迷宮遊園地③

 レアモンスターからはレアドロップ出るよ。


 その言葉が脳内でリフレインしている。

 なんだろう、フワフワした浮遊感がある。

 俺、今何したんだっけ。


 ……気をつけろ!


 ぼんやりした頭に、不意に警報が鳴り響いた。

 本能が警告している。

 危険だ!

 すぐそこに何かいる!


 背後に殺気を感じて振り向くと。


「出た!」


 一瞬で頭が冷えた。

 ネズミいるじゃん!

 何ボーッとしてんだ俺!


 ここは魔物の巣みたいなものだ。

 さっきスイッチ押したんだから、湧いて出るのは当然の帰結。


「やった! 金ネズ銀ネズだ!」


 ダニエルさんが歓喜の叫びを上げている。

 何喜んでんだあんた。

 俺にとっては命の危機なんですけど!


 出現したネズミは金色1匹と銀色2匹。

 数は少ないけど、色から想像するにノーマルタイプより強いのでは?


「それ行けアーウィンくん!」

「うわ、背中押さないで!」


 ダニエルさんに押されてステージの真ん中に出る。

 これって俺一人でやらなきゃダメってことですか。

 そうですか。

 もうグレてやる。


「嫌いだあー、ネズミなんかー!」

「アハハハ!」

「シーフも嫌いだあー! 二度と信じるもんかー!」

「アハハハ! みんな一度はそういうね。でもこの世界には僕みたいな存在も必要なんだよねー」

「嘘だあー!」

「アハハハ!」


 手伝ってくれない先輩の高笑いを背中に聞きながら、俺は必死で『さくらの棒』を振り回した。

 既に百匹の白ネズと闘った後なので、かなり傷んでいるんだけど、この棒大丈夫か。

 幸い金ネズはじっとして動かない。

 攻撃してくるのは銀ネズだけ。

 さすが色付き、白ネズより格段に動きが速い。

 襲いかかってくる2匹の銀ネズ相手に俺は闘った。

 しかし的は小さいし、速い。

 まるでボール2個のドッジボールと野球を同時にやってるかのような目まぐるしさ。

 こっちの攻撃がなかなか当たらない。

 ビギナーズラックどこいった。

 当たれ!

 ヒット出ろ!


「アーウィンくん頑張れー。 宝箱いいの期待してるよー」


 その応援、腹立つからやめてー!



 奮戦すること20分くらい。

 ついに2匹目の銀ネズが煙になって消えた。

 ちなみに2匹とも銀色の宝箱を落とした。

 ダニエルさんがすかさず拾って鍵開けしている。


「『シルバーリング』か。しけてるな。2個目は……『関係者パス』か。うーん、もう持ってるしなあ」


 ドロップアイテムが気に入らないのか、やや不満そう。

 ところで、さっきから俺、困ってるんですけど。


「あの〜、ダニエルさん?」

「ん? どうしたのアーウィンくん。金ネズが残ってるじゃないか。さっさとやっちゃいなよ」

「えーと、それがですね……」


 やりづらいんだ。

 すごく、やりづらいんだ。

 だって金ネズって、金ネズって……。


「ハムスターじゃないですか!」


 戦意を見せるでもなく、ちんまりと座っているそいつは、小さくて可愛いゴールデンハムスターだった。

 これを叩き殺すなんて、無理、できない!


「さっきまで遠慮なく叩いてたじゃないか」

「さっきのは尻尾の長いドブネズミ型だったからですよ! 敵意マシマシで飛びかかってきてたし! この子は尻尾無いし、大人しいし、小さくて丸くて可愛いし!」

「しょせん魔物だよ」

「でもマズルが小刻みに動いてるし! ヒマワリの種かなんか食べてるし!」

「ネズミなんか嫌いだって言ってなかった?」

「前脚で顔をクシクシこすってるし! これはネズミじゃない、可愛いハムちゃんですよ!」

「作り物がそれらしい動作してるだけだよ。サクッと殺っちゃえば煙になって消えるよ」

「無理無理無理!」


 ハムスターを、無抵抗のハムスターを殺すなんて。

 ありえない、あんなか弱い愛らしい生き物を。

 子猫とか子犬とか、ペットを殺せる人は人でなしだと俺は思うよ。

 もうやめようよ。

 今日は十分稼いだよ。


 棒を下ろし、戦闘態勢を解除する。

 その時、ふと風を感じた。

 いつの間にか側に来ていたダニエルさんが囁く。


「あれを倒せば魔石もレアなの出るよ」

「往生せいや、オラァ!!」


 ドスッ。

 ぷちっ。


 アーウィンは金ネズを倒した!

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