迷宮遊園地②

 ビギナーズラック。

 それは主に勝負事において、初心者がベテランを上回る結果を出すなど、ツキに恵まれる事を言う。

 が、実際は『珍しいから人の記憶に残りやすい』というだけで、ほとんど気のせいらしい。

 地球ではの話だが。



「ビギナーズラックだよ、アーウィンくん!」


 ダニエルさんが興奮気味だ。

 笑顔がキラキラじゃなく、目がギラギラになってる。

 そんなに興奮する事あったかな?

 確かに俺は冒険者としてはビギナーだけど、特にツイてる気はしない。

 クリティカルヒットだってそんなに頻繁に出たわけではないし。

 地道にコツコツ何度も叩いて倒しただけで、ラッキーな事は特になかったと思う。

 目をギラギラさせたダニエルさんは宝箱から出たアイテムを握りしめて言った。


「いいかい、アーウィンくん。この『子猫円舞曲キトンワルツ』のアイテムドロップ率は平均で3%、白ネズだけなら5%と言われているんだ。それが見てごらん、白ネズ百匹で宝箱が20も出てる! ドロップ率4倍だよ!」

「はあ、そうですか?」

「これがどれだけ凄いことか分からないかな! 最初に僕が倒した時は一つもドロップしなかっただろう?」


 うーん、よく覚えてないけど、そう言われればあの時は魔石しか落ちてなかったような?


「ベテランになればなるほどドロップ率が下がると言われてる。体感的にそう感じるだけかもしれない、エビデンスのない俗説だけどね。だけど職業に就く前の新人が高いドロップ率を示すのは本当なんだ。新人にはツキがある!」

「そうですか?」

「そうだとも! 現に君、近くの森でフェアリーに何度も遭遇しただろう?」

「ええ、まあ」


 遭遇したというか追いかけ回されたというか。

 グレアムさんと初めて採取に行った時以来、ヒマワリ薬草持ってると匂いを嗅ぎつけるのか、どこからともなく飛んでくるんだよね、フェアリーが。

 ヒマワリ薬草なんかそこらへんにいくらでも咲いてるんだから、人が持ってる花を狙わなくてもいいのに、わざわざ採取済みの花を狙って飛んでくる。

 フェアリーって実は性格が悪いのでは、と俺は疑っている。


「普通めったに遭遇しないんだよ。僕が近くの森にひと月通いつめても出てこなかった!」


 それはむしろ運が良いのでは?

 グレアムさんに言われた、俺の運が悪い説が再浮上。

 

「スライムだってネズミだって、そんな1日に何十匹も出ないんだよ、普通は! ここで出たネズミの数と宝箱の数で確信したよ。君は引きが強い!」


 引きとは。

 いいものが当たるならともかく、雑魚モンスターがウジャウジャ出てくることを『引きが強い』と俺は言いたくないし、言われたくない。


「魔物を引き寄せるフェロモンでも出てるのかと、そっちの可能性も考えた」

「嫌なこと考えてくれますね。そんなフェロモン出てるわけないです」


 出てないよね?

 ちょっぴり不安になる俺だった。


「だけど宝箱のドロップ率から言うと、単純に乱数で当たりを引きやすいというのがおそらく正解だ。ビギナーである限り、君は沢山の魔物に出会えるよ!」

「嬉しくないです」


 それって魔物の大群に襲われやすいってことでしょ。

 下手すると死ぬじゃん、俺。


「さっきは僕がトラップ発動させたから白ネズしか出なかったけど、君が発動させればレアなネズミも出るかもしれないよ。ちょっとこっちに来て、このネコ押してみない?」

「やです」


 そのネコがスイッチなんでしょ。

 またネズミ出るのわかってるし。

 どうせダニエルさん手伝ってくれないんでしょ。

 疲れるし。


「アーウィンくーん」

「猫撫で声で言われても嫌です」


 ……風を感じた。


 フワリと音も無く側に立ったダニエルさん。

 え、何、今どうやってここまで来たの?

 縮地、それとも瞬間移動?


 慌てる俺の耳に囁きが聞こえた。


「……レアモンスターからはレアドロップ出るよ」


 気がついたら俺は壁際でネコのレリーフを力いっぱい押していた。

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