第3話:秘密基地
停学中は教室で授業を受けられない代わりに、グラウンドの草むしりなどの奉仕活動が待っているという罰ゲーム付き。
明日からその奉仕活動は実施するという説明を受け、大変な一日が終わろうとする。
そんな中、優里奈と共に学校から帰宅する帰り道である。
「ちょっと、何してるの?」
優里奈が怒ったように小声で問いかける。
「あたしが名前を出さなかったら超限さんは別に停学にならなかったじゃない」
慶史は肩をすくめた。
「黙って見ていられなかったんだよ。主催したのは俺なんだから、責任は取る」
優里奈はしばらく黙っていたが、ふっと笑った。
「そっか……案外正義感あるんだ」
「……正義は嫌いだ」
慶史はそうつぶやいて歩き出す。
優里奈は、その背中を見ながら言った。
「ま、いいや! 停学記念に遊ぼうよ。そうだ! あたしと一緒に街中で勝手に花植えたりする? 学校の裏には秘密基地もあるんだよ」
優里奈の懲りない態度を見て、「コイツとは仲良くやっていけそうだな」心の中でそう思う慶史であった。
※ ※ ※
「こっち、ついてきて」
校舎の裏手にある林を優里奈に案内された慶史の前には、無数の緑の草木が芽吹く不思議な光景が広がっている。
「花畑。いや、まだ芽ばっかだけどね」
優里奈はしゃがみ込み、小さな芽をそっと撫でながら微笑む。
「そこ、前に枝豆の種蒔いたんだ。それが発芽しててさ。六月ぐらいには食べれるっぽいよ」
学校の裏で、誰も知らない小さな命が息づいてる。
「こんな場所があるなんて……」慶史は内心驚きを隠せなかった。
「うん。放課後とか、夜とか毎日来てるんだ」
整備された地面には学校の椅子も置かれていた。おそらく勝手に持ってきたのだろう。
そこで優里奈がポン、と椅子を手で叩く。
「ここ座って!」
椅子に腰かけた慶史を見て、優里奈は唐突にこう言った。
「それでは、本日は今話題のデモ主催者・超限外部さんこと楜澤さんにインタビューしまーす!」
両手で仮想のマイクを握り、ノリノリで進行する優里奈。
「楜澤さん、あなたは一体何者なんですか?」
慶史はクスっと笑って答えた。
「お察しの通り、革命家です」
「ほう、革命家ですかー。革命って何するんですか?」
「悪い大人たちを倒すことです」
「じゃあ具体的に、悪い大人達をどうやって倒すのですか」
慶史は少し考え込む素振りを見せ――。
「まあ……校則にデモ禁止って追記させないようにするところからかな」
優里奈は吹き出して笑った。
「それじゃあ保守じゃないですか!」
「革命の伝統を守る事も革命家の役割なんだよ!」
「ん? 革命家なのに伝統を守るの?」
優里奈は首を傾げた。
「そうなんだよ。表現の自由を守らないと表現ができない。破壊思想の伝統を守らないと破壊が出来ない。なんでもかんでも新しくすりゃいいってもんじゃないんよ」
「ほーん、なかなかアクロバットなんだね」
優里奈は腕を組み、慶史の話に耳を傾けながら少し考え込んだような表情を浮かべる。
「破壊の伝統を守る革命家かぁ……なんかよくわかんないけど、面白いね。でもさ、じゃあ逆に、超限さんは破壊の伝統を守った後に何を壊したいの?」
「既存秩序とその外部の間にある壁」
「うーん。既存秩序? 要するに今ある状態とその外の間? それってなあに?」
「一つは資本主義だよ」
「資本主義……ちょっと待ってなんだっけそれ」
優里奈がスマホを取り出し、検索をかける。
「えーと、『資本主義とは、個人が資本(土地、資金、施設など)を所有し、労働者を雇って生産や商売をする経済体制』って」
優里奈がきょとんとした顔をする。
「正直、難しいっす」
「だろうね」
慶史がそういうと言葉を続けた。
「いや、これは俺が簡単に説明できないと遺憾。要するにお金とルールで今の社会が回ってるじゃん。そのルールを強引に壊すことが革命だよ」
「えーそれじゃああたしが言ってる世界征服と真逆じゃん!」
「そうなんよ。でも革命起こした後に世界征服もできるよ」
「あっそっか、そもそも世界征服をするのにルール守ってたらできないよね」
そこで優里奈は正気に戻ったかのようにある事に気づいた。
「あれ、それって危なくないの?」
「……世界征服を掲げてた奴が何を言う」
「あっ、じゃあさ、じゃあさ、超限さんのハンドルネームの「超限外部」ってどういう意味なの」
「世界ってどこまで行っても資本主義なんだよ。国家や地球の中ではお金だけど、広い意味で言えばエネルギー全般が資本になる。要するに宇宙はどこまで行っても資本主義という現実があるんだよ。その仕組みの外の外の外と言ったら宇宙の彼方にある万物の法則そのものになるんよ。その外に突破するという意味」
「えー、考えすぎじゃね⁉ キモいよー‼」
優里奈は大笑いしながらニヤけてる。
「おいおい、あんたが世界征服するってぶっ飛んだ事を言うから俺も言ったんだよ。なんだよもう‼」
「そっかー、キミも真面目でバカだったんだねー。ふーん」
ニヤけた優里奈がその場に座り込んで、背中を慶史の脚にもたれかける。
そこで慶史は言葉を続ける。
「革命って世の中をよくする事と必ずしも同じじゃないんだよ。言ってみれば侵略行為で迷惑なんだけど、ただ俺は「退屈だからいっちょ暴れようか」ぐらいのノリで生きていきたいからね」
慶史の言葉を聞いて、優里奈は少しの間、静かに空を見上げた。夕陽が差し込む校舎裏の空間に、二人の沈黙が心地よく響く。
「退屈だから暴れようか、ね……」
優里奈は小さく呟くと、振り返って慶史を見上げた。
「でもさ、そういうのって、やっぱり覚悟いるよね」
「覚悟?」
慶史は首を傾げる。
「うん。「退屈だから」っていう軽い理由でも、実際に行動するには勇気がいるでしょ。ほら、あたしだって「花で世界征服する」とか言ってるけど、実際にはコソコソやってるだけだし」
優里奈はそう言って、自分が育てている小さな芽を指差す。
「これとか、ただの空き地でひっそりやってるだけで、別に誰かと争うつもりなんてないんだよね。ただ、自分がここで好きなことやってるだけ」
「それでいいんじゃないか?」
慶史は優里奈の背中に少し触れるようにして言った。
「誰かに見せるためじゃなくて、自分が楽しいからやる。それだけでも立派な行動だろ」
優里奈は一瞬目を丸くし、それからにっこり笑った。
「へえ、いいこと言うじゃん。意外と頼れるね、超限さん」
「おい、意外とってなんだよ。俺が本気を出したらなー。ハチミツがなくならない壺だって用意できるわ。そんぐらいのノリでドンと俺に頼れ」
慶史は苦笑いしながらも、少し照れたように視線を逸らした。
優里奈は立ち上がり、慶史の目の前に立つ。
「でもさ、せっかくならもっと面白いことしようよ」
「面白いこと?」
「うん。この『花畑』をもっと派手にするの! もっと大きくして、みんなをびっくりさせるくらいにね」
「それって、つまり……?」
慶史の言葉を遮るように、優里奈が勢いよく両手を広げた。
「――校庭全部を花で覆い尽くしちゃおう!」
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