第3話
秋野剛の記憶にあったのは正しかった。
自立した生活のために年齢を誤魔化して働いているコンビニバイトの前に、学校へ忘れ物を取りに戻ったところ、学校で転移魔法が使われて、転移魔法と同じ形式がある異世界に飛ばされることになった。
転移者は他にも学校にいた何人か移ったのだが、それはまた別の神が担当してて、すんなりと転移が完了していた。
この女神は剛の担当になったのだが、100面体のサイコロを何度振ってもHP(体力)、MP(魔力)、ATR(攻撃力)、VIT(生命力)、DEF(防御力)、LUK(運)など他にもいくつもの項目がの目が1しか出なかった。
100面体が10項目で1が連続して出る確率×4,500回となると、天文学的な数字になることは間違いないんだが、それでも「このサイコロ1しか入ってない?」と思うくらい1が続いたらしい。
これから生まれる生命に対してのパラメーター作成は経験があったが、転移者への付与は初めてということで、女神も勝手が違ったのかもしれないとのこと。
女神のせいなのか、剛のせいなのかが不明だが、女神の上位に当たる神からは「納得がいくまで振って(リセットして)良い」と許しが出たそうで、剛が知らない間に何千回とサイコロは振られていた。
上位神と相談して、一度世界に出してみたら、「実は表示ミスで能力高かったです」ってなるのでは、という実験で、さっきはフィールドに送られたらしい。結果は、ステータスのパラメーターは合っていたという結果が分かっただけだった。
「今回、一度フィールドに出てしまったこともあり、記憶がある状態で私のところまで来ていただきました」
しおらしく、女神のような笑みを頑張って作ろうとしてくれている。剛は、女神も大変だったんだと気持ちを汲み取った。
「事情はわかった……転移の前に一つ聞きたいんだけど、良いかな?」
「なんでしょうか?」
剛は何より聞いておかなければならないことがあった。
「元の世界には戻れないのか?」
両親はいない、引き取り先の叔母の家からも飛び出した独り身としては、気にすることはない。だが、学校の友人やコンビニでのバイト仲間、世話をしてた野良犬など、人と関わらず生きてきたわけじゃないので、少し寂しい気持ちもあった。
「残念ですが」
女神は首を横に振った。話を聞いてまだ1時間も満たないが、剛も程度覚悟は決めていたので、落ち込むことは無かった。
「そうなると、できるだけ良いパラメーターを出してもらうことを祈るしかないね!」
せっかくなので、できればチートレベルの数値にしてもらって、異世界パラダイスを決めたいところである。
「わかりました、良い数字が出るまで何度もサイコロを振りましょう!」
落ち込んでいた女神だったが、剛の前向きは言葉で再びテンションを取り戻して、一緒にリセットマラソンを完走することを誓った。
******
誓ったのだったが……5時間たっても1しか並ばない状況を見ていると、初めは応援していた剛も、自分のことなのに筋は諦めて、何か他の手段はないかと提案するようになっていた。
「もう全パラメーター1で良いから、スキルで世界を制圧する能力とかないの?」
「そんな都合の良いスキルなんてあるわけないじゃん!」
気が付けば、しおらしい女神は影を潜め、素の女神に戻っていた。
「使えない女神だな。見かけ倒しかよ」
「あぁ~! 神を冒涜するなんて、初めて目の前て見ちゃったよ! 罰が当たっても知らないよ?」
「全1だと自分の今期の査定が困るから頑張ってるだけじゃん。俺はもう面倒だって思ってるの。だから何かチート頂戴よ」
「チートなんてない!」
どちらも一歩も譲らない子供の件かみたいなやり取りが続くも、サイコロを振る手は止めない。
******
そこから3時間経過。
女神も一人で振ってると頭がおかしくなりそうだったが、剛がいると喧嘩しながらなので、どっちにせよ同じように疲れてきていた。
「もう良いんじゃない?」
剛が言うが、女神は食い下がる。
「次は絶対良い数字を出すから。もう一回……もう一回だけ、ね? 良いでしょ?」
「そう言って何時間経つんだよ。俺はこれで良いから……たとえば、何か倒したとき経験値が2倍になるとか……みたいなことはできないの?」
「それくらいならできる! 次もオール1なら、経験値5倍にしてあげるから、もう一回振らせて!」
剛は心の中で「そんなサービスできるんかい!」とツッコミを入れてしまった。が、その時の顔がまだ納得いってない表情に見えたのか、女神は勝手に「10倍にしてあげるからぁ」と泣きついてきている。
女神にはギャンブル依存症の気配があると感じた。しかもこのリセマラは神の権限でペナルティなしで何度でもやり直せる。さらにサイコロの目はちゃんと100まであるので「1以外出ないはずがない」とトランス状態になり、中毒性がある。
サイコロを振るカウンターの数字が4,999回を指している。
「さっき就業の音楽が鳴ってたようだし、切りが良い5,000回目で打ち切りにしよう」
剛の提案に「もっと振らせて!」としがみつく女神だったが、いざ振ってみてまた1が出たら泣きつけば良いと、納得するふりを見せた。
「じゃあ記念すべき、7日目最終の一投、5,000回目……いきます」
息をのんで見守った……が、4,999回すべて1しか出てないのに、5,000回だからといって1以外が出るわけがない。
結果は1。
泣き乱れる女神。当人の剛は「仕方ない俺は異世界に向てなかったんだ」と諦めているのだが、神が了解しないとその世界に転移は許されない。
ステータスは表示されているパネルを見ているが、裏から見てもパラメーターの数字の1は1である。特記事項も特に書かれていない。
「も、もう一回……残業申請だしましたのでぇ」
といつの間にか延長できるように業務申請していたようだった。
「せめて、一日休みたい……」
面倒ではあるが、ギャンブルを止められそうにない……とはいえ見た目が自分の好みではあるので、そんな女神がダメになってく姿を見てゾクゾクするところも無くはない剛だったので、「延長するか」と言おうと思ったところ、ステータス欄をよく見ると1か所バグっぽいものを見つけた。
「ねぇ、女神さんや……これはなに?」
「ふへっ?」
涙と鼻水交じりの美しすぎる女神も、一瞬我に返るような数字が書き込まれていた。
【5,000,000】
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