第18話 覚醒した女騎士団は、どうやら無双乱舞がお好きのようです
「やれ! やれぇ! あの生意気なアマを捕らえろ!」
ガストン伯爵のヒステリックな金切り声が響く。
それを合図に、数十人の私兵たちが一斉に地面を蹴った。
「悪く思うなよ、嬢ちゃんたち!」
「俺たちも仕事なんでねぇ、痛い目にあいたくなけりゃ大人しくしてな!」
私兵たちは、下卑た笑いを浮かべながら槍を突き出してきた。
彼らの狙いは、包囲網の中心にいる私だ。
数の暴力。
普通の女性なら、悲鳴を上げて
だが。
(……遅い)
私は冷めた目で彼らを見ていた。
彼らの動きが、まるでスローモーションのように見える。
いや、私の目が良くなったわけじゃない。
私の周りを守る彼女たちが、あまりにも「速すぎる」のだ。
ヒュンッ。
風を切る音が一つ。
「――え?」
先頭を走っていた兵士が、間の抜けた声を上げた。
彼の持っていた槍の穂先が、音もなく地面に落ちたからだ。
スパッ、と切断された断面は、鏡のように滑らかだった。
「な、なんだ……!?」
兵士が足を止める。
その目の前に、銀色の旋風が舞い降りた。
レオナ団長だ。
彼女は泥を拭われた美しい顔で、冷ややかに兵士を見下ろしていた。
その体からは、黄金色のオーラが
「……遅い」
彼女は私の心の声を代弁するように呟いた。
「貴様らの剣速は、止まって見える」
「ふ、ふざけるな! たかが女が!」
兵士が腰の剣を抜こうとする。
だが、その手が柄にかかるより早く、レオナ団長の剣が閃いた。
カキンッ! ジャララ……ッ!
兵士の鎧の留め具だけが、正確に斬り飛ばされた。
ガシャン、と音を立てて鉄の鎧が崩れ落ち、兵士は下着姿(ステテコ)で寒空の下に晒される。
「ひぃっ!?」
「シズ様が見ておられる前だ。血は見せない。……だが、その汚い装備は目障りだ。脱いで失せろ」
「ば、バケモノだぁぁぁっ!?」
兵士は悲鳴を上げて逃げ出した。
それを見た他の兵士たちが動揺する。
だが、もう遅い。
スイッチの入った
* * *
「ふんッ!!」
ドォォォォォンッ!!
バリア副団長が大剣を一振りすると、衝撃波が発生した。
五、六人の兵士たちが、枯れ葉のようにまとめて吹き飛んでいく。
「か、軽い……! 大剣がまるで羽毛のようだ!」
バリアさんが自分の筋肉を見つめて
「シズ様の愛(バフ)が……筋肉の繊維一本一本にまで充填されているのを感じる! 今の私なら、山でも砕けるぞ!」
「山は砕かなくていいです」
私がツッコミを入れる間もなく、彼女は剣の腹で兵士たちを「ぺちん」と叩いた。
それだけで、屈強な男たちがピンボールのように弾き飛ばされ、木の上に引っかかって気絶した。
一方、新人のリリィちゃんも覚醒していた。
「ひぃぃっ! こ、来ないでくださいぃぃ!」
彼女は泣きながら、めちゃくちゃに剣を振り回している。
……ように見えるが、その軌道は神がかった精密さだった。
シュパパパパッ!
襲いかかってきた兵士たちのベルトが切断され、ズボンが一斉にずり落ちる。
「うわぁっ!?」
「パンツが! 俺のパンツが!」
「ごめんなさいぃぃ! 私、ドジなので手元が狂っちゃうんですぅ!」
「どこがドジなの!? スナイパー並みの精度だよ!」
リリィちゃんが通った後には、パンツ丸出しでうずくまる男たちの
「……シズ様」
私の隣で、サキュバスのリリスが呆れたように呟いた。
「これ、私が洗脳するまでもありませんわね。むしろ敵さんが可哀想になってきましたわ」
「うん……私もそう思う」
戦場――いや、一方的な
私の【全範囲祝福・極】によって強化された騎士たちは、強かった。
元々、彼女たちは「女だから」という理由だけで冷遇されていただけで、個々の実力は王国のエリート級だ。
そこに「全ステータス大幅アップ」と「シズ様への愛(狂信)」が加わったのだ。負ける要素がない。
彼女たちは舞うように、歌うように戦っていた。
その姿は、泥にまみれていた数分前とは別人のように美しく、神々しかった。
「綺麗だ……」
私は思わず呟いた。
暴力的なシーンのはずなのに、彼女たちが振るう剣閃は、芸術品のように洗練されていたからだ。
* * *
数分後。
立っていたのは、騎士たちだけだった。
ガストンの私兵五十人は、全員が武器を破壊され、鎧を剥がされ、あるいはズボンを失って、地面に転がっていた。
不思議なことに、死者は一人もいない。
重傷者すらほとんどいない。
ただ、「圧倒的な実力差」という心を折る刃で、精神だけを斬られたのだ。
「ば、バカな……」
ガストン伯爵が、ガタガタと震えながら後ずさった。
「私の精鋭部隊が……手も足も出ないだと? 魔法も使わず、剣技だけで……?」
彼は信じられないものを見る目で、騎士たちを見た。
息一つ乱さず、返り血一滴浴びていない、涼やかな顔の美少女たちを。
「鉄屑……ではなかったのか? 女などは、男の飾り物ではなかったのか……?」
「時代遅れな認識ですね」
ザッ。
レオナ団長が、ガストンの前に歩み出た。
彼女は剣を鞘に納め、冷徹な瞳で元上司を見下ろした。
「我々は飾り物ではない。シズ様が『綺麗だ』と言ってくださった、誇り高き騎士だ」
その言葉と共に、彼女の後ろに騎士団全員が整列した。
バリアさんも、リリィちゃんも、全員が胸を張っている。
その姿は、どんな勲章よりも輝いて見えた。
「ひっ……!」
ガストンが腰を抜かし、尻餅をつく。
さっきまでの威厳は見る影もない。ただの怯える中年男だ。
「く、来るな! 私は伯爵だぞ! 私に指一本でも触れてみろ、国家反逆罪で……!」
「触れませんよ。汚いですから」
私が、レオナ団長の後ろから顔を出した。
「さて、ガストンさん。勝負はつきましたけど」
私はニッコリと笑った。
もちろん、目は笑っていない。
「まだ続けます? 次は私の『お掃除(物理)』の時間ですけど」
私の背後で、リリスが楽しそうに爪を伸ばし、騎士たちがゴゴゴゴ……と音を立てて殺気を放つ。
「ひぃぃぃぃッ!!」
ガストンの顔色が、青から白、そして土気色へと変わっていく。
ここからが、私のターンだ。
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