孤高の凡人は転生者に囲まれる ~誰一人として死に戦へ挑もうとしないから僕が先陣を切る~

小菅駿

第1話 前編

「誰一人としてこんなとこで死にたくねえんだよ!!」

そう力強く叫んだ大男を静かに見つめる。

ぼやける視界の中でこの生傷だらけの大男が入学式で爽やかな笑顔を浮かべていた彼だと気付くのにそう時間は掛からなかった。




入学した時点でその将来が約束されたも同然と呼ばれる士官学校、超サイノー学園、そこへ凡人の自分が入学したのは半年前の事だった。

各々が高い戦闘技術や能力とそこそこのペーパーテストで試験を突破する中、僕は満点のテストと微妙な実技試験でこの学園へ入ることを認められた。


入学式当日、新入生代表挨拶で笑顔が印象的な大男が壇上へ上がった。


「暖かな春の日差しがふりそそぐこの良き日に、私達はここ超サイノー学園に入学します。私達は驕ること無くこの学園の存在意義、『対立国であるツヨスンギ皇国や共通の敵であるイバヤ率いる魔王軍へ対抗する為の有能な人材育成』に報いるため素晴らしい仲間達と共に勉学や訓練に全力で取り組むことを誓います」


記憶の中で彼が話していた事を思い出す。

同時にこの言葉をきっかけに僕は覚悟を決めたのだ。


思い返せば僕の代は歴代最強であると呼び声が高かった。

なんでも年に数人しか入ってこないようなエース級の戦闘能力をもった生徒が大半を占め、精神性も十代とは思えないほど卓越した人物が多くいたかららしい。


とはいっても、それはあくまで周りの事であり僕は蚊帳の外だった。

魔法実技の授業ではライターの火程度しか起こせない自分に対して殆どは1メートル以上の火球を作っていたし、それが出来ない者はフィジカルや武術面で優れていたから、その落差によく絶望した。

そんな自分でも必死に食らいついて半年で50センチ程の火球を生み出せるようになったし体重も15キロ増やした。


まあその分自分が成長するより速いスピードで周りは強くなっていくのだから落ち込むことは多かった。


ある者は剣術に優れ、飛ぶ斬撃を生み出していたし、ある者は光術に優れ、自動レーザー魔法を生み出していた。そしてある者は治癒に優れ、欠損した部分さえ直すヒーラーとなった。


こうして僕以外すべての人間が何かに秀でた人材へと成長していったのだから最強の代と言われるのも合点がいく。


その強さが世間へ、ひいては世界へ知られるようになったのは今から二か月前、8月に行われたツヨスンギ皇国有する国立士官学校との交流試合だった。

今にして思えばこの試合が戦争を引き起こすきっかけになったのは間違いないだろう。


元々対立国であるツヨスンギ皇国と僕らの国にはパワーバランス等あまり差がなかった。

だからこそ冷戦状態が続いていたし戦争に発展する事はなかった。

そこへ40年前、人類に対し有害な敵対心を持つイバヤ魔王軍が急遽台頭してきたのだから二つの国が手を取り合うのは早かった。

共通の敵に対処するため不戦条約を交わし戦力充実のため年に一度の士官学校交流試合を設けたのも40年前の話である。


長年拮抗し続けた戦力がこちら側に傾きだしたのは2年前から。

とはいっても上位数人を除けばほとんどは拮抗していたし、平均的な強さは皇国側の方が秀でている様だった。

それが完全に瓦解してしまったのが二か月前の交流試合。


それは試合とは名ばかりの蹂躙だった。

数十の兵をものともせずに投げ飛ばし攪乱する者、仲間の安全そっちのけで嵐を生み出す者、そしてその嵐に耐えうる肉体と継戦能力を備えたほとんどの生徒たち。

中には粗悪ではあるものの自分の兵士を土から呼び出す者さえいた。


たった一つの種目のみで皇国側上層へ抱かせた危機感は計り知れない。

この力はやがて魔王軍を滅ぼし、皇国を侵略するに足るものであることは明らかだった。




対魔王軍共同戦線の最前線で爆発事故が起こったのは交流試合終了から数週間後だった。

皇国側はこれを故意による爆発、攻撃性の意思があるものであったと主張。


一方的に共同戦線を解除し現在の戦争が開幕することとなった。

最悪なのは皇国側が魔王軍と共に攻めてきたこと。


彼らが協力して潰しに来るほどの影響力を僕らは大々的に見せつけてしまったのだ。


戦況は良くない様だった。

それを裏付ける様に戦争開始から一か月ほどで学徒出陣の要請がなされる。


初めは僕ら1年を除く2~4年が戦地へと繰り出された。

二週間ほどして僕らにも出陣命令が下る。

しかし戦地へ向かう列車の中は比較的和やかだった。


僕ら大国側は最前線こそ突破されたものの、そこから先は防衛できていたし、先に出撃した先輩方の誰かが殉職したという話も聞かなかった。それに何より彼らは自分達の力が絶大である事、負ける訳が無い事を知っていた。

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