社長…強すぎるぜ…


部屋に入ってきた社長の名前は、山倉大吾。

世界規模の事務所、Vnearを支える大黒柱であると同時に、社長系Vtuberという類を見ないジャンルを自ら作った事で一躍有名となった人物である。


アンノウンは何となく気づいていたが、挨拶とは言うものの、これは恐らく三途を見極めているのだろう。

今はアンノウンだけど。という御託はさておき。

彼は、前述の通り世界規模の事務所を支える人物だ。勿論そのキャリアは計り知れたものではない。

その彼がわざわざ訪れるのだ。明らかに自分を。…いや、三途を見極めているとしか思えない。


そして、先程と同じ表現になってしまうが、彼は挨拶と言っておきながら、アンノウンに多くのことを質問した。それもくどいくらいには。

勿論アンノウンじゃそれに対して、全て敬語で答えた。

もっとも、三途本人は目上の人や初対面の人に対しても全く敬語を使わない不遜な輩がなのだが。

そうして数十分後。聞きたいことを一通り聞きたことを聞き終わったであろう山倉がアンノウンの目を射抜くようにまっすぐと見ながら、どこぞの新世紀なロボットの指揮官の様に手を組んだ。

上の説明にエヴ○と言いたい君は少し口を閉じていよう。


「それでは最後の質問です。…貴方は本当に地獄ノ三途さんですか?」


そんな的外れだが的確な質問にアンノウンは小さく目を見開いた。

そして言う


「勿論そうに決まっているじゃないですか。どうしたんです? 急に」


さもありなん。といった感じでアンノウンは飄々と言った。

それに対し、山倉は答える。


「理由はおおよそ三つ程。一つ目は、貴方は初配信で敬語が苦手で滅多な場所では使わないと言っていたので、この場で敬語を使っているのはおかしいのでは。と」

「…でも目上の人相手…ましてやVnearの社長相手にタメ口なんて、私には恐ろしくてできませんよ」


アンノウンは、笑顔を浮かべながら文字通りにこやかに言うが、山倉は以前として鋭い眼光のまま、構わず質問を繋げる。


「二つ目に、貴方の仕草です。確かに容姿などは三途さんによく…いや、瓜二つですけど、人っていうのはそう簡単に仕草などは変えられないものです。そして貴方は確かに三途さんの様な仕草をしていましたが、全部じゃない。ところどころで、まるで男性の様な仕草をするタイミングがあったんです。無意識レベルでしたけどね」

「…男の人…ですか? それはおかしいですね。どうしたんでしょう」


アンノウンは、他人事の様に静かに言うが、内心ではこの推理にかなり驚いている。

ここまで的確にアンノウンと三途の違いを区分した人物など、家族と親友以外に会ったのは初めてだ。


「そして最後……まあこれはあまり関係ないと思いますけど、一応。こちらも初配信での情報ですが、普段のものと服装が違い過ぎる。三途さんが着るのは、基本的に暖色系の洋服…だったはずです。ですが寒色系の洋服を着ています。三つ目は抜きにしても、これ以前の問いから貴方を三途さんというのは些か気が引ける」


そこまで言うと、山倉はアンノウンを軽く睨みながら問う。


「貴方は何者ですか?」


と。


アンノウンは、他所行きの笑顔でにこやかに微笑み続けるが、内心はビビり散らかしながら焦っていた。


「(まずいまずいまずいまずい! バレたか? なあ嘘だろ! お前は俺らの親族か何かかっつの! 普通分かんないだろ! な〜にが“男みたいな仕草“だぁ?! 知るかよ! 俺だって知らんわそんな事! 喋り方?! 仕草?! アイツのは大仰すぎて泣けてくんだよ! 完全再現は俺には無理だくそっ!)」


汗ダラッダラながらに、彼はなんとかこの場を切り抜ける打開策を考え出した。

普通にバラせばいいのでは、と思うかもしれないが、そうはいくまい。

バレたら、最悪事務所所属を断られる可能性があるからだ。

なにせ、Vnearは女性限定の事務所だ。

アンノウンの存在がバレ、その上男だと知られたらどうなるか。

そんなこと考えたくない。

アンノウンは頭を抱えたくなった。


「…どうされました? 何かおありですか?」


山倉は、笑顔で言うが、目の奥が全く笑っていない。

刺す様な目に変わった山倉の目がアンノウンを貫く。


「(いてえ。いてえよホントに痛い。嘘だろマジでコイツ。なんなんだよマジで。っつうか、いっそのことバラすのもアリか? いやでもそれで急遽落とされでもしたら三途に面目が…!)」


万策尽き、彼はとうとう一か八かの賭けに出ようとしていた。

どうせ今の質問を否定したところで、再び別の質問が飛んでくるには目に見えていた。

となれば、彼に残されているのは賭けしかなかった。


「…チッ、あーくそ。お手上げだ」


アンノウンは遂に諦め、降参を示す様に両手を上げ、元の口調で話し始めた。


「……は?」


それを真正面から喰らった山倉が、目を点にしてアンノウンを見つめる。

それを見て、アンノウンはため息混じりに説明を始めた。


「はあ…単刀直入に言うぞ。質問も何も受け付けないし、一回しか言わないから覚悟して聞けよ? 山倉社長。地獄ノ三途…っつうか何ていうか…俺たちは、解離性同一性障害……まあつまりは多重人格っつう障害持ちの人間なんだよ」


アンノウンが言うと山倉は面食らったような顔を数秒間してから、こめかみを持っていたボールペンでグリグリと揉む様にしながら、なんとも言えない表情で言う。


「な、なるほど……? ということは貴方は…?」

「ああ、体は三途。中身は…名前はないから家族とかにはアンノウンで通してる。よろしくな」

「ええ、よろしくお願いします」


山倉は、先程までとは打って変わった顔で、フレンドリーそうにそう言った。


「…っていうか、俺が言うのもなんだが、お前ホントにコレ信じるのか? 自分で言うのもなんだが、かなりSFチックだろうが。俺が三途のフリして嘘言ってる不審者って線もあるんだぜ?」


とそこで、ごもっともな疑問を感じたアンノウンは、眉を疑問顔に歪めながらそう質問する。

それに対し山倉は、こう答えた。


「ああ、それはですね。貴方に渡しておいたあの紙あるでしょう?」

「…紙…っていうと…あれか? なんか色んな書類がまとまってた…」

「それです」

「あれに何があるんだよ?」

「実はですね。あれ、超小型の指紋認証の機械が中に組み込まれてまして。それに、親族や本人以外の指紋が付着すると、まずこの建物自体に入れなくなっていたんです」

「お、おお…そうか。なるほど…」


確かにそれならば安全だろうな。とアンノウンは思った。


「じゃ、俺らのことは容認してくれる…ってことでいいのか?」

「…そうですね…今後の動向を見て。というのも勿論です。ちなみに聞きますけど、貴方。この事務所で不祥事でも起こし気で?」

「ハッ、ンなわけ。アイツの夢をいっちゃん近くで見て、誰よりも応援するって決めてんだ。やるわけないだろ」


アンノウンの馬鹿正直な目を真正面から見ながら、山倉は言う。


「分かりました。これで言うのは2回目になりますかね? まあいいでしょう」


「ようこそ。Vnearへ。歓迎いたします」


乗り切ったという喜びに浸りながら、アンノウンは静かにかつ小さくガッツポーズを決めるのだった。

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多重人格系Vtuber(ガチ) ヘビーなしっぽ @HEBISIPO

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