遠くに、いくつもの情景がひらけていく

指の輪から少しずつ世界が立ち上がってくるような、ゆったりとした読書体験でした。
遠くを眺める視線の先に、いくつもの情景が次々とひらけていく構成が印象的で、どの場面も「説明」ではなく、光や音や空気の手触りから静かに立ち上がってくる感じが心地よかったです。
一つひとつの景色に、それぞれ違う時間の流れや温度があって、読みながら自然とその続きを自分の中で想像したくなりました。ときどき、今いる場所へふっと意識が戻ってくる瞬間もやわらかくて、長い夢からゆっくり覚めていくような余韻が残ります。
静かな時間をゆっくり味わいたいときに、またページを開きたくなる一編でした。