信じてた騎士と親友に利用された私、星祭の儀式で穢れを焼き払って自由を掴みました!
Yuki@召喚獣
信じてた騎士と親友に利用された私、星祭の儀式で穢れを焼き払って自由を掴みました!
雪が静かに降り積もり、世界を白く染めていく。窓の外では白い結晶が舞い落ち、王都の夜を優しく包み込んでいた。
聖女の館は今夜の「星祭り」の準備で賑わっている。廊下の奥から神官たちの祈りの声が響き、香草の甘い香りが漂ってくる。
——でも、私の心の中だけはひどく静かだった。
私はこの世界を清める特別な力を持つ「星の聖女」。辺境の森から王都へ呼ばれて、もう三年になる。この三年でたくさんの祈りを捧げ、多くの人に希望を届けたはず。
でもその代わりに「普通の少女」として過ごす時間をどこかに置き忘れてしまった。それでも耐えられた。王都の人たちの冷たい視線も聖女という重い役割も。
——だって、私には愛する人がいたから。
この国の騎士団を束ねるアレン様。彼の笑顔を見ているだけでどんな寒さも乗り越えられた。私は鏡の前に立つ。映るのは森で育ったせいか少し素朴な顔立ちの少女。でも肌は雪のように白く、髪は夜空を映したような深い青。この髪が「星の血を継ぐ証」だとみんなが言う。
それなのに私はこの髪が少し怖い。——自分だけがこの世界で違う存在だって教えてくれているみたいで。
アレン様とは王都に来てすぐに出会った。あの頃私は何も知らなくてただ怖くて震えていた。アレン様はそんな私に優しく手を差し伸べてくれた。
「怖がらなくていい。君の未来は、僕が護るから」
って。あの言葉が私の心を照らした。それから私はアレン様を信じて疑うことなんて考えもしなかった。彼の温かな視線が私の支えだった。聖女の役割が辛い時もアレン様のことを思うだけで心が軽くなった。
……そしてフィオナ。彼女は公爵家の娘で私の筆頭補佐官。金色の髪を優しく揺らし、いつも自信たっぷりに微笑む。フィオナは私が王都のしきたりを知らない時に丁寧に教えてくれた。
二人で夜遅くまで話したり庭を散歩したり。彼女の瞳には気品と優しさが宿っていて、私はフィオナを本当の友だちだと思っていた。聖女として孤独を感じる時、フィオナの存在が心の隙間を埋めてくれた。
——そんな二人に支えられて私はここまで来られたのに。
「……アレン様、待っていてくださるかな」
自分の声が鏡の中でかすかに震えた。今夜の星祭の打ち合わせ。約束の場所は館の裏庭にある古い「力の貯蔵庫」。そこは誰も近づかない秘密の場所。私とアレン様だけの特別な場所だった。
星祭はこの国で一番大事な行事。星の力が最も強まる冬の夜に聖女が祈りを捧げ、世界の穢れを清める儀式だ。普段は神官たちが聖壇で光を集め祝福を振りまく。でも今年は特別。
私の力がピークを迎え、次の聖女へ移すための儀式も行われる。力の譲渡は聖女の心と星の光が合わさって起きる。聖壇の中心で手を組み星石の輝きを体に取り込み、それを新たな器へ流す。心が純粋でなければ力が暴走する。失敗すれば大惨事になる。……でもアレン様がいるから大丈夫だって思っていた。
初めてアレン様と出会った日のことを思い出す。王都に来て間もない私に彼は穏やかに微笑んだ。あの一言が私の世界を変えた。
それから私たちは貯蔵庫で何度も会った。アレン様は私の髪を優しく撫でて「君の力は、この国を救う光だ」って言ってくれた。あの温もりが心の底から嬉しかった。
「リリアーナ様、アレン様がお待ちです」
背後で声がして振り返る。フィオナが立っていた。彼女の金色の髪が灯りの下で優しく輝く。瞳にはいつも通り自信と優しさが混ざっている。
「ありがとう、フィオナ。すぐ行くわ」
礼を言うとフィオナは完璧な笑みを浮かべた。でもその笑みの奥に何か揺れるものがあった気がした。……でも私は気にしなかった。この時少しでも違和感に気づけていれば。
館を抜け裏庭へ向かう。雪を踏むたびぎゅっと小さな音がする。空気は冷たく刺さるけどそれさえ心地いい。
今夜アレン様に会える。それだけで心が温かくなった。アレン様は私のすべて。フィオナは私の大切な友だち。こんなに幸せでいいのかなって思うくらい。
「アレン様……?」
貯蔵庫の裏口が見えた。でもそこから聞こえてきた声に私は足を止めた。
「……これで聖女の力は、星祭の儀式でフィオナに移る。リリアーナはもう用済みだ」
世界が止まった。耳が変になったのかと思った。……でも続く声がはっきり響いた。
「本当に? リリアーナ様の力は強大よ。完全に奪えるの?」
——フィオナ。あの優しい笑顔の持ち主。でもその声には友情なんて欠片もなかった。
「問題ない。彼女は僕を完全に信じている。『君の未来は僕が護る』——あの言葉を愚直に信じてね」
アレン様の声。私の世界を照らした光の声。でも今は氷の刃みたいに胸を裂く。
「愛を囁けば、何でも差し出す。力も地位も、『僕たちの未来のために』と言えばね」
あの優しい言葉も手も、すべて芝居だった。愛じゃなく利用されていた。その事実が心の中で崩れ落ちた。
「これで君が新しい聖女だ、フィオナ。僕の隣に立つのは、辺境の娘じゃない。この国を導くにふさわしい、真の伴侶だ」
アレン様がフィオナの腰を抱く。二人の息が白く混ざり甘く溶けた。その光景が私の「信じたい」という気持ちを殺した。
カツッ。——雪の下の小石を踏んだ音。二人が止まった。アレン様が振り向く。青い瞳。かつての空の色はなく氷の冷たさだけ。
「……リリアーナ」
名前を呼ばれても声が出ない。喉が痛い。涙も出ない。世界が音を失う。——ああ、これが裏切りなんだ。
心が理解した瞬間胸から何かがはじけた。悲しみも怒りも超えて世界の色が消えた。足元の雪さえ灰色に見える。
「逃げても無駄だ、リリアーナ。君の全ては、もう僕のものなんだから」
アレン様の冷たい声が背を貫く。その瞬間私の中で何かが変わる。——もう終わりだ。彼らの思い通りになんてならない。この裏切りは必ず返す。
雪が舞う夜、星明かりが滲む中、私は走り出した。足跡が白に刻まれるたび心に小さな火が灯る。冷たい怒りとまだ消えない希望の光。
「……私は、絶対に負けない」
その言葉を胸に私は裏庭を抜け闇へ駆けていった。
裏庭で立ち止まっていた私を、アレン様とフィオナはすぐに追いかけてきた。雪の粒が髪に積もり息が白く揺れる。冷たい風が頰を刺し、足元では雪がきゅっと音を立てて沈む。
彼らの足音が近づくたび心に緊張の糸が張りつめる。——まるで糸が切れそうなほど、ぴんと張りつめて……。
二人は私が裏切りを知ったかもと疑いながらどうにか言いくるめようとしている。フィオナの息遣いが少し乱れ、アレン様の視線が探るように私を捉える。……でももう遅い……。
私の世界はすでに崩れ落ちてしまったのに。
アレン様が駆け寄る。
「リリアーナ……どうしたんだ。そんなに急いで……」
いつも通りの完璧な笑み。でももうその笑顔に心は動かない。かつてはあの一筋の微笑みが私の闇を照らす灯火だったのに、今はただの仮面。冷たく輝く氷の仮面のように見える。
今真実を問い詰めれば儀式前に排除されるだけ。愚かさを装うしかない……。胸の奥で怒りが渦巻くのに、表面だけは穏やかに保つ。——これが、私の復讐の始まり。
私は息を整え怒りを押し殺して泣き崩れる演技をした。膝が震え、視界がぼやける。雪の冷たさが体に染み込み、まるで心まで凍てつかせそう。
「ごめんなさい、アレン様……あまりに寒くて急いで戻ろうと焦ってしまったの」
自然に涙が出た。でもその涙は心からじゃない。ただの生理反応。裏切りの痛みが体を震わせるだけ。アレン様の表情が緩む。不安が消えたみたい。
——彼の瞳に映るのは、いつもの「純粋で脆いリリアーナ」。それが、私の武器になる。
彼は私を泣くしかできない純粋な女だと信じている。その傲慢さが心を冷たく締めつける。
——どうして気づかないの? 私の涙が、どれほど空しいものか。
「心配したよ。急に走るから」
アレン様は優しい声に戻る。あの声。かつては甘い蜜のように心を溶かしたのに、今は毒のよう。彼は私を抱きしめ私は無言で涙を流す。その涙は演技の小道具だ。腕の中で感じる体温が、嘘くさく胸を抉る。
——アレン様の腕がこんなに冷たく感じるなんて。昔はこの温もりがすべてだったのに。夜毎に夢見て、触れ合うだけで幸せが溢れたのに。今はただの嘘……。この腕が、フィオナを抱いていたなんて。想像するだけで吐き気がする……。
翌日フィオナが謝罪に来た。部屋に入るなり、彼女の金色の髪が揺れ、いつもの気品を纏う。でも瞳の奥に怯えがちらつく。
「昨日はごめんなさいね、リリアーナ様。私、体調が優れなくて……あなたを一人にしてしまって……」
声が少し上ずる。唇を噛む仕草が、焦りを隠しきれていない。——可愛らしい演技。でも、私にはもう通用しない。
私は微笑み手を握る。彼女の指が冷たい。私の涙で濡れた指先が、彼女の肌に触れる。
「気にしないで、フィオナ。あなたにはいつも助けてもらっているもの」
優しく言う。心の中では、嘲笑が渦巻く。フィオナの瞳に安堵が広がる。——本当に分かりやすい……。彼女はこれで秘密が守られたと思っている。私の笑顔を、いつもの「騙されやすいリリアーナ」の証だと信じて。
その日から私は二人にさらに従順になった。アレン様の言葉に素直に頷きフィオナの指示に笑顔で従う。朝の祈りの準備を手伝い、夜の打ち合わせで意見を述べず、ただ穏やかに微笑むだけ。
誰も私の瞳の奥の炎に気づかない。彼らが利用するほど私は偽りを見抜く……。アレン様の視線が満足げに私を撫で、フィオナの声が甘く響くたび、心の闇が深くなる。
——でも心の中は嵐。フィオナの笑顔を見るたび友だちだと思っていた自分が哀れ。裏切りを知った夜胸が痛くて眠れなかった。ベッドで体を丸め、息を潜めて涙を堪えた。
どうして信じてしまったんだろう。聖女として孤独だったから? 王都の華やかな世界に怯え、誰かにすがりたかったから? それともただ純粋すぎた……?
森の少女だった頃の自分を思い出し、胸が締めつけられる。あの頃は、星の力なんて知らずに、ただ木漏れ日の中で笑っていたのに……。
そんな私の傍に一人だけ仮面を見抜く男がいた。
護衛のゼノス・クロウフォード。帝国出身の元騎士で戦場で負傷した時私の魔法で命を救った。恩義で護衛を務める。黒い外套を纏い、常に数歩後ろに控える彼の存在は、三年の間、私の影のように寄り添っていた。
彼は口数が少なく表情を変えない。銀の瞳が静かに周囲を観察するだけ。でも私が無理に笑う時目を細めて見る。その視線が「無理をするな」って言っているみたいで心が痛む……。まるで、私の心の傷を優しく撫でるように。
ゼノスとは三年の付き合い。でも最初はただの護衛だった。徐々に彼の静かな強さが心に染みた。アレン様の華やかさとは違う落ち着いた存在。言葉少なに剣を携え、館の廊下を歩く姿が、頼もしく感じるようになった。聖女の役割が重い時ゼノスの視線が支えになった。
——彼だけは嘘がない気がする……。戦場を生き抜いた瞳に、偽りの色がない。
夜私は彼に真実を打ち明けた。蝋燭の炎が揺れる控え室。部屋は薄暗く、外の雪が窓を叩く音だけが響く。ゼノスは黙って聞く。私の言葉が途切れるたび、静かに息を吐く。
「……彼らはあなたの力をただの道具と見誤っている」
低く響く声に静かな怒り。普段抑えた感情が、わずかに滲む。
「ですが聖女の真の力は“心に宿る正義の輝き”です。あなたが抱く想いがすべての浄化の源となる」
その言葉が胸に染みる。——そうだ、私の力は譲渡されるものじゃない。心の鏡だ。
私は頷く。
「ええ……だから私はこの力で彼らの心の穢れを引き出してあげる」
声が震える。復讐の決意が、熱く胸を焦がす。
ゼノスは何も言わず肩に手を置く。大きな手が、優しく重い。その瞳が「お間違いない」って告げる。——その瞬間温もりが広がった……。久しぶりに感じる、本物の温もり。裏切りで凍った心が、少し溶けていく。
——ゼノス、ありがとう。あなたがいなければきっと壊れていた。アレン様の裏切りで心が凍りついた時あなたの視線が唯一の光だった……。これから先の闇を、共に歩めるかもしれない。
アレン様とフィオナ。私の愛と信頼を踏みにじった二人。その報いは彼らの栄光で支払わせる。夜風がカーテンを揺らす。雪が舞い星が瞬く。その光が私の決意を祝福する……。静かに、でも確実に。
星祭の朝。大広間は星の光で白く染まる。高い天井から降り注ぐ淡い輝きが、床の絨毯を銀色に輝かせ、壁の彫刻を柔らかく浮かび上がらせる。
私は手を組み目を閉じる。昨夜の記憶が刃のように脳裏をよぎる……。裏庭の冷たい雪、フィオナの甘い息遣い、アレン様の冷徹な言葉。あの瞬間から、私の心は氷の牢獄に閉じ込められたままだった。
——儀式の詳細を思い出す。星祭は星の力が満ちる夜に聖女が聖壇で祈りを捧げる。中央の星石が脈動し、光の奔流を呼び起こす。聖女はその光を体に取り込み、世界の穢れを清める。
そして力の譲渡。手を重ね、想いを流す。心が純粋でなければ力は暴走する。過去に一度、譲渡に失敗した聖女がいて、王国は三年の闇に覆われたという。でも私はもう純粋じゃない。決意だけだ……。復讐の炎が、胸の奥で静かに燃え続ける。
「リリアーナ、こちらへ」
アレン様が手を差し出す。笑みが同じ。——あの完璧な曲線、優しく細められた瞳。でも今は、すべてが偽物に見える。光の粒子が彼の金色の髪に絡み、まるで王冠のように輝くのに、心は闇。
「大丈夫。僕を信じて。この儀式で君は重荷から解放されるんだ」
声は優しい。かつては蜜のように甘かったのに、今は毒の滴。——解放? あなたが私を縛った鎖から? 笑わせるわ。
「……はい。アレン様」
微笑み返す。でも指はぬくもりを求めない……。触れれば、嘘が肌に染み込む気がする。聖壇へ進む。貴族たちの視線が針のように刺さる。囁きが波のように広がり、香しい花の匂いが混じる。
隣にフィオナ。金髪が輝く。あの夜の笑顔と同じ。——あの笑顔で私に「緊張する」って言っていたのに……。今は勝利の予感に満ちている。
(どうして気づかなかったの? あの瞳の奥に、貪欲な光が宿っていたのに……)
心が軋む。でも迷わない。——今日すべて終わらせる……。この手で、二人の仮面を剥ぎ取る。
大司教の詠唱が響く。低く、荘厳に。星石が光り輝きが体を満たす。熱い奔流が血管を駆け巡り、髪が逆立つ。視界が白く染まる。
「聖なる星よ——新たな器へ、清き力を」
手に光が集まる。熱く重い。でも決意の証……。これが、私の力。裏切りを照らす鏡。
アレン様が微笑む。フィオナが息を呑む。——予定調和の舞台。すべてが、彼らの脚本通り。
私は口を開く。
「私は聖女リリアーナ。この力は清き心を持つ者へ継承されるべきものです」
声が響く。広間の隅々まで届く。光が強くなる。星石が共鳴し、空気が震える。
そして続ける。
「そして私はこの聖なる力を以て——偽りの愛と私利私欲に満ちた者たちを裁きます」
空気が凍る。アレン様の笑みが消えフィオナの顔が青ざめる。貴族たちのざわめきが波のように広がる。
「な……リリアーナ?」
アレン様の声が震える。——初めて見る、怯え。
光を向ける。白銀の輝きが爆ぜ聖壇を覆う。奔流が渦を巻き、二人の体を包む。
それは祝福じゃない。穢れを焼く裁きの光……。罪を暴き、魂を炙る炎。
「ぐっ……! あああああっ!」
アレン様の髪が焼け顔が歪む。完璧だった輪郭が崩れ、瞳に恐怖が宿る。——これが、あなたの本当の顔。
フィオナも声を上げる。聖衣が焦げ、膝が崩れる。
「嘘よ……! 私が新しい聖女に……!」
絶望の叫び。光が罪を暴く。裏切り偽り欲望……。二人の心に巣食う闇が、鮮やかに浮かび上がる。貴族たちが息を呑む。
「アレン様。あなたは私の愛を道具にした。フィオナ。あなたは友情を踏み台にした」
言葉が光とともに刻まれる。光が強くなり光の檻ができる。二人が閉じ込められ、逃げ場を失う。
「もう二度と——穢れた手で私に触れないで」
胸の氷が砕ける。涙じゃなく解放感……。三年分の重荷が、音を立てて崩れ落ちる。心が、初めて自由になる。
背後から足音。群衆の間をゼノスが歩く。黒髪銀の瞳。静謐。ざわめく人波を掻き分け、まるで嵐の中の岩のように。
彼は聖壇に上がり私の前に立つ。動作が凛々しい。外套の裾が翻り、剣の柄に手が触れる。
「聖女様、こちらへ。危険でございます」
低く落ち着いた声。——でも、その瞳に揺れるのは、私への心配。
「ゼノス……」
「ご心配には及びません。——これ以上貴女を傷つけさせはいたしません」
言葉に心が震える。穏やかで強い……。三年間、影のように寄り添ってくれた存在。今、初めて前に立つ。
「……ありがとう。もう大丈夫です」
「ええ。よく耐えられました、聖女様」
アレンとフィオナの叫びが消える。光が収まる。静寂が戻る。ゼノスが肩を支える。温かく心を包む……。この手は、嘘じゃない。
「これからどうなさいますか」
「私は……聖女ではなくただのリリアーナとして生きたい」
声が震える。でも確か。ゼノスは目を細め頭を下げる。
「かしこまりました。……その道をお護りいたします」
聖壇の上私とゼノスだけ。鐘が鳴る。終焉と再生の音……。新しい朝の訪れを告げるように。
雪が止んだ。離宮の一室で目を覚ます。体が重いけど心の重荷がない。窓を開け風が頬を撫でる。聖堂の尖塔が白く伸びる。でも“聖女リリアーナ”はいない。
「お目覚めでしたか、聖女様」
ゼノスが立つ。外套に雪の光。
「……もう“聖女様”ではありません」
ゼノスは微笑む。
「承知しております。……ではリリアーナ様と」
胸が温かくなる。
「ありがとう、ゼノス。あなたがいなければ……私は壊れていました」
ゼノスは目を伏せる。
「私はただ貴女がご自身を取り戻されるまで傍にいただけでございます」
「それでも救われたの」
窓辺を見る。雪解けの滴が光る。小さな芽が顔を出す。
儀式後王国は混乱。アレンとフィオナの失脚制度の見直し。でも私は関わらない。復讐は終わった。残るのは私の「これから」。
「ねえ、ゼノス。……あなたはこれからどうするの?」
「私は貴女の護衛としてここにおります。たとえ称号が失われようと——貴女の意思がある限りでございます」
「でも私はもう誰かに護られる人間じゃないわ」
ゼノスは寂しそうに笑う。
「……ええ。それが何より嬉しくございます」
言葉に心が温かくなる。彼は剣を抜かず心で支えてくれた。
「ねえ、ゼノス。いつか私が“誰かを信じてもいい”と思える日が来たら——その時また傍にいてくれる?」
沈黙の後頷く。
「もちろんでございます。……その時こそ私は本当の意味で貴女の隣に立ちましょう」
笑みがこぼれる。外に虹が渡る。私は息を吐き空を見上げる。星が優しく瞬く。
“純粋であること”は従うことじゃない。自分を赦し歩き出すこと。
私は呟く。
「ありがとう、ゼノス。そして……ありがとう、私」
ゼノスが頭を垂れる。
「リリアーナ様。これよりどこへ向かされますか」
「そうね。まずは……この国を出てみたいわ」
「旅でございますか」
「ええ。聖女じゃなくただの女として。星の見えない場所でもう一度“光”を探したいの」
ゼノスが近づき見つめる。
「ではその道行きをお護りいたします」
「……護衛ではなく同行者として」
彼は驚き微笑む。
「かしこまりました。リリアーナ様」
その笑みに希望が広がる。光が部屋を満たす。私は空気を吸う。——星の聖女はいない。ここにいるのは少女リリアーナと騎士ゼノス。
その物語はまだ始まったばかりだ。
信じてた騎士と親友に利用された私、星祭の儀式で穢れを焼き払って自由を掴みました! Yuki@召喚獣 @Yuki2453
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