第13話
所持金が38Gだが、日本で考えるとどこかしらに泊まれるだろうと思っている剛だが、異世界の混み具合まではわからない。だが、パトラッシー先輩のおかげで困ることは無いだろうと思っている。
「どんなホテルなの?」
「とにかく飯が美味い……っても、俺はそのホテルの残飯漁りなんだけどな」
「まぁそれでも美味いってことは信用できる気がする……あ、そういえば、俺、さっきの肉を食ってなかったわ」
剛はパトラッシーとのやり取りで晩御飯を食べるのを忘れていた。袋から肉を取り出し、ホテルに向かいながらほおばることにした。
「はうッ!?」
無味。そして滴っている油なのにパサパサに感じる食感。慌ててドリンクを飲んでみたら、さらにマズい。苦みが口の中に広がっている。
「ウォ~~!」
ゲボゲボと、表通りから横に逸れ、人目が付かない路地裏で吐き出した。
下を向いて口を開けていると、だらだらとよだれが垂れてきている。しかし垂れ流してすっきりするしかなさそうだ。心配そうに見ているパトラッシー。
「これが言ってたペナルティの部分か?」
食べ物の味に影響があるというペナルティはおそらくこれのことだろうと、剛はパトラッシーに頷いた。
「おでも、ばじべでの、じょぐじだったがら……(俺も初めての食事だったから)」
気軽に考えていたペナルティも、いざ経験するとかなり気持ちが悪い。どれだけ【神々の野望ーアップグレードキットー】の能力を使うと、どれだけひどくなるのかも、これも使って行ってみないとわからない。
「なんとかメイトが無味無臭になった栄養バーみたいなものって、この世界に無いよね?」
一段落した剛はパトラッシーに聞いてみたが、首を振られた。明日になったら改善してることを祈るしかない。
その吐き出していた路地裏で、人の声が聞こえる。
「グルルル」
パトラッシーは何かを察知したのか、先ほどまでのふざけた表情から警戒モードになっていた。
「どうした、パトラッシー?」
雰囲気の違う様子から剛も警戒心を強める。
「この向こうに、負の感じを持った奴がいる!」
建物の影で、街灯もろくに無い世界なので先は暗くて見えない。転移で得た感覚からパトラッシーは察知している様子だった。
「負の感じ……」
ステータスで考えると、何か犯罪を犯している人物だろうか。町中なので、モンスターの類ではないと考えると、人間ではないか。そうすると戦うことに躊躇してしまうかもしれないと剛は息を飲んだ。
「アキゴー、どうする? 逃げるか?」
「……」
逃げるのであれば、パラメーターの素早さ・AGIを上げておけばいつでも逃げられるが、全て1の剛は上げられる余裕が無い。だが、負の感じの人物も遠目から見られるなら確認しておきたい。
「パトラッシー……お前の数値を少し俺に借りても良いか? いざという時のためにAGIを上げておきたい」
「悪くない判断だ。俺も見ておきたいし、構わんよ」
剛はパトラッシーの生命力・VITから10、器用さ・DEXから5を借りて、自らのAGIを16に設定した。
『パトラッシー(犬):HP:20、MP:1、STR:3、VIT:33、DEF:2、INT:11、RES:3、DEX:10、AGI:18、LUK:9、Lv:1、状態:冷静、所持:0G』
『秋野剛:HP:1、MP:1、STR:1、VIT:1、DEF:1、INT:1、RES:1、DEX:1、AGI:16、LUK:1、Lv:4、状態:冷静、所持:38G』
犬並みの速さであれば、人間は付いてこれないだろうという判断だった。ただ、投石がヒットしたらひとたまりも無いだろう。
「じゃあ……」
と二人は声のする方へ足を進めた。
路地裏は薄暗いが、月明りが差し込むおかげで、剛は目が慣れてきた。パトラッシーは犬なので夜目が利きすでに剛よりも周りが見えていた。
「アキゴー待て、この先だ」
先に歩いていたパトラッシーが歩みを止め、建物の角に隠れて声の先を覗き込んだ。それに続き剛も目を凝らしてその先を見た。
建物が取り囲む中に、少し空間のあるスペースだった。
そこに居たのは男女二人。正に行為の途中だった。聞こえてきていたのは男が煽る声と、女の喘ぎ声だった。
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