第三十一頁 脱出
「めっちゃおまわりさんいんじゃん!」
ヨサゲナ町から脱出しようとした三人は鉄の扉の前に大勢の警察官がいることを確認した。
一度建物の陰に隠れて相談する。
「つうほうされたのかな?」
クウヤは不安そうに漏らした。
「そうだろうな。普段閉まってる扉が開きっぱなしになってたら、そりゃあなんかおかしいって思うだろ。普通」
ビゼーは落ち着いていた。
「怪しい動きをする方が不自然だから堂々と行こう。胸張って!」
ロッドも危機感はない様子だった。
「ただじゃ通しちゃくれねぇだろうから、一応策練るか」
三人は作戦会議を始めた。
会議が完了すると三人は鉄の扉へと近づいていった。
ビゼーとロッドが前に、クウヤが二人の後ろに位置取り、三角形のフォーメーションを崩さず進んでいく。
当然止められた。
「ちょっと〜。お兄さんたち。何してんの?」
「帰ろうと思って」
ビゼーが言った。
「帰るってここから?」
警察官が不思議そうに尋ねた。
「そうですよ」
当たり前だろという強気な表情で質問に答えた。
「あっ、外部の人でしたか。えぇ、しかしですね。只今
「
他人事のようにロッドが言った。
「えぇ?」
警察官の反応はいたって普通である。
「町長に問い合わせてもらえばすぐに分かります」
警察官は訝しげな顔をして三人に告げた。
「なるほど〜。えぇ、そうですか。警察にはそのような情報は届いておりませんでしてね〜、えぇ。確認しますのでそちらでお待ちください」
三人は大人しく従った。
五分ほどして、先ほど三人と話していた警察官がやってきた。
「すみません。お時間頂戴してしまいまして、えぇ。えぇ、役場の方に確認の電話を入れたのですが、職員の方から、そういった話は聞いていないと伺いましてね、えぇ。ちなみになんですが、さっき仰ってた情報はどちらで聞いたものですか?」
「役場の人に聞いたんじゃ分かりませんよ!町長に問い合わせてください。さっき言ったと思うんですけど……」
ロッドが煽り風味を醸して言った。
「なるほど。そうでしたね、えぇ。仰ってましたよね。もう一度確認します。お待ちください」
警察官はそう言い残してその場を離れた。
「さっきの時間なんだったの?」
「さぁな」
「町長に繋がるかな。三十分くらい経ったよね?意識飛ばしてから」
「病気で倒れたわけじゃねぇからな。そろそろ起きててもいいよな」
ロッドとビゼーはどうでもいい会話をして時間を潰した。
クウヤは緊張からか、はたまた不安からか待ち時間に一言も喋らなかった。
それから十分経過した。
再び警察官がやってきた。
「何度もすみません。えぇ、町長に問い合わせようと役場に電話したのですが、町長室と連絡が取れないようでしてね、えぇ。職員の方に様子を見てきてもらったところ、町長が町長室で倒れていたんですよ、えぇ。それでですね、えぇ。あなた方、何か事情知らないですかね?町長とお話していたのかなと思いまして、えぇ」
「確かに喋りましたよ。自分の進退についての話だったので」
ロッドは正直に話した。
それに対して警察官は疑いの眼差しを向けた。
「あなたが話した後、町長はどんな様子でした?えぇ」
「別に普通でしたよ。俺はただ話しただけですし。倒れてたって言ってましたけど、町長は無事なんですか?」
「えぇ。職員の方が呼びかけたら目を開けたそうです」
「じゃあ寝てただけなんじゃないですか?日々の激務でお疲れでしょうし」
ロッドは笑顔で言った。
「そうですかね?床に背中をつけていたそうなんですよ。寝ていたとは考えにくいと思いますがね、えぇ。公務中に横になって寝ます?普通、えぇ。えぇ?ところで今自分の進退って言いました?」
「遅っ!」
警察官は何個か前のロッドのセリフに驚いた。
クウヤとビゼーはその警察官の反応の遅さに驚いた。
ロッドは驚きもせず、会話を続けた。
「はい。俺、元
「はぁ!えぇ?お疲れ様でした!すみません。存じておりませんでして、えぇ。それではそちらのお二人は?外部の方なんですよね?」
警察官はペコペコと、ロッドを労ったのち、クウヤとビゼーについて尋ねた。
ロッドが答える。
「俺が通行を許可しました」
「何をされてる方なんですか?」
警察が漠然とした説明で納得するはずがない。
「観光客の方です」
ロッドが紹介した。
「観光ですか?えぇ、こんな時代に?身分証明書とか持ってます?」
かなり疑っている様子だ。
ビゼーはパスポートを見せた。
「ありがとうございます。もう
「……」
クウヤは身分証明書など持っていない。
沈黙した。
「ないんですか?えぇ……署までご同行願えますか?」
「拒否します!」
警察官の要求をビゼーは突っぱねた。
「任意ですよね?」
「何か不都合なことが?」
「何もありませんよ。任意同行に応じる理由がないって言ってるんです」
「後ろの扉が開きっぱなしになってたんですよ、えぇ。そこ、通ってきたんですよね?あなたたち。捜査にご協力していただけませんかね?」
お互い冷静な口調で話す。しかし言葉を発すれば発するほど険悪なムードに包まれた。
——ピリリリリリリリ……ピリリリリリリリ……
険悪ムードを断ち切る救いの
警察官の携帯電話だ。
「失礼」
少し離れて応答した。
「はい」
「……」
「あぁ、これは町長!ご無沙汰しております」
「……」
「えぇ。怪しい三人組が……」
「…………」
「えぇ?」
「…………」
「えぇ、いや、しかし……」
「…………」
「そういうことでしたら、私たち警察が必ずお守りいたします!大船に乗ったつもりでお任せください!」
「………………」
「いや、そんな……ご心配には及び……」
「……」
「なぜです?」
「…………」
「えぇ……もしもし!もしもし!」
通話が切れたようだ。
警察官は納得しない顔で三人に言った。
「どうぞ、お通りください……」
「いいんですか?」
ロッドが聞く。
「えぇ。町長から直々に。無事に帰すように、と……」
「ありがとうございます!」
ロッドは爽やかに礼を言い、三人は先ほどのフォーメーションで鉄の扉へと向かっていった。
——チャッ。
後方で撃鉄を起こす音が聞こえたと思うと同時に警察官の声も聞こえてきた。
「手を上げろ!やはり怪しい奴を調べずに帰すなんて納得できなーいっ!」
「ったく。情緒不安定かよ……クウヤ、振り返んなよ!」
ビゼーは小さな声で指示すると肘から先を上げた。
それを見てロッドとクウヤも同じようにした。
「私の長年培ってきた勘が言っている。お前たちは怪しいと。総員!構え!」
三人の前に大勢いる警察官が一斉に銃を構えた。
「抵抗するようなら撃って構わない!大人しく署まで同行してもらおうか」
「町長に逆らったらクビにならないんですか?」
ビゼーが言った。
「黙れ!次に無駄口叩いたら撃つぞ!動くなよ。こいつらを確保しろ!」
指示を聞いて警察官が数名動いた。
「頼む!」
ビゼーが呟くとロッドは上げている左手首を時計回りに九十度回した。その手の人差し指と中指の間には一枚のカードが挟まっていた。
「
次の瞬間、三人の周囲を十枚のコインが囲った。
「走れ!」
ビゼーの指示で三人は突進した。
三人の動きに合わせてコインも変位する。
「撃て〜‼︎」
銃撃許可が下った。
警察官らは三人に向けて四方八方から発砲する。
放たれた弾丸のほとんどはコインに当たり、反射したりめり込んだりして中の三人に当たることはなかった。
それどころか跳弾で負傷する警察官もいた。
「
負傷者を確認したのか銃撃命令が撤回され、代わりに追跡命令が下った。
一斉に警察官が走り出す。
三人もまた走り出した。
「こえ〜!まえみえねーし!」
クウヤが叫ぶ。
「このまま真っ直ぐ走れば大丈夫!喋るのはいいけど足は止めないでね!」
ロッドが冷静に注意する。
コインの隙間から前方に警察官がいないことを確認したロッドはポケットから一枚カードを取り出し唱えた。
「銭・切り札!ACE of PENTACLES!」
三人を囲っていた十枚のコインは消え、代わりに巨大な一枚のコインがクウヤの後ろに現れた。
警察官からは巨大なコインしか見えなくなっていた。
警察官がもたついている隙に三人は鉄の扉を通過し、出口を閉めた。
扉が閉まり切るまでコインが出口を塞いだため、外に出た警察官は一人もいなかった。
脱出成功である。
「こわかったー!」
脱出に成功したクウヤは一思いに叫んだ。
「ったく、なんなんだ?一回通っていいって言っといてやっぱダメですってよ」
警察官の不可解の行動にビゼーは文句をつけた。
「町長が捕まえるなって言ったんだと思う。あの電話の相手って町長だったんじゃない?あれだけ脅せば追跡くらいやめさせるよ。最後止めたのは警察としての正義感じゃないかな?多分……」
ロッドは自信三十パーセントの表情で答えた。
ビゼーは一応納得したようだった。
その横でクウヤが心配そうに尋ねた。
「な、なぁ。外に出られたのはよかったけどさ。このこと広まったらだいじょうぶかな?」
「大丈夫だよ!
今度は自信百パーセントといった表情だ。とても凛々しい。
「なんで断定できる?」
ビゼーも気になった。
「俺が魔人だってことも広めないように、俺のこと知ってる人に賄賂渡して回ってたからだよ。自分の評判のためならなんでもするよ、
「はぁ……マジで保身しか考えてねぇな。今回の騒動も揉み消すつもりってことか。俺も警察に名前バレちまったけど大丈夫か」
「うん。心配する必要ないと思うよ!」
不安を払拭したところで、三人は出発しようとした。
「あっ、待って!」
ロッドが止めた。
「俺、自分の魔力の範囲内の使えるカードしか持ってなくてさ。残りのカード、持ってきていい?あと失くしたカードがないか調べたい」
「いいぞ。警察は追ってこないだろうし、俺らも手伝う。大事な道具だろうからチェックはしっかりやろう」
「えっ?オレ
目を丸くしてクウヤは呟いた。
三人は一度控室に戻って、カードが全てあるか確認した。
「全部ある。ありがとう!行こう!」
デッキを持ち、立ち上がった時、カードが一枚ヒラヒラと舞った。裏向きで床に落ちる。
「あっ!」
ロッドは気づいてそれを拾い上げ表面を見た。
「あ……フッ、仲間。か……」
口角を上げて呟いた。
「ロッド〜、行くぞ〜」
玄関からクウヤに呼ばれた。
「うん!今行くよ!」
晴れやかな気持ちと表情で新メンバーは駆け出した。
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