第2話 中編
その出鼻をくじいたのは前線付近に着いてすぐの医療所だった。
赤く染まったタオルがあたり一面に置いてある。
「今日の死傷者数は?」
「現段階で122名です」
看護師と思われる人達が死傷者数の確認と思われる会話をしている。
よく見てみるとそこらかしこに学園で見た事のある人達が倒れていた。
「ようやく着いたか」
空気を震わせるほどの低音。奥から男がやって来る。
「君たちの事は知っている。この前線を指揮しているノームだ。よろしく頼む」
そういうと男は帽子を外しこちらへ一礼する。
「早速で申し訳ないが君達にはこれから戦地へ出てもらう。…ああそれと治癒能力に優れた彼女だけはここへ残るように」
淡々と指示を出していく男の言葉を誰かが遮った。
「あの、ちょっと待ってください。我々はまだ着いて初日ですよ。戦況だって正確に理解できていない…それなのに事前情報なしに前線へ出ろと言うんですか」
そう言ったのは交流試合で嵐を生み出した彼だった。
数秒の沈黙が起こる。
「…最もな意見だな、手短に話そう。まず戦況だが数は圧倒的にあちらが多い。基本的に魔王軍が命を惜しまずに突っ込みその後を皇国軍の兵が続いてくる。ただのごり押しに我々は押され続けているのだ。魔王軍は自然治癒力も高い。少し削った程度では何度でも起き上がり進行を止めることはないだろう。…だから君達にはその前線を大きく削ってもらいたい。」
男は目を閉じ一呼吸置く。
「一人一人が軍隊並みの力を有する君達であれば可能だ。君達と同等の力を持つ4年のレンネル君は現在負傷し前線から離れてしまっているが一人で数千人を討ち取る功績を上げた。それに習い君達はひたすら前線の敵を始末してくれれば良い。分かったな?」
その場で何か口答えをする者など誰一人現れなかった。
戦地へ向かう道中大男は皆を鼓舞する様元気よく希望の言葉を話していた。
「大丈夫だ!俺達が死ぬことはない!この半年間で強くなったじゃないか!俺達でこの前線を守り切ろう!最前線の敵は俺とフィジカル組に任せろ!魔法に優れた人は俺達が食い止めてるうちに後続部隊を狙ってくれれば良い!そうすれば勝てるさ!」
「…何を根拠に話してんだよ。さっきの見ただろ。死んでんだよ!ここで何人も。…それに人を殺す覚悟がお前にはあるのかよ。」
先程も口答えをしていた彼の反論は最もだった。
「あるさ。」
男は間髪入れずに答える。
「…そんな覚悟決まってんのはお前くらいだ…少なくとも俺にはない!死にたくもないし殺したくなんかもないんだよ!!」
「……殺さなきゃ良い。敵を動けないようにしてくれれば俺がとどめを刺す。」
周囲がざわつく。しかしそのざわつきを収めたのも大男の言葉だった
「俺の目標は誰一人死なずに国へ帰ることだ。その目標の為だったら幾らでも手を汚して見せる。…だから、皆俺を信じて欲しいんだ」
賛同も否定も誰も何かを言うことはなかった。
ただ彼らの目には確かに光が宿っていた。
「後ろは任せたぞ皆、最前線は俺、ソゥド、ナギータ、ケンポー、ウィンド、プヨーそして…」
男は僕に肩を回し目配せした。
「みんな勝とう!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
しばらくすると戦地へ辿り着いた。
何万もの軍人たちが既に最前線で戦っていたが状況は芳しくない様に見える。
「魔法組はあの高台へ…俺達はこのまま前線へ行く」
大男は戦地を見つめると前へ歩みだした。
「…死ぬなよマッスル」
後ろからの言葉に振り返らない。
「…ああ、死なねえさ。……野郎どもいくぞおおおおおおおお」
そう叫ぶと彼は前へと力強く走り出した。僕らもその後に続く。
圧巻されるほどの景色が目の前に広がる。
マッスルはまるで木の棒でも振り回すかのように敵の頭を持ち上げ投げ飛ばしている。彼に続くようにとケンポーとウィンドによって最前の敵兵は後方まで殴りとばされ周囲は戦闘不能に陥った敵兵が並んでいた。
マッスルは容赦なく転がった敵兵の頭を潰しながら前線を上げていく。僕もそれに習う
同時に後方魔法組から放たれた氷塊が天から降り注いだ。
甚大なダメージを与えているは明らか。敵軍更に後方には落雷や嵐による攻撃も見受けられた。
それに加えこちらには際限なく湧く命の無い兵が無数にいる。
当たり前のようにマッスル含め僕たちは前線をどんどん前へ進めていく。
しかしある時後方からの魔法がぴたりとやんだ。同時に無数の命無き兵が形を失い土へと転がっていく。
何かをしくじったと理解した時にはもう遅かった。
後ろを振り返った際鈍い刺突音と共に僕の意識と右目は黒く染まっていた。
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