第3話 プロローグ:神社での出会い その三

「目標発見! 神結びの腕輪の後継者を見つけ次第、捕らえろ!」


黒いマントの男たちの叫びが、僕の頭の中でこだました。彼らが放った「狼神 バイトウルフ」の影が、地面を蹴り、恐ろしい唸り声を上げて僕に迫ってきた。


「う、嘘だろ…!?」


現実離れした光景に、僕は驚きと恐怖で体が硬直する。オオカミの影の牙が、まさに僕の肩に届こうとした、その一瞬!


「ゴッドリリース! N(ノーマル)! ガムテープ神ツナギ!」


その瞬間、僕の背後から氷のように冷たい声が響いた。


「また、よりにもよってこのカードを使うことになるとは…」


僕の横を、さっき神社で別れたはずの日向スズが、風のように通り過ぎていく。彼女は、巫女服の上からマントを羽織り、戦闘装束のようになっている手には、水色の光を放つ、コミカルなデザインのカードを持っている。


「日向、スズ…!?」


スズがカードを宙に掲げると、青い光が弾けた!


光の中から実体化したのは、頭にガムテープの輪っかを被り、両手に巨大なガムテープの巻物を持った、七福神のような丸っこい小さな神様だった。


「ご指名ありがとうございます! 少しの時間稼ぎ、お任せください!」


「そう。なら、……」


スズは先ほどツナギを召喚してカードを空に掲げ、指示を出した。


「通常攻撃発動! 粘着自爆!」


「え、自爆!?」


僕が思わず叫ぶと、ガムテープ神ツナギは、「ハイ、よろこんで!」と元気よく返事をした。


次の瞬間、ガムテープ神ツナギの全身から、信じられないほどの粘着力を持つテープの塊が、爆発するように四方八方へ飛び散った!


テープは、僕に襲いかかろうとしていた「狼神 バイトウルフ」の影の体を、何重にもぐるぐる巻きにする。さらに、黒マントの男たち三人の顔や手足にもベタリと貼りつき、彼らを壁に張り付いたムシのように動けなくした。


「なっ!?まさかN(ノーマル)の技に苦戦するとは…!?」


黒マントの男たちは、あまりの粘着力に、身動き一つ取れない。オオカミの影も、テープの中で必死にもがいていたが、少したつと慣れたのか、テープを破って抜け出した。


スズは、僕を庇うように一歩前に出たまま、冷静に男たちを見下ろした。


「我々は『アーク』よ。それ以上腕輪の後継者に攻撃を続けるなら、貴方たち『ディザスター』にも、制裁を加えるわよ。」


「ディザスター」。「アーク」。「腕輪の後継者」


その言葉の響きに、男たちは顔を見合わせた。


「チッ!今日のところは撤退する!だが、神結びの腕輪は必ず回収するぞ!」


男たちは、テープを無理やり引きちぎり、残りのカードを回収すると、出現した黒い渦、ディメンション・ゲートの中に滑り込むように消えていった。


静寂が戻ると、スズの持っていたカードが、水色の発光を失い、色々文字が書かれていたカードには何も書かれていなかった。さっきは「ガムテープ神ツナギ」のイラストも消えていた。おそらく自爆攻撃を起こし、消滅したのだろう。


スズは、地面に落としたカードを拾い上げると、僕に向き直った。その黒色の瞳は、僕を冷徹に見つめている。


「天野ユウト。あなたの腕輪は、神々にとって鍵よ。あなたの腕輪が敵に奪われないようにするのよ。」


スズはそう告げると、僕に背を向けた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!日向さん!どういうことなんだよ!?」


僕が必死に叫ぶと、スズは立ち止まり、僕に背を向けたまま、聞こえるか聞こえないかの声で言った。


「――三学期になったら、すべて教えてあげる。私たちの戦いの、神話の続きをね。だから今は、少し黙ってて。」


そうして、スズは、ポケットからさっきとは違う、黄金色に光るカードを取り出した。


「ゴッドリリース。SSR(エスエスアール)記憶神ライミー。」


スズがカードを宙に掲げて言ったあと、青い光から、白い服を着た、優しげだが無表情な、まるで天使のような女性が実体化した。


「特殊能力解放。対象者の記憶抹消!」


女性は僕に向かって手をかざし、その手から白い光の波が静かに放たれた。


「えっ、き、記憶消すって、僕の!?」


僕は叫んだが、もう逃げられない。白い光の波が僕の体を包み込み、この路地で起こったすべての出来事が、頭の中からスーッと白い霧のように消えていくのを感じた。


「(あれ?僕、何をしていたんだっけ……?そうだ、ゲームの続きをしようと……)」


そして、白い光が消えた後、路地にはユウトと、冷たい表情のスズ、そして記憶神ライミーだけが残された。


「完了しました、スズ様。彼は、今日ここで神使バトルがあったこと、そしてあなたに出会った記憶をすべて失いました。」


「ご苦労様、ライミー。――これで、三学期に『普通の転校生』として、最初から接触できるわ」


スズは、誰もいない路地裏で、満足そうに小さく頷いた。彼女の瞳の奥には、すべてを操るような、強い決意の光が宿っていた。


僕の平凡な日常は、唐突に終わりを告げ、そして、スズによって強制的に『リセット』されたのだ。


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ゴッドリリース!~八百万の神々との交流記~ 全うに生きる @02262977555913

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