アーチャー①

「切られた……俺のエンタープライズが」

「何それ?」

「スリングの名前です」


 愛用の武器に名前つけるというシチュエーションに憧れてたんだよ!

 物はスリングで、おまけに短くカットされちゃったけどね!

 二つ折りでおよそ1.2メートルほどあったスリングはおよそ半分程度に切り詰められた。

 セシルさんに言われるまま、短くなった紐の端に一方は輪っかを作り、一方は結び目を作る。


「輪っかの方は指を通して持って最後まで離さないこと。結び目の方は回す時だけ持って、撃ち出す時に離すのよ」

「なるほど」

「じゃ、練習してみましょう」


 ブンブン振り回してみると。


「おお、軽い!」


 なんかすっごい使いやすい感じがする。


「取り回しが楽な分、威力は落ちるけど、スライムにはそれで十分だと思うわ。慣れてきてから長さを変えたり、石を大きめのに変えたりして調節したらどうかしら?」

「そうします!」


 それからいくつかの細かい点を注意されて修正しながら練習に打ち込んだ。




「当たる! 百発百中! 俺天才かもしんない! それともこれもビギナーズラック?」


 俺の手元にはスライムの魔石が30個くらい溜まっている。

 練習でスライムを狙っていたら、だんだん命中率が上がり、面白いように狩れるのだ。

 一撃必殺、スライムハンター!


「距離が近いからだと思うわ」

「言われてみれば、そうですね」


 もっともな指摘を受けてちょっとテンションが下がった。

 スライムは動きが鈍いので近づいても割と安全だったりする。

 なので遠距離と言いつつ、3メートルくらいの距離で狙っていた。


「この辺のスライムは大人しいけれど、他に行くと凶暴で素早い魔物もいるの。一瞬で距離詰めてくるから気をつけてね。野犬ワイルドドッグなんかこの距離くらいはひとっ飛びよ」


 イヌには喧嘩売らないことにしよう。

 とりあえずスリングがもっと上手くなるまでは。


「訓練すれば飛距離も伸びるし、遠くても当たるようになるわよ」


 セシルさんが彼女の愛用品だというスリングを軽く、本当に軽く、全然力入れてない感じで振った。

 数秒後、20メートルくらい離れた所の木が音を立て、葉を揺らし、ポトリ、と何かを落とした……って、あれ、魔石!?

 スライム?

 スライムがいたの?

 それをここから当てたの?

 で、倒したの?

 すげー!

 スリング、すげー!

 エルフ、すげー!


「セシルさん、凄いです!」

「まあね、視力はいい方なの。無風ならこれくらいは」


 視力だけの問題ではないと思うけど、やっぱりエルフは目がいいのだろうか?


「これ以上の距離になると私の場合、弓矢を使うし」

「弓矢!」


 そうだった、セシルさんの本業はアーチャーだ。

 今も背中に弓と矢筒を背負っている。


「矢は作るのも手間がかかるし、一度使うと歪んだりするから、もったいなくてスライムには使いたくないの。だからサブ武器としてこれを持ってるのよ」


 うんうん、石はタダだもんね。

 タダで使える物は使わなきゃね。


「そういう弓矢ってやっぱりエルフの里とかで作ってるんですか?」


 ピタリ、とセシルさんが止まった。

 不自然な姿勢で。


 ………。


 なんかマズイこと口走っただろうか。


 ………。


 しばらくしてセシルさんは静止を解いた。


「エルフの里なんてないの」

「え」

「存在しないの。エルフの里なんて。この世界にはないのよ」


 ゆっくりと振り向いたセシルさんの目からハイライトが消えてるように見えるんですけど?

 俺、何か地雷踏みました……?




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