第14話 合流
「副団長さん!」
必死で手綱を握り、ランにしがみつきながら飛んでいると副団長と竜の姿が見えた。
「イル様にすぐ治療が必要です」
副団長が状況を見ると、ランの手綱はフラナが一人で握り、ランにはイルが縛り付けられていた。
「イル様をお願い出来ますか?」
副団長に有無を言わさずに、フラナは縄を外して副団長に手渡した。
「向こうには魔物が沢山いて、私達を逃がす為にアルクさんと黒竜さんだけで戦っています」
イルを落とさないように慌てて受け取ったものの、副団長は、まだ状況が掴みきれていなかった。
「ランさん、先程助けてくれた黒竜さん達を今度は助けに行きたいです」
ランはフラナがその言葉を全て言いきる前に来た道を引き返していた。
「フラナ!戻ってください!!」
戦闘なら副団長達に任せたいが、アルク達がいる場所を分かっているランが行くのが一番時間的なロスが少ない。
そう判断して、フラナはランに乗って来た道を急いだ。
「副団長~!」
フラナを追いかけたくても、イルがいるので追いかける事は出来ずに竜舎へと帰っているところにマイルがやってきた。
「マイル、丁度良い所に来た。すぐに帰還だ」
副団長も有無を言わさずに、マイルにイルを渡した。
「良いか、何があってもイルを医務室へ連れ帰れ。そして、何があっても竜舎周囲から動くな」
国内に竜騎士達は留まっているが、副団長がフラナ達と会った場所までも普段では考えられない程の魔物と遭遇して、すぐに先へ進めずにフラナと合流するまでに時間を要した。
他の竜騎士もどうなっているか分からない以上は、イルを送り届けた後はマイルが今日の守護竜と騎士になって守るしかない。
「!本当に帰ってきたのか…」
竜が相棒の命の危機に瀕しているのに、それを他の竜に任せて、相棒以外の人間と側を離れるなんて、とても考えられなかった。
副団長達や他の竜騎士達が応援に来る場合は想定して、殲滅よりも温存で森に隠れたりしながらやり過ごしていたが、こんなに早くランがフラナと戻ってくるとは想像していなかった。
「二人とも無事ですね、良かった…」
黒竜もアルクも怪我をしているが、戦えない程の傷ではなさそうに見えた。
「私、戦闘の事は全く分かりません。なのでランさんにお任せしようと思います。お二人には、遠くから援護をお願い出来ますか?」
消耗が激しいであろうアルクと黒竜にはなるべく休息をとってもらいながら、アルクの武器を活かした戦法が良いようにフラナには思えた。
「ランは興奮してる。振り落とされるなよ」
自由にさせるのは良いが、相棒が大怪我をしてれば竜は大興奮している。普段とは違う動きを見せる事も多い。
「分かりました。よろしくお願いします」
フラナはアルクに一礼をしてから、飛び立った。
「ランさんお疲れのところすみません、あと少し力を貸してください。もう自由にやってください。援護は黒竜さん達がしてくれます」
アルクが言っていた通り、ランがいつもより興奮しているのはランの上にいて痛い程に伝わってくる。
もしも、イルと引き離した自分に怒っていたら振り落とされるかもしれない。
「…ランさん、いつも頼りっぱなしですね…。どうかお願いします」
手綱をしっかりと握りしめてフラナは覚悟を決めたが、フラナを振り落とそうとしているわけではなかったが、興奮状態にあるランの戦いは電光石火だった。
いつもよりスピードも速くて、今何が起きてるのか戦闘に見慣れていないフラナでは目で追う事さえ出来ない程だった。
「…危険だな」
ランんは、かなりの勢いで魔物を薙ぎ払ってるが、どんどん興奮度が強くなってるのはイルが危険なのを察知しているのか、自分を抑えきれていないからか。
ランは防御体勢や躱す動作を全くしてないので、イルが乗っているのならそれ程問題はなくても、今乗っているのはフラナだ。ランが撃ちもらした魔物を撃退する力なんて何処にもない。
「カル、頼むぞ」
この状況では、迂闊にはランの近くに寄れないので遠くから、アルクと黒竜でランの撃ちもらしを潰していくしかない。
「!」
しかし、いつにもまして、あちこち飛び回るランを追うのが、かなりの時間戦い続けてきた黒竜とアルクには集中力も体力も限界がきていた。
「避けろ!!」
こんな遠くからでは、もう間に合わない。そう思ってもそう声を掛けるしかなかった。
「副団長さん…」
遠くからアルクの声が聞こえた気がしたが、手綱を離さないようにするのに精一杯で敵を躱す事が出来ずに思わず目を瞑ったが、そっと目を開けた先には副団長がいた。
「イル様は?」
副団長により助かったのは有難いが、先程渡したばかりのイルの姿はなかった。
「マイルにイルの事も城の警護も任せてきました」
いつもは全体を考え補助や待機に回る事も必然と多くなる副団長だが、今はここにいる魔物達を殲滅して、これ以上竜騎士団に被害を増やさない事だけだ。
「大方は片付けられましたね」
ようやく副団長が剣を鞘に納めた。フラナもアルクも、勿論竜達も多少の怪我はあれど飛べない程でない様子だった。
「自分は先に戻るので、二人はゆっくりと帰還してください」
イルの事も、その他の被害も気になる副団長は先に帰路を急ぎ、ランと黒竜達は副団長よりはゆっくりと飛んで帰る事となった。
ランは急いで帰りたいだろうが、フラナが手綱を引く力がほとんど残っていないように見えた。
それに気付いているから、ランはフラナに負担がかからないように飛んでいるのだ。
「皆、嬢ちゃんには甘いな」
と言いながらも、アルクも黒竜に全て身を預けて目を閉じたくなるのを、万が一の為に必死で堪えて竜舎まで保っていた。
「俺達は後回しで大丈夫だ」
救護班が出迎えてくれたが、他に怪我人が多数いるそうなのでそちらを優先にしてもらって、黒竜にはアルクが薬を塗った。
「今回も羽根は無事で良かったな」
出会った時に羽根を怪我して飛べなかった黒竜。竜に効く薬が分からなくて不便な思いをさせたから、薬がある今でも羽根の傷にだけはナーバスになってしまう。
「大活躍だったな。有難な」
大体の怪我の箇所に薬を塗ってアルクも黒竜にもたれたら、睡魔の限界がきたアルクは意識を手放した。
「イル様!」
竜舎に辿り着いて、副団長にイルの容態を確認すると、今は治療も終わって、自室で休ませているとの事だった。
「イル様………」
騒がしく部屋を開けてもイルはその優しい眼をフラナに向けてはくれなかった。
目が覚めれば問題ないと思われるが、それまでは油断出来ない状態との事だった。
「ランさん、イル様はまだ寝てるみたいです。私、しばらくランさんの側にいます」
ランに乗ったまま、団長室の窓から入って、ランには其処で待っていてもらっていた。
「…今日は有難うございました。ランさんはいつも頼もしいです」
ランを撫でながら、イルの自室にランと入れたら良いのに、と思ってしまう。
しかし、今の状態のイルを竜舎に出すわけにはいかないし、イルの側にいるには、ランとは一緒にはいられない。
「………イル様と遊ぶのは、もう少しだけ待っててくださいね。イル様が起きたらまた三人でお散歩に行きましょうね」
名残惜しいがランにも休息が必要だろう。団長室の窓をそっと閉めて、イルの自室へ戻ろうとした所に副団長が入ってきた。
「副団長さん、今日は私…イル様の側にいても良いですか?」
そういう事であれば、副団長はイルを見守るのではなく、団長不在の今を守る為に動けるというものだ。
「団長が目覚めるまで自分は忙しくなると思うので、イルの事をどうぞよろしくお願いします」
副団長は頭を下げて、団長室から出て行った。被害確認と被害報告は、夜を迎えたので一旦中止としたが、明日からイル不在の中で忙しくなる。
団長も看病されるならフラナが一番嬉しいだろう。
「イル様、副団長さんから許可もらえたので、今日はこちらにお邪魔します」
返ってこないと分かっていても話しかけてしまう。
「ランさんとっても頑張ったんですよ、ちょっと怖いくらいでした。起きたらいっぱい褒めてあげてくださいね」
何度も息をしているのかを確認して、何度も溢れ出る汗を拭いて、その繰り返しで朝日が昇った。
「おはようございます。…ランさん食事拒否しないと良いんですけど、仕事に行ってきます」
最後にもう一度確認してからイルの私室からそっと出て、フラナは眠らないまま世話人としての仕事に向かった。
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