・「死ね」考
YouTubeにおける動画のテロップで「死ね」という言葉が「〇ね」と表記されているのを見たことはあるだろうか。
これは投稿者自身が編集で挿入しているテロップにおける話なのだが、「死」という語がAI検閲に引っかかることで収益化を剥がされる可能性があるため、「〇ね」という表記が横行している。
以前目にした動画では「必死」がテロップにおいて「必〇」にされており、行き着くところまで到達してしまっていると感じた。
また、電子掲示板等においては「死ね」を「氏ね」や「タヒね」「4ね」というスラングで表記することで名誉棄損などの罪から逃れようとする自主規制を古くから敷いており、直接的に「死ね」と書き込むことは忌避される傾向にある。
ちなみに東京地裁において、「氏ね」という表記であったとしても名誉棄損が成立した判例があるという。
いずれにせよ「死ね」という文字表現は避けられており、前述した通りさまざまな表記によってその直接性は和らげられようとしてきたと言える。
以前この『記すするトレーニング』において「その職はくずれ」というエピソードを公開した。
その中で「死体の山」という言葉について、意図的に「屍体の山」と表記している。
これは「死体」という語よりも「屍」という語の方がよりグロテスクな「死体」を想起させられると感じたからなのだが、そこから「死ね」を「屍ね」に置き換えるというのはどうだろうと考えた。
検索してみると、『Chrono Box』というアダルトゲームにおいて「屍ね」というキャッチコピーが使われた前例があり、もちろん「しかばねね」ではなく「しね」と読む。
他にも「死」を字形に含んだうえで「し」と読む漢字を調べてみると、「薨」「斃」があり、いずれも「薨ぬ」「斃ぬ」と書けるのではあるが、前者は「諸侯や貴人の死」に使い、後者は「斃れる(たおれる)」とも読むため、おもに「たおれて死ぬ」ことを指して使えるのだという。
つまり相手に対して「薨ね!」と言う場合、そこには相手が位の高い人間であるという意味が込められるので、ある意味「死ね」の敬語表現といっても間違いではない。「死ね」に敬語表現があるとは。
また「斃ね!」と罵る場合は「たおれて死ね」と死に方まで指定していることになり、仮に相手が首吊りでも選ぼうものなら「違いますよ」と止めに入らなければならない。
ここで自ら相手を斃してしまうと「死」ではなく「殺」になるので、難しいポイントだと思われる。
ほかにも「葬ね」というのはどうだろうか。
意味的な接近もさることながら、字形に「死」が入っているので、こうして並べてみると「死ね」と書いていないとも言えない。
また逆に「ね」の方を変えてしまうという手もある。
「死れ」や「死わ」のように「ね」に相似した平仮名を使うパターン。
「死寝」「死根」「死禰」のように「ね」と読む漢字をあてがうパターン。
念のため「死」の字面も変えることで、「氏禰」「タヒ根」「4わ」という表現まで手を伸ばしても良いのかもしれない。
前述の「葬」と組み合わせれば、「葬寝」というちょっと本当にありそうな熟語も完成する。
通夜におけるいわゆる「寝ずの番」を表す架空の言葉、「葬寝(そうしん)」。
しかしてその実態はネット上で他人を罵るためのスラング「葬寝(しね)」。
故人を想い供養しようとする風習とは対極にある罵倒が、こんな形で繋がってしまうとは思いもしなかった。
以上、今回は「死ね」という言葉について考えてきたが、もちろん他人に「死ね」という言葉を使い侮辱することは、倫理的にも法的にも認められない。
それはどのようなスラングで表記した場合でも、相手を傷つける意志をもって発言されていれば等しく罪であり、見せかけの字面でごまかせはしないことを肝に銘じておく必要がある。
と、誰もが読みうる公開文章であるため、一筆添えておく。
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