第11話

 屋台で何かよくわからない肉の塊と、何かよくわからないお茶っぽい物をセットで1Gと長老の分も合計2G購入した。


「人間と同じものを要求するなんて……贅沢だな」


 長老はお礼を言うこともなく、ついて来いとスタスタと人通りの少ないベンチまで歩いていった。


「お前に愚痴をいうことになるから、人気の無いところはありがたい」


 剛はベンチに腰を掛けると、長老も横に犬の座り方ではなく、腰を掛け足を前に出し、手を出して食べ物を要求してきた。


「……もうお前のことを人間扱いするよ」


 ファンタジー世界に順応するしかないと剛は思ったのだが、実はそうではなく、長老は口を開いた。


「すでにお察しだが、俺はお前……アキゴーの言葉が分かる、そしてなぜか転生者に対して喋れる」


「は?」


 むしゃむしゃと行儀悪く、食べながら、なぜか日本語を話し始めた。


「……いや、ちょい待て、ファンタジーなので、お前がしゃべるのは百歩譲ろうとしよう。でもなんで俺のあだ名を知ってるんだ?」


 長老と呼ばれている人間のような態度を取っている“犬”は、「まだわかんねぇのかよ」と汚れてダマになっている毛をかき分けて、首輪を見せた。


「高校の校章じゃん……え? マジで? どういうこと?」


 剛は交渉を付けた犬のことを知っている。なぜか学校に住み着いていた、汚れた老犬・パトラッシー。匂いも酷かったので学校では嫌われていたのだが、朝いつも剛はコンビニバイトのあまりものを分けて一緒に食べていた仲間でもある。一方的に話をするだけだが、家族がいない剛には癒しの相手だった。


「パト、ラッシーなのか?」


「気づくのが遅ぇよ、相棒」


 うわー、っと嬉しくなり、抱き着こうとしたが、汚れた見た目は変わってないので、剛は躊躇した。パトラッシーは「わからんではない」と言って理解を示した。


「でも、臭くないね?」


 剛は鼻を近づけてみたら、以前の時の生乾きの犬臭さは全くなく、むしろ無臭だった。


「これが異世界転生特典なんじゃね? 見た目は変わらんが肉体は元気になってるし」


 パトラッシーもよくわからないと言っている。


「で、でもなんでパトラッシーもここにいるのさ?」


「アキゴーが来る前、だいたい1週間くらい前に俺もやってきたんだよ」


 パトラッシーが知るには、あの時学校にいた者たちはこの世界に転移された来たらしい。それがどうしてわかったかというと、校内をウロウロしてた時に見た顔が何人かこの世界でも見たので、おおよそそうじゃないかと目処をつけてるとのこと。


 迷い込んだが、見た目が酷いので相手にされなかったところ、雑貨屋店主のマリーが声をかけてきて飯を与えてくれたので、代わりに客を引っ張っていくようになった。マリーは勘の良い女っぽく、転移者についても情報を仕入れたり客に聞いたりして理解しているようだった。


 またパトラッシーは、人間の言葉は完全に理解ができるようになっていた。ただしゃべる掛けようとしたら「わんわん」しか発せられず。転移者には喋れるとわかったのはここ数日で、見かけた顔がいたので喋ろうとしてみたら声が出たとのこと。しかし良い雰囲気を感じ取れず、しれっとその場を後にしたと。ほかには、嗅覚や直感的なことが研ぎ澄まされているのではないかと思っている。


「どうして俺に教えてくれるんだ?」


「言っただろ、相棒って。前の世界で唯一の友達だったじゃねぇか。だからだよ」


 うわー、っと嬉しくなり、抱き着こうとして一瞬躊躇したが、今回は抱き着いた。


「ところで、どうしてお前はまだこんな右も左もな状態なんだよ? よくそれで生きてこれたな」


 剛もこの1週間、女神のところで何度もサイコロを振ってパラメーターの数値を検討したがダメだったと伝えた。ついでにパラメーターの数値を弄れる【神々の野望ーアップグレードキットー】も手に入れたと話したが、それに関してパトラッシーは苦言した。


「それはレア過ぎるから、ぜったい言うんじゃねぇぞ。連れ去られて利用される未来しか見えねぇ」


「そうだね……気を付けるよ。あれ? でも【神々の野望ーアップグレードキットー】……」


 剛は気付きたくないことを気付いてしまった。

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