕。耳には金属片がいくつもぶら下がり、腰には使い込まれたハンマー。
ドワーフだ。
「槌音のドルガン」
エルザさんが名を呼ぶと、老人は鼻を鳴らした。
「名乗るほどのもんか。勝手にそう呼びおるだけじゃ」
ぐい、と俺の手から鉱石をひったくる。
皺だらけの指で撫で、爪で弾き、片目を細める。
「……ふん」
「どう、ですか?」
思わず身を乗り出すと、老人はにやりとも渋くもなく、ただ事実だけを告げた。
「ただの石じゃねぇ。“夢見の銀晶”じゃ」
息が詰まる。
エルザさんもカイも、わずかに目を見開いた。
「中で話す。外で喋る話じゃねぇ」
ドルガンはくるりと背を向ける。
「入れ。足元のもん蹴飛ばして座れ。遠慮するな」
「お邪魔します」
◇
工房の中は、混沌だった。
壁一面に棚。棚に詰まる鉱石、インゴット、道具、古びた巻物。床にも紙束と石が積み上がり、座る場所などない。
「そこ」
ドルガンが足で紙を薙ぎ払い、空いた木箱を指す。
俺とカイが腰を下ろし、エルザさんは立ったまま壁際に。
「で、嬢ちゃんらはギルドの使いだな」
「フロンティア治安維持騎士団、エルザ・シュタイン。正式に協力を——」
「断る」
即答。
「……理由を伺っても?」
「わしはもう引退じゃ。ギルドも騎士も商人も、上の都合で動く連中の下につく気はねぇ」
ばっさり。
エルザさんが言葉に詰まる。
分かる。この爺さん、正論じゃ動かない。
だから——。
「ドルガンさん」
俺は口を開いた。
「これはギルドの依頼っていうより、俺個人の相談だと思ってほしいです」
「ほう?」
老人の金の瞳が、じろりとこちらに向く。
「“夢見の銀晶”は、グレンデル鉱山でも見つかっています。そこで働く人たちが原因不明の衰弱に襲われてる」
「聞いとる」
「それと同じ線で、“黒鉄砂”が使われてる。俺の故郷で撒かれていた砂です。蝕まれし森も鉱山も、まとめて誰かに弄られている」
拳を握る。
「そいつらは、“星喰いの器”だの“真の器”だの、勝手な名前で俺まで巻き込もうとしてる。俺は、それが本気で気に入らない」
胸の奥がじりじり熱くなる。
「俺は、自分の力を、俺の畑と、大事な人たちのために使いたい。そのために必要な知恵がほしいんです。ギルドの都合じゃなく、俺自身のわがままとして」
部屋が静まり返る。
ドルガンはしばらく俺を凝視し、それからふん、と鼻を鳴らした。
「上等じゃ、小僧」
「え?」
「“ギルドの頼み”なら蹴っ飛ばす。だが“一人の小僧”が、自分の畑と女と故郷を守るために知恵を乞うなら、話は別じゃ」
カイが小声で「聞き方の問題だな」と笑う。
「ただし条件がある」
「条件?」
ごつごつした指が三本、突きつけられる。
「一つ。わしが教えることを、そのまんまギルドや王宮に流すな。必要な分だけ削って話せ」
エルザさんの瞳が細くなる。
「理由を」
「上におる連中は、“使えるもん”と見りゃすぐ鎖を付けるか潰そうとする。昔からそうじゃ。わしはそれが嫌でここに籠もっとる」
真正面から刺さって、さすがのエルザさんも言葉を飲む。
「二つ。わしが“やめろ”と言った使い方はするな。夢見の銀晶も黒鉄砂も、扱い方一つで地獄を作る。興味本位で触る阿呆には教えん」
「それは——守ります」
俺は即答した。
「三つ」
ドルガンはじっと俺を見る。
「わしが貸すのは“お前”だ、小僧。お前が自分で選ぶなら手を貸す。誰かの犬になるなら、その時は縁を切る」
「元から、そのつもりです」
迷わず頷く。
老人の口元に、わずかな笑みが刻まれた。
「よし。なら教えてやる。“夢見の銀晶”と、その巣の潰し方をな」
空気が変わった。
◇
「“夢見の銀晶”は、人の生気を食いながら、甘い夢を見せる石じゃ」
ドルガンは古い書を開き、図を指さす。
「単体でも厄介だが、“黒鉄砂”と組み合わせ、術式を刻めば、“思考誘導”の触媒にもなる」
エルザさんの視線が鋭くなる。
「思考誘導……」
「広い範囲に、“特定の感情”をほんの少しずつ増やす。焦燥、不信、憎悪、崇拝、そういうもんじゃ」
息が詰まる。
「トレス村で、妙に揃って俺を“祟りの器”扱いしてたのも……」
「連中の資質もあるが、“燃えやすくされてた”可能性は高ぇな」
カイが真顔で言う。
「それだけじゃねぇ」
ドルガンは鉱石を弾く。
「夢見の銀晶が溜まれば溜まるほど、その上におる奴らは気付かん内に意志を鈍らせる。心地良い眠気と倦怠で、自分で考えるのをやめていく。そこに“星喰い”だの“神託”だの囁きゃ、簡単に転がるわ」
「クソみたいな仕組みですね、本当に」
「だからこそ、こんなもん弄る連中はろくでなしなんじゃ」
ドルガンはページをめくり、別の図を示した。
「夢見の銀晶の鉱脈は、必ず“黒曜石英”と呼ばれる層で覆われる。黒くて硬そうで、実は脆い岩じゃ。こいつが“皮”になって、銀晶を守っとる」
「……見たことあります」
俺の【価値感知】が、あの妙な黒い層を思い出す。
「そいつを、正しい場所から“割る”んじゃ」
ドルガンはハンマーで机をこつんと叩く。
「黒曜石英は“硬くて脆い”。要は、要点を突けば簡単に砕ける。そこから内部の銀晶の巣へ辿り着ける」
「逆に、適当にぶっ叩けば?」
「暴走する」
老人はあっさり言い放つ。
「蓄えた生気と呪詛を一気に解き放ち、鉱山どころか周囲一帯を干からびさせる。街一つ飛ぶかもしれんな」
「さらっととんでもないこと言いますね」
「だから、わしが必要なんじゃろうが」
ドルガンはエルザさんを見る。
「グレンデル鉱山は、今どうなっとる」
「採掘量減少、衰弱者多数。“森の呪い”という噂も流布。アレンの感知では、直接的な呪詛より“魅了する価値”が壁の奥から」
「それで間違いねぇ」
ドルガンは頷く。
「お前の“器”はどこまで見える、小僧」
「価値の強さと、ざっくりした性質くらいです。黒曜石英も、言われてみれば“変な石だな”って反応でした」
「なら十分じゃ」
ドルガンはにやりとした。
「わしの目とお前の器で、鉱脈の位置を“特定”する。嬢ちゃんと鉱夫どもは、その通りに掘ればいい」
「アレン一人にそんな負担を——」
「危険なのは、素人が勝手に掘ることだ、嬢ちゃん」
ドルガンが遮る。
「こいつは“器”を持っとる。わしは石を見る。お前は剣を振る。役目を分けりゃいい」
理屈は筋が通っている。胃はキリキリするけど。
「つまり」
カイがまとめる。
「“鉱山救済作戦の鍵は、アレンとじーさんのタッグ”ってことだな?」
「そうなるな」
ドルガンはあっさり認める。
「明日、グレンデル鉱山へ行く。わしは足が悪い。馬車を用意しろ。道中と現場の護衛はお前らの仕事じゃ」
「ギルドの正式依頼として扱う。手配は私がする」
エルザさんが即答する。
「報酬は——」
「金はいらん」
ドルガンが手を振る。
「その代わり、小僧」
「はい」
「お前の【アイテムボックス】とやら、その“価値を見る眼”を、一度だけちゃんと見せろ」
空気がぴん、と張り詰める。
エルザさんの視線が、反射的に俺に突き刺さる。
カイも口元を引き結んだまま、様子を窺う。
「……どこまで、ですか」
「中身全部よこせとは言わんわ」
ドルガンは鼻で笑う。
「わしが見てぇのは、石じゃ。夢見の銀晶、黒鉄砂、黒曜石英。それとな……“星喰い”どもが好んで使う、もう一つの鉱石の話もしてやる」
「星喰い……」
(また、その名前だ)
「知りてぇだろ?」
挑発めいた笑み。
「お前の故郷を“実験区画”にした連中が、どんな“器”をこしらえようとしてるか。その材料ぐらいは、知っておいた方がいい」
喉が、ごくりと鳴る。
罠の匂いはする。けれど、ここで引いたら、ずっと“知らないまま”だ。
「条件、受けます」
静かに答えた。
「ただし一つ。俺のスキルの“核の部分”——内部構造とか、本質は誰にも話しません」
「当たり前じゃ」
ドルガンは即答した。
「器の心臓まで覗こうなんざ、教団の仕事だ。わしは“外側の石”が見えりゃ十分よ」
エルザさんが、小さく息を吐く。
「……ギルドとしても、その範囲なら許容する」
「カイさん」
「ん?」
「もし明日、話が変な方向に転びそうになったら止めてください」
「任せとけ。面白いもんを“壊される”のは俺も困るからな」
心強いような、不安なような。
◇
ドルガンの工房を出ると、昼下がりの光がまぶしく感じられた。
「やれやれ。ほんっと一筋縄じゃいかねぇジジイだな」
カイが伸びをする。
「でも、得た情報はデカい」
エルザさんも頷く。
「鉱山の件も、呪詛ネットワークも、“星喰教団”の影も。すべて一本の線で繋がりつつある」
「明日が本番ですね」
「気を抜くな」
エルザさんが念を押した、その時だった。
「アレン・クロフト殿でお間違いないでしょうか」
落ち着いた声が俺たちの前に割り込んだ。
振り向くと、銀刺繍入りの黒い外套を纏った細身の男が立っている。丁寧に撫でつけられた髪。胸元には、フロンティア商人組合の徽章。
作り物みたいな笑み。
「私はロデリック商会の者でございます。ロデリック会長が、是非一度、“奇跡のポーション”の作り手にご挨拶を、と」
ロデリック——黒鉄砂を大量に買い付けていると噂の商会。
胸の奥で【アイテムボックス】がざらりと震えた。
『負の価値:微弱検知』
『関連候補:黒鉄砂取引/星喰教団協力者』
(……来たか)
街の真ん中にいる“次の敵”。
男は笑みを崩さず、恭しく頭を下げる。
「“蝕まれし森”の救済者、“星喰いの器”殿と、ぜひとも実りあるお取引を——」
その言葉に込められた下心の値段を測りながら、俺は静かに息を吸った。
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