第2話 姫宮、華麗な高校生活の崩壊
「あぁ、やっちまった。」
何度目になるか分からない後悔を口にする。
俺は環境美化委員の仕事の一環で姫宮さんと水やりをして、そこで姫宮さんに自分が不埒な本を読んでいるというレッテルを貼られたくないために、姫宮さんのパンツを見た。
何言ってんだこれ、意味わかんねぇ。
あれ以来、もちろん姫宮さんとは一言も交わすことはなく、初日の水やりからはもう一週間が経ってしまった。正直、交互に水やりをしようと機転を利かせた風の発言をした俺をずっと呪っている。そのせいで俺は姫宮さんに謝罪する機会をずっと逃したままになっている。まぁ一緒にやろうと決めていても姫宮さんは水やりには来ないだろうけど。
教室での姫宮さんの様子はというと、、様子を伺うこと事自体も目が合った時のことを考えると恐怖で足がすくむほどなのだが、普段の所作に変化はなかった。いつも通り凛とした佇まいで授業を受け、女子から何か話しかけられれば、無難な返答を返す。そんな日常だ。
そして、俺の周りからの目というのも相も変わらず何も変わっていなかった。いつも通り、特に話しかけられることもないけど、あからさまに避けようとするわけでもない。人畜無害ないてもいなくても変わらない人間、という感じで彼女が例の一件について誰かに話したということもなさそうだった。まぁ姫宮さんの普段の行動的にあまり仲のいい友達というのは見当たらなさそうだし、当然のことなのかもしれないが。
正直なところ、申し訳ないと思っている自分とクラスでの評価が何も変わってないことに安堵している自分がいる。
そんなことを考えながら、俺の怯えながら姫宮さんの様子を観察する学校生活は2週間が経とうとしていた。
ある日俺が休み時間に本を借りに図書室へ行き、教室に戻ってくるとクラスの様子が普段とは異質なものになっていた。
なんかみんなピリピリしてないか?
普段なら友達と大騒ぎをしている男子も、叱られた子供のようにしゅんとして静かに椅子に座っているし、女子たちは女子たちでひそひそと何か小言を話しているようで、嵐の前の静けさのような静寂がクラス全体を包んでいた。
「姫宮さん、ちょっと話してもいい?」
静寂な教室の雰囲気をぶち壊すように別のクラスの女子生徒が教室に入っていき、姫宮さんに話しかけた。彼女の声には明らかな怒りの感情が含まれている。
「何かしら?」
「姫宮さん、少し前に工藤くんのことこっぴどく振ったらしいわね。」
教室の男子たちがひそひそざわめく。
「工藤のやつ、ちょっと前に絶望した顔で教室に来てたらしいぞ。」
「あいつたしか工藤のこと結構前から好きって周りに言いふらしてたやつだよな?だからあんなにキレてんのか。」
「まぁでも確かに、ちょっと姫宮の態度はちょっと気が強すぎるよな。正直怖いし。」
「毛ほども好きじゃない男子を振って何が悪いの?後腐れなく振ってあげてるだけ優しいでしょ?」
姫宮さんはいつもと変わらない態度でさも当然かのように冷酷に言い放った。
うわ、これはまずいぞ。
姫宮さんは多分この一件で完全にクラスで浮くことになるだろう。彼女は美人だからそれを疎んでいる女子もいたことだろうし、この件でクラスの女子たちからは完全に距離を置かれ、男子からしても「工藤をこっぴどく振った」という点で姫宮とわざわざ関係を築こうとするやつはいない。
いじめられるのもそうだが、距離を置かれるというのはそれだけでもとても辛いんだ。ぼっちで空気みたいな存在で生きるのとはわけが違う。空気が自分を異物と見なして常に排除しようとする感じ。考えただけでもいやな気持ちになる。やべ、中学の時のこと思い出しそうだ。
姫宮さんに詰め寄った女子生徒は、もう取り繕う必要がないといった様相で、目の前にいる彼女に罵倒した。
「あんたって本当に最低ね!ちょっと顔が整っているからって性格がねじ曲がったゴミクズ女なのよ!」
そういった女子生徒は激高して、今にも姫宮を殴ろうと距離を詰めている。どうすんだこれ。誰かあの暴走女止めろよ。このままじゃ暴力沙汰になっちゃうぞ。姫宮さんもあの女もただの言い争いじゃすまなくなる。本当に誰か止めて!頼むからお願いします、俺はあんまりこういう展開は好きじゃないだよ!
「ちょっとまてよ姫宮ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
クラス中の目が俺の方を向いた。
ああ終わった。
「お前俺のこと振ったくせに、俺があまりにも付き纏ってきてうざいからって、他の男子をこっぴどく振るのは違うだろ!俺は姫宮のそんなところに惚れたわけじゃねえぞ!解釈不一致だ!あやまれ!」
周りの人間はいきなり今まで空気のような存在だった俺の怒涛の喋りに呆然としている。
「ちょっと、小宮山くん?なにをいって・・・」
「本当に工藤くんごめんなさい!俺のせいで姫宮は変わってしまったんだ!ああ俺の好きな姫宮はどこに行ってしまったんだ!姫宮は酷いやつだ!全員に早くあやまれよぉぉぉ!!!」
俺は自分でも何を言っているのか分からない支離滅裂とした発言を残した挙句、恥ずかしさのあまりそのまま涙目で教室を飛び出してしまった。
俺はラブコメが大好きだが、ラブコメの登場人物にはなれない。多分… おりあい @Oriai55
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺はラブコメが大好きだが、ラブコメの登場人物にはなれない。多分…の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます