・キショい交ぜ書き、キショ交ぜ書き
「まん延」、「改ざん」、「処方せん」。
このように漢語の一部を仮名文字で表記することを「交ぜ書き」といい、おもに新聞やテレビなどのマスメディアにおいて使用される。
文化庁によると、戦後「当用漢字表」が制定されたことに伴い、常用漢字の範囲が定められたことから、それに当てはまらない漢字を含む語を表記するために考案された手法だという。
冒頭の単語を漢字表記した際の「蔓」「竄」「箋」はいずれも表外字であり、公共の場では仮名表記されることが多い。
2025年8月21日、日刊ゲンダイが公式X上にて「紙面における交ぜ書きについてどう思うか」というポストを投稿したところ、300万件以上のインプレッションを獲得しており、さまざまなリプライが観測される。
その多くが批判的立場をとっており、「汚水」を「お水」と表記したことで大騒ぎになったという実例や、「雪ぴ」という表記がわかりづらく文章の内容が入ってこなかったという体験談、「拉致」を「ら致」と表記したことで「小学生ら致(いた)される」と誤読されるという例示など、交ぜ書きを運用した実際の問題点が列挙されており面白い。
ちなみに文化庁のホームページ上においては、「交ぜ書きも一概に否定することはないが、交ぜ書きによって読み取りが困難になったり、語の意味が把握しにくくなったりする場合には、言換えなどの工夫や必要に応じて振り仮名を用いて漢字で書くなどの配慮をする必要があろう。ただ、振り仮名を安易に使用することが、難しい漢字を多用する傾向につながっていくのは好ましくないと考えるべきであろう」とされており、多くの人が想像する「ルビ」という改善案について安直な採用には疑義を呈している。
たとえば「石鹸」であれば「石けん」ではなく「せっけん」と全て仮名書きにするとか、「隠蔽」は「隠ぺい」ではなく「隠す」に言い換えるなどの用例も提示されており興味深い。
さて、そんな「交ぜ書き」の歴史も、批判も、賢明な回避方法もすべてを理解したところで、今回はそれらをフル無視して「交ぜ書き」を悪用して遊ぼうと思う。
字面のキショい交ぜ書き、「キショ交ぜ書き」である。
まず、交ぜ書き最大の特徴がその字面のキショさにある。
本来漢字と仮名が混在しないはずの位置で仮名が現れる違和感、異物感、すなわちキショさ。
しかし、そのキショは本来の交ぜ書きにおける漢字と仮名を逆転させることで、さらに「研さん」することができる。
つまり「研鑽」を「研さん」ではなく「けん鑽」と表記するということだ。
常用漢字が表外字で、表外字が常用漢字の世界線では、交ぜ書きはこうなる。
罹さいしたくるまを牽いんする
黴きんをかん璧に殲めつする
しっ踪したまつ裔の怨ねんでしっ疹ができる
読めなくはないが、キショい。
さらに常用漢字かどうかという観点も完全になくし、無軌道に漢字と仮名をごちゃ混ぜにしてみることで、さらなるキショ交ぜ書きを追究する。
と山の実かにえは書をおくる
あににに本ごの本をかす
ははは炒はんに辣ユ2匙たした
「ラー油」のキショ交ぜ書き、「辣ユ」。
上記の文章だと、「あににに」や「ははは」は明確に悪意をもって仮名が用いられており、誤読を誘うための文章であり悪質である。
こう見ると交ぜ書き、ないしキショ交ぜ書きは「ぎなた読み」を誘発する作用があると考えられる。
「ぎなた読み」とは、「弁慶がなぎなたをもって」を「弁慶がな、ぎなたをもって」と誤読してしまう現象であり、おもに仮名によって引き起こされる。
実害を伴うものとして、新聞の見出しで「ガチンコ」を「がちんこ」と仮名表記した結果、「エースがちんこ対決」と報じられてしまう、などという例がある。
ところで、「ぎなた読み」という初出の例が正直ピンとこないのは自分だけだろうか。そんな語り継がれるほどの誤読とは思えない。
ここは明らかに実害がわかりやすい「ちんこ読み」にすべきだと思うが、皆さんはどう思うだろうか。
話を戻すと、キショ交ぜ書きを真の意味で悪用するのであれば、誤読の誘発、ぎなた読み(或いはちんこ読み)への誘引に使うのが効果的であろう。
しかし、目的をもったキショ交ぜ書きは、悪意は増せどもキショさは薄れる。
キショ交ぜ書きとはあくまで交ぜ書きという慣習へのカウンターであり、字面のキショさをたしなむ戯れに留まるべきである。
ダイナマイトの発明みたいなことを言い始めたが、だからといってノーベル賞のようにキショ交ぜ書き賞が創設されるわけではない。
「逆凸」のキショ交ぜ書き、「逆とつ」
「踏破」のキショ交ぜ書き、「踏は」
「濾過水」のキショ交ぜ書き、「濾かすい」
「九九」のキショ交ぜ書き、「九く」
「女騎士」のキショ交ぜ書き、「おんな騎し」
「オレオレ詐欺」のキショ交ぜ書き、「俺俺さ欺」
「第二次世界大戦」のキショ交ぜ書き、「第に次せ界大せん」
「黒塗り世界宛て書簡」のキショ交ぜ書き、「くろぬりせ界あてしょ簡」
「尾崎世界観」のキショ交ぜ書き、「お崎世かいかん」
「赤楚衛二」のキショ交ぜ書き、「あか楚衛じ」
ところで赤楚衛二さんは、小学1年生の頃はテスト用紙とかに「赤そえい二」って書いてたんでしょうか。そして「そえい」というあだ名で呼ばれてたのでしょうか。
赤楚さん、コメントお待ちしております。
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