第6話 放課後

放課後のチャイムが鳴ってから、すでに30分が経っていた。

教室にはもう、数人しか残っていない。

窓から差し込む夕日が机の上を赤く染めていた。


「えっと……このポスター、あとここ塗れば終わりだね」

愛華が色鉛筆を手に取ると、翔太が隣で頷いた。

「うん、俺ここ線引くね」


カリカリ、と鉛筆の音だけが静かに響く。

外では部活の掛け声が遠くに聞こえ、教室の空気が少しだけ温かく感じられた。


「ねぇ鈴木さん」

「ん?」

「こういうの、一緒にやるのって……なんか新鮮だね」

翔太は一瞬手を止めて、少し照れくさそうに笑った。

「そうだな。永野さんって、真面目だし、丁寧にやるから助かる」


「そ、そんなこと……ないよ」

顔を上げると、ちょうど目が合った。

その瞬間、心臓が跳ねる。


(ち、近い……)


「……あ」

翔太が手を伸ばした瞬間、愛華の指先と翔太の指が触れた。

ほんの一瞬だったのに、胸の奥が熱くなる。


「ご、ごめん! ペン、取ろうとして」

「う、ううん! わ、私こそ!」


二人とも慌てて視線を逸らした。

けれど、どちらも顔が真っ赤なのは隠せなかった。


そのとき、教室のドアがガラッと開く。

「おー、まだやってたの?」

優香が顔を出して、にやりと笑った。

「ふたり、いい雰囲気じゃん?」

「ゆ、優香!?」

「ははっ、翔太、顔真っ赤だぞ!」と、後ろから圭人の声もした。


「もう〜っ!」

愛華は頬を膨らませながらも、心の中では少しだけうれしかった。


(この時間が、終わらなければいいのに……)

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