第4話
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃく……まん? 5,000,000!?」
女神は冷静に数えて、あまりにも桁数が多く、モニターに落ちそうになっていた鼻水をズルズルっと啜り上げた。
「何の数字だ……G?」
秋野剛は目を凝らすと、Gと書かれていた数字だ。他のパラメーターは1である。
「Gはゴールドのことね。つまりお金」
「5,000,000G……」
両親がいた頃はまだ裕福だった剛だが、二人が他界してからは真逆の貧乏生活を過ごしていた。叔母の家でも一人だけ厄介者として存在できた程度。五百万円なんてものは見た事が無かった。
「通常の転移者への報酬として、転移先で困らないように100Gが付与されるので、わざわざステータスに表示されることはないのだけど……」
女神は冷静になって不思議そうに画面を見ている。気づけは汚かった鼻水とかは消えている。女神マジックだろうか。
「これはチートでは?」
「いや、おそらく、バグみたいなものかと……5,000回1しか出ないってのもシステムが壊れてるとしか思えないし……何があるのか想像できない」
何か悪いことの前触れかもしれないが、パラメーターで1しか出ないことを考えると、剛としてはこのまま進めたい。今後こんな大金と引き換えられる数字がサイコロを振って出ると思えないので。
「おい、女神!」
そういって剛は女神の手を握り締めた。咄嗟の行動だったので、女神は戸惑い、照れ臭くなり頬を染めて、目をそらした。
「ま、まだ私たち、出会ったばかりだし、そういうのって段階を追うべきなんだと思ってるんだ」
女神にとって、この1週間接してきて、今日は一緒にサイコロを振ったり応援してもらった剛だけに、気づけば親近感を持っていた。「(そういえばさっき「見かけ倒しか」って言ってたってことは、見た目は好みってことだったの?)」と妄想は止まらない。
「いや、何言ってんだ、この手を貸せ」
不意を突かれた女神は、手を剛に引っ張られ【承認しますか?】の【はい】をタップさせられていた。
「よし、5,000,000ゲット!」
「は? はぁぁぁ?」
「いやいや、女神の不出来を5,000,000で許してやるって言ってるんだから。食べ物に困らない生活なんて最高じゃん」
「いやいやいやいや、システムエラーだったら上位神から呼び出しあるから、容易に認められないって」
「でもほら、承認できてるじゃん」
焦る女神だったが、画面上は【承認完了】の表示。
「……ホントだ」
「ってことは、システム上問題なかったってことだよね?」
「うん……たぶん」
女神も初めての事案なので、何か煮え切らないが、問題があればエラーが出て止まる設定と考えると、このまま進むのだろう。
とはいえ、問題あれば、5,000,000Gなんて大金、処理上目立たないわけは無いし、神の公共事業の予算でも気軽にOKできる数字ではない。
いかに誤魔化すか……女神は思考をフル回転して巡らせた。
「女神ぃ~。できれば転移先はさっきのようなモンスターがいる危険地域じゃなくて、平和な町にならない?」
剛はすでに勝ち組気分で気楽な様子だ。
「争いがないところだと、パラメーターが1でも鍛えたら延びるだろうし、5,000,000を使って考えたら良いんだし」
人生設計を立て始めた剛の言葉は耳に入らない。女神は、今後の自分の立場のことを考えるのが精一杯だ。思考してるのがブツブツ漏れている。
「そのGを神の銀行に返却……は、コイツややらないだろうし、放棄……しないだろうなぁ。私が奪う……というのは神の性質上縛りがあるからできないだろうし……」
「おい、ブツブツ言ってる場合じゃなく、早く安全なところへ転移しろって。ちゃっちゃと買い物とかしたいんだよ」
その言葉で女神は思いついた。
「ねぇ、この数日良い数字が出せなかったのと、今日付き合わせたお詫びに、神様たちだけが行ける、イイお店に連れて行って、あ・げ・る」
「マっ?」
「転移すると行けないけど、どうする?」
「行くに決まってるでしょ」
剛は「あるじゃん、神様特典が」とニヤニヤしてる。神様だけが行けるということで、天国に上るようなエロい店想像しているようだ。
「じゃあ、今から行きましょうか」
女神は剛の腕に絡みつき、ニッコリして、そのお店のある方は引っ張っていった。
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