第7話「寵愛」【アスマ視点】
「あなたは、シャロ家の魔女様の寵愛を受けることだけを考えればいいの」
精霊と縁を結ぶことができるという特権は、唯一の存在という特別を与えてくれる。
「シャロ家は、アリドミアにはいない……」
「ええ、アリドミアにはいないわ」
精霊が関わらなければ解決できない事件が増えれば増えるほど、
「だから、奪っちゃいえばいいの」
物心つく頃から、両親は
「最終的に、魔女様をソーンの家に取り込めば何も問題はないわ」
見たことも、会ったこともないシャロの魔女様に好意を寄せなさいという一種の洗脳。
そんなことを思った時期もあったけど、生まれる前から育まれてきたシャロ家と
いつかは魔女様に会えるっていう期待だけで、明日を迎えるのがほんの少しだけ楽しみに思うようになってきた。
「あー……なんで、俺と約束、交わさないんだよ……」
「ユウが殺気立ってるから……」
「はぁ」
学園から帰る途中、アリドミアのはずれにある森の神殿跡にユウとよく足を運んだ。
世の中はシャロ家と
木々に囲まれ、ひっそりとした雰囲気が漂う場所で、俺とユウは一体でも多くの精霊と約束を交わすために時間を費やした。
「無理無理、俺、一生! アスマには勝てない……」
「
「それは話が違う」
人に懐きやすい性格をしている光精霊や闇精霊に囲まれながら、俺たちは未来に想いを馳せた。
「……やっぱり、ユウも魔女様のこと?」
「一度も会ったことなくても、
「意外……」
「でも、それが愛に変わるかどうかって、別だろうなって」
精霊たちに囲まれていると、自分の気持ちを素直に打ち明けられるような気がした。
言葉を交わし合っている相手はユウでも、俺たちは精霊たちを無視することなく自分の心の内を曝け出していく。
「俺は、両親に……家族に恩を返したい」
ヘイル家の次期当主であるユウは、優しすぎるところがある。
自分の夢だけを語ればいいのに、自分の夢の中に家族の笑顔を含むことができる。
「だから、俺は簡単にシャロ家の魔女様を諦めきれない」
自分とは違う生き方をする優しい幼なじみの元に、聖精霊と呼ばれる治癒の力を得意とする精霊が歩み寄った。
「っ、聖精霊っ」
ユウが驚いたのは無理もなく、聖精霊の力を借りることができれば魔法使いとして大きな力を手に入れることになる。
医者いらずになるほどの強力な治癒の力を持つ聖精霊は、俺には目もくれずにユウを真っすぐに見つめる。
「力……貸してくれるか……?」
聖精霊は、ゆっくりとユウに近づいた。
大きな青い瞳は自分の瞳に似ているのに、目の前にいる聖精霊はユウだけを瞳に映し出す。
聖精霊は一歩も引くことなく、興味深げにユウを観察していく。
(ユウは、やっぱり優しすぎる……)
ヘイル家の次期当主であるユウに特別なものを感じ取った聖精霊は、ユウに継承されている
(魔女様は、力ある魔法使いが好きなのかな……)
古い木造の家々が並ぶ通りを歩きながら帰宅していると、窓から漏れる明かりが家族の温かみを感じさせた。
「ママー、ごはんは?」
「パパ、呼んできて」
「はーいっ」
時折、家の中からは笑い声や話し声が聞こえてくる。
そんな温かな家庭の音に耳を傾けるだけで幸福を感じることができるのに、
「アスマっ!」
自分の家に足を踏み入れると、木の軋む音と同時に響いた音があった。
強烈な痛みが頬を襲い、何が起きたのか理解できずに立ち竦んだ。
「ヘイル家が、聖精霊を手に入れたって本当なの!?」
手の平を押さえながら母は冷たい視線を向けながら、なんの躊躇もなく俺を責め立てた。
「どうして、どうして、どうして……」
「ごめん、なさい……」
頬がじんじんと痛む。
悲観的になっている母親を慰めるための言葉を模索しようとしたのに、母の厳しい表情と言葉の壁に遮られる。
「ただでさえソーン家は序列が低いの! これ以上、ヘイル家に有利な材料を与えないでっ!」
「ごめん……なさ……」
母親の鋭い言葉に、心が沈んでいくのを感じる。
自分を掬い上げるための言葉を再び模索してみるけど、浮かんできた言葉に母が耳を貸す余裕はないと諦めた。
(シャロ家も、
談話室の壁に掛けられた古びた時計を見ながら、早く時間が過ぎ去ればいいのにと何度も何度も願いを込めた。
時を速める力を持つ精霊が登場するという奇跡を起こすことができない自分は、明日も未来もひとりぼっち。
家族の冷たい視線と非情な言葉と、ほんの少しの暴力は、今日も未来の自分をも苦しめていく。
(シャロ家も、
これを努力をやめた魔法使いに渡すことで、長く続いてきたシャロ家と
「これで……いい……」
精霊の力を授かったノーナは、都合が良すぎるくらい次々に犯罪へと手を染めるようになった。
ノーナの心が力に飲み込まれていけばいくほど、精霊を危険と考える人たちが増えていくと信じた。
一般人が堕落していく様は、自分にわずかな希望を与え始めていく。
「やっと……終わる……」
小さな声を拾ってくれる人は現れず、このままノーナが嫉妬の感情に囚われていくのを待つだけだと思っていた。
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