第24話 竜人伝説

 ヴィッセンは城に来てから、竜舎に入り浸りたいというのが本音な所だが、現在竜の薬が少ないらしく薬作りや、先日生まれた子馬の様子見などで忙しく、お昼時間などに少し様子を見るのがやっとの状態だった。


「やっぱり、フラナさんがいても駄目なものは駄目なんですね…」

フラナが一緒にいれば自分も触れるのではないかと淡い期待をしたが、いつも自分の命が危険に晒されるだけだった。


「フラナさんは、きっと竜人の血を深く継いでいるんですね」

それが昨日、ヴィッセンに言われたフラナも初耳だった言葉だ。



「竜人?竜人とは何だ??」

竜騎士として生きてきたイルでさえも竜人という言葉を初めて聞いた。

「私も詳しい事は分からないのですが、人間という種族と、竜族という種族がいたという事らしいです」

ヴィッセンはそんな話をイル達にはしないのに、何故フラナにだけそんな話をして不安にさせたのか。


「話は本人から詳しく聞く。だが、フラナ…君がその竜人だからって差別したりとかそんな事はないから其処だけは安心してくれ」

イルは副団長を探して、ヴィッセンをすぐに連れてくるように言った。


「竜人とは何だ?」

副団長に連れられてヴィッセンが来るなり、イルは話の本題に入った。

「り、竜人とは以前、人間とは異なる竜人という種族がいた。という話です」

イルに激しく睨まれながら副団長も初めて耳にする竜人という説明をした。


「竜人についてお前が持ってる情報を全て話せ」

尚もぶっきらぼうにイルは問いかける。

「…竜人は竜の上位種族で、竜と共に山や森などで暮らしていたそうです。例えるのなら、古来より人間は馬や犬などの動物を上手く使い自分達の生活を豊かにしてきました。竜人にとっては竜がその役をしていたという事です」


フラナを竜人だと思ったのは、此処にいる竜の全てがフラナに対して警戒心を持たないからだった。

「竜人の体液は竜を癒し、また竜の体液も竜人を癒せる。だから、竜人と竜という異なる種族であったのに、二種は協力関係にあった。と、されています」


その件に関して、フラナがヴィッセンに話したかは分からないが、覚えがあった。

フラナがランによって怪我を負った時に、傷が瞬時で治った事があった。


そして、ランがあの闇の竜のブレスに包まれ生命力を吸い取られ続けていた時にもブレスの力が消えた。その時、フラナはランの近くにいて、涙を流していた。


「竜は竜同志で群れる事はないと聞きましたが、竜人の元ではある程度群れをつくる事もあったようです。そして、とある竜人と人間が恋に落ち、子供が産まれた」

竜同志で群れる事がないというのは、その通りだろう。

此処にいる竜達も相棒がいるから此処にいるだけで、竜同志でのコミュニケーションを取る姿はほとんど見られない。


「その子供を気に入った一匹の竜がいたそうです。竜人は街や城といった人間が作り出した営みを嫌った為、人間は竜人と共に森で生きる道を選び、子供は竜に乗り旅に出た。それが、私が故郷で聞いた竜人伝説です」

此処を目指すまでの間に立ち寄った街や村でも図書館を中心に色々探したが、竜についても、特に竜人については全く探す事が出来なかった。


「私は、その竜に乗って旅に出た竜人と人間の混血児が此処にいる竜騎士団の皆さんのルーツではないかと考えています」

何処の街でも見つけられない竜の研究に、竜人という種族の事。

あれは、ただの故郷で流行った歌だったのか。と思いかけもしたが、此処で竜を見て、竜騎士との繋がり、何よりフラナの存在を見て、ヴィッセンは自分が探し求めていたものが、ただの夢物語ではなかったと確信出来た。


「………確かに、この国を作った初代の竜騎士は、あちこちを彷徨い、竜と共に暮らせる場所を探して、此処に留まる事を選び、其処に人が集まり、今の国ような形になっていった。のが始まりだとは聞いた事がある」

街や村で竜と暮らすのは難しかったのだろう。竜と暮らせる地を求めて辿り着いたのが、この地だった。と、そうイルはこの国の歴史を学んできた。


ヴィッセンの言う通り、竜人と人間の混血児か、その子孫が初代だった可能性はある。

「私は、混血児の血を深く継ぐのが竜騎士団の皆さんで、竜人の血を深く継いでいるのがフラナさんなのではないかと思っています」


ヴィッセンの言う竜人という種族が本当にいたのならそうなのだろう。

フラナの母親が世間的には隠されている所を見ると、母が竜人の血を濃く引いている人物だったのかもしれない。

「ただ、竜人伝説について書かれた本も、竜の研究を記された本も存在していなく、物証がほとんどありませんが…」


ヴィッセンが言うように、初代がこの国を作ったのもかなり昔の話だ。

あちこちからやってきた人達でつくられたこの国には、文字という概念がなかったから、当時を記したような資料も残っていなく、口伝えや後世になってから記された物しか存在していない。


「そうか、竜については俺達も知らない事も多い。怪我がないようにして、研究を続けてくれ」

竜が何処からやってきたのか。動物のように性別の概念がない竜がどうやって生まれてくるのか、それすら知らないのだ。


「ただ、それが本当かどうかも分からない状態で無暗に話すのは禁止とする。これは俺達竜騎士団での秘匿扱いにする。お前も、それは守ってもらう。守れないのなら、この城からは出て行ってもらう」


フラナが動揺したように、竜を崇拝しているこの国に竜人という存在が果たしてどう受け取られるのか、不安な部分もある。

「けっして口外しないので、どうかこちらで研究を続けさせてください!」

長い旅をしてようやく、この国に来て、竜に携わる事が出来たのだ。

竜人伝説から興味を持った竜の研究を、ヴィッセンは此処で深めていくのだ。

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