第12話
「5,000,000って“円”だと思ってたんだ……じゃなくて、たしか“G”って女神が言ってた気がする――」
「そりゃぁ……えらく高額だな」
「だ、よ、ね……」
剛は計算したくなかったが、日本の貨幣価値からすると、あと“0”が3つ付くことになる。つまり。
「5,000,000,000円? 50億円ってこと?」
17歳の剛にとって、その金額は理解できない額であることは理解できる。コンビニバイトを何年やらなければならないのか……瞬時に計算できない額である。ただ、その途方もない金額がゆえに、眩暈程度で済んだ。
「その女神は、焦っただろうな」
「だよね、だから早く無駄なものを買って使わせたかったんだろうな」
「埃がかぶってたそのキットだが、お前にとってかなり使えるアイテムだってことだよな?」
「そう、女神はどこまで理解してたのかわからないけど、ステータスのパラメーターがオール1の俺にとって、さっき戦いとかで使ってみたら、たぶん手放せない」
「良かったら、俺のステータス見れるのか?」
パトラッシー老犬であるが、肉体は若返ったっぽく、感覚も勉強したくなってるのだろうか、新しい物に興味津々と見える。剛の方に手をのせている。
剛は指を丸めて「それじゃあ」とパトラッシーを覗き込んだ。
『パトラッシー(犬):HP:20、MP:1、STR:3、VIT:43、DEF:2、INT:11、RES:3、DEX:15、AGI:18、LUK:9、Lv:1、状態:冷静、所持:0G』
開いたウインドウのブックに記録されたデータが表示されている。
「自分が数値化されるのは、すごいな」
剛はパトラッシーが理解できてることも驚いたが、数値がホーンラビットより高いことも唸る部分だった。
「ホーンラビットはLvが2あったのに、パトラッシーはそれを上回ってるから、個体として結構高いとかあるのかな」
「歳は取ってても、ウサギよりは上でいたいんだが」
「まぁそうだよね……これから記録してけばわかるか」
おそらくホーンラビットのLv2だとしても個体差はあるだろうから、老犬とはいえ犬の先祖は狼かもしれないから高いのだろうと剛は考えた。
「しかし……生命力と知力がさっきの門番より高い気がするんだけど……」
「人間の年齢で言ったら、結構歳をとってるから?」
「わからない」
ここで考え込んでも進まないので、二人は、次の話をすることにした。
「アキゴーの能力はこの数値を移動できるってことだろ? 俺のを使って一回やって見せてよ」
「え? なんか勝手にいじられるって気持ち悪くないの?」
「体力や生命力を0にして襲ってくるとか、アキゴーはしないでしょ? それに俺が興味あるんだ。どれか1減らしてお前に付けるとかやって見せてくれよ」
数値の高い余裕だろうか、剛にはできない考えだと面白く感じた。高い数値なので、VITから1を減らして、剛に移動し、またすぐに戻した。
「ほぉぉぉ、これは面白い能力だな」
ウインドウを覗き込み、パトラッシーの鼻先がウインドウを突き抜けてしまっている。それくらい面白かったのだろう。
「ってことは……だよ」
パトラッシーは数値を見て何か考えている。そして剛は自分のパラメーターの数値が低いのだが、どうして考えたりできてアホにならないのかを想像してみた。おそらくこれは前の世界の知識で生きているのだろうと。となると、剛に関していえば、見えている数値と実際の数値は異なるのではないかという疑問も出てきた。差し当たって困ってることはないが、戦うに際して数値を高くしてて損は無いだろう。
「アキゴーのパラメーターを変えられるだけじゃなく、俺の数値を移動できたりしないのか?」
剛はそれを思いついていなかった。状況によって弄って対応することができれば、どこに数値が振られていても問題かもしれない。
「……弄ってもらうことは可能だろうか?」
「パトラッシーが興味を持っているのはわかるけど、増減を繰り返すと危険じゃないだろうか? たとえば、急に知力が上がることによって脳がパンクしてしまうとか」
たとえば、今のパトラッシーの数値を知力のINT以外を1にして、全てINTに振ると
『パトラッシー(犬):HP:1、MP:1、STR:1、VIT:1、DEF:1、INT:116、RES:1、DEX:1、AGI:1、LUK:1、Lv:1、状態:冷静、所持:0G』
このようにINTが元の10倍になる。潜在的な秘めたる能力を表面化することになると、本人にとって良い結果があるように思えない。人格破綻して壊れてしまうと想像できる。それはパトラッシーも理解できた。
「素早さだけを倍にしてみるとかどうだろうか?」
「……肉体が付いていけない可能性があるから、1.5倍にして、生命力も少し上げるとかどうだろう? わかったらすぐに戻すよ」
「やって、みても良いのではないか」
なんて好奇心旺盛な犬だろうか。だから1週間でこの世界にも慣れてしまっているのだろうか。実際は、前の世界では終末を待つだけだったが、この世界ではまたやり直せる機会が生まれたことで生き生きしているというところだった。
「無理はするなよ……」
剛はそう言って、パトラッシーの数値を弄った。
『パトラッシー(犬):HP:20、MP:1、STR:1、VIT:55、DEF:1、INT:11、RES:1、DEX:5、AGI:27、LUK:3、Lv:1、状態:冷静、所持:0G』
ウインドウには数値を弄られたパトラッシーが表示されていた。知力を変えていないので会話もできる。
パトラッシーは「……じゃあ」と恐る恐る横に飛んだ。そして思ったより早く動けて、パトラッシーは素早く反復横跳びを始めている。よく考えると剛は元の状態を見ていないので、それが早いのかどうかわかっていないのだが、喜びようから、ちゃんと早くなっただと理解できた。
まだまだ喜んで走り回っているところを見ると、やっぱり犬なのだなと剛は納得してしまっている。ウインドウを見るとHPが2ほど減ってしまっている。
「そろそろ数値戻すから落ち着ける?」
パトラッシーは止まって「はぁはぁ、ぜぇぜぇ」と言いながら頷いている。無事に元の数字に戻し(HPは18だが)事なきを得た。
*****
「マズい時に逃げるとなったら使えるかもしれないな」
5分もしないうちにパトラッシーは冷静に分析をしていた。どういうときに弄ってもらうと便利なのか、どうやったら使い勝手が良いのかなど、ブツブツ言っている。
「それはそれで良いんだけど……」
あたりを見ると真っ暗でもう夜である。今日一日の出来事と考えると山盛り過ぎる展開の剛にとって、かなり脳も体力も疲れている。
「パトラッシーは良い宿屋知ってたりする?」
「もちろん、付いてきな」
異世界に先輩がいると心強いと感じる剛だった。
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