第三十二頁 絡繰
ヨサゲナ町を辛くも脱出した三人の話題はやはり今日の出来事だった。
以下三人の会話である。
クウヤ(以下ク):
「てか、まじこわかったー。ガチでじゅうあたると思った」
ロッド(以下ロ):
「俺も正直怖かったよ。ペンタクルの隙間とか、すり抜けてきたらどうしようかと思ったもん」
ビゼー(以下ビ):
「足とかに当たってもおかしくなかったもんな」
ロ:「ビゼーの魔力が効いたのかな?」
ビ:「はっ?」
ロ:「ビゼーの魔力、
ビ:「そんなことあるか?」
ロ:「あると思うけどなー」
ク:「えっ?ビゼーってまじんだったの?」
ビ:「可能性が高いって話だ。確定じゃない。ってか、もし魔力が効いてたなら俺の足には当たるだろ?」
ロ:「被害がないに越したことはないじゃない!そんなに魔人としての自覚症状があるんだったら認めてもいいんじゃない?」
ビ:「自分の魔力を完全に知るまでは魔人だって名乗れねぇよ。俺だって魔人になりたいわけじゃねぇし。世間的には魔人だと障壁が多いしな……」
ロ:「そんなこと言われたら俺泣いちゃうよ」
ビ:「あっ、べ、別に差別的意図とかそういうのないからな!」
ロ:「ジョークだよ!」
ビ:「時代的にそのジョーク通じねぇんだよ……」
ク:「なあなあ。ロッドのまりょく?ってどんなんができんの?」
ロ:「昨日も言ったかもだけど、タロットカードの絵柄を具現化して動かせるんだよ。今はソード、ワンド、カップ、ペンタクルの四種類が使える。でもなんでかは分からないんだけどコートカードって言われてる数字がついてないカード……
ク:「ふ〜ん。なんかたいへんなんだな」
ロ:「分かってくれる?」
ク:「うん。ビゼーもたいへんそうだし」
ロ:「え、何が?」
ク:「きいてくれよ、ロッド!すげ〜おもしろいんだよ!ビゼーな、いえからでたしゅんかんにうんk……」
ビ:「余計なこと言うんじゃねぇ!うちのパン一生食わせねぇぞ、この野郎!」
ク:「えっ?そ、それだけはやめてください!ビゼーさま〜!」
ビ:「それはお前次第だ。次訳分かんねぇこと垂れやがったら出るとこ出るぞ!」
ク:「いい子にするから〜!」
ロ:「子供?」
ク:「あっ、そうだ!ロッド。さっき金色の丸いの出したじゃん?よくけいさつにバレなかったな」
ロ:「急に?あぁ、うん。君のおかげだよ」
ク:「オレ?」
ロ:「うん!」
ビ:「ロッドはタロットカードをズボンの左ポケットに入れてるだろ?」
ク:「そうなの?」
ロ:「そうなんだよ……で、あの時俺の左半身は君の体に隠されてたから」
ビ:「あの現場で一番偉そうな
ロ:「俺たちの前にいた警察官からは見えてた人もいたとは思うけど、カード一枚を警戒するはずがないし。些細なことすぎてあの場で報告されることもない。本当、ビゼーの作戦は注意が行き届いてるよね」
ビ:「リスク管理は得意な方だからな」
ク:「ビゼーのさくせんもすげ〜けど、ロッドもあそこでよく引けたな!あのカード」
ビ:「あぁそれは俺も思った。何十枚もあるカードの中から、あの状況にぴったりな二枚を連続で引き当てるなんてなかなかできねぇよな?」
ロ:「ビゼーが運気を上げてくれたんじゃない?」
ビ:「えっ、俺?」
ロ:「って言いたいけど、実はアレ仕込んでたんだよね」
ク・ビ:「え〜っ⁈」
ロ:「俺の魔力は大きく二種類の使い方があってね。クウヤと戦った時の方法とさっきの方法。ちょっと違うんだ。まあ俺が意識して変えてるわけじゃなくて勝手に切り替わっちゃうんだけどさ。『
ク・ビ:「すげ〜!」
ビ:「聞いた感じだとイカサマドローの方が強そうじゃねぇか?」
ロ:「すごく便利だよ。だけどデメリットが大きくてね。俺の魔力の発動条件って三つあって。①使いたいカードを他のカードと独立して手に持っていること。②使いたいカードのカードの表を見る、あるいはカードの絵柄を認識していること。③カードの名前を宣言すること。だから使いたいカードをデッキから探して取り出さなくちゃいけないんだ。タロットカードは全部で七十八枚。この作業は時間がかかるから突発的には使えない。それから
ビ:「なんか……いい感じに調整されてるんだな……」
ク:「カードのかず、少なくしちゃえばいいじゃん!」
ロ:「それも思ったんだけど、一度使ったカードを使うには時間経過が必須なんだ。
ビ:「カードの表面を知らなくてもか?」
ロ:「そう。当てずっぽうでも当たる確率が高くなるからなんだって俺は解釈することにしたよ」
ビ:「厄介だな……」
ロ:「本当だよ!条件キツすぎて、説明できるようにするのも苦労したよ」
ク:「おまえ、すげーよ」
ロ:「ありがとう!」
ビ:「やっぱり自分の魔力について知っといた方がいいな」
ロ:「うん。魔人には必須だと思う!暴発も防げるしね」
ク:「ってかさ、ひっさつわざのなまえ言うのかっこよくね?」
ロ:「ありがとう!自分で考えたんだ。俺も男だし、かっこいい必殺技とか使いたいなって思って」
ク:「ひっさつわざか〜。いいな〜。オレもかっこいいひっさつわざつかいて〜!」
ロ:「クウヤは剣を使うんだよね?俺なんかよりもよっぽどかっこいい必殺技使えそうじゃない?」
ク:「え〜?そうか〜?」
ビ:「まんざらでもないって顔だな」
ロ:「強そうな名前の技とかもいっぱい考えられそうだね!」
ク:「でもオレまじんじゃないし……」
ロ:「そんなの関係ないよ!魔人じゃなきゃ必殺技作っちゃダメなんてルールないよ」
ク:「そっか!じゃあオレもひっさつわざ考えよー!」
ビ:「単純だな」
ロ:「ビゼーも考えてみれば?必殺技」
ビ:「俺こそねぇよ。必殺技になりそうなもんが」
ロ:「照れちゃって〜」
ク:「ビゼーはいがいとてれやさんだからな」
ビ:「うるせぇぞ!お前ら!」
ロ:「ああっ!そういえばさ、ビゼー。役場でのこと聞いてもいい?全館巻き込んだのに騒いでる人もいなければ警察もいなかったよね?どういうこと?」
ク:「そうだ!オレもききたい!」
ビ:「大したことじゃない。そもそも全館放送なんてしてねぇしな」
ク・ロ:「えっ⁈そうなの?」
ビ:「それっぽく喋ってただけだ。町長から映像が見えてるわけでもねぇしな」
ク:「なかまがなんとかもウソ?」
ビ:「そ。ハッタリ」
ロ:「うわ〜!メンタル!放送してたのは町長室だけだったってことだよね?」
ビ:「あぁ」
ロ:「そりゃ、外で誰も騒いでないわけだ」
ク:「じゃ、じゃあ女の人は?」
ビ:「あ、あれは本物」
ロ:「町長の娘さんが本当にいたってこと?」
ビ:「いや、そうじゃない。言い方が悪かったな。声
ク:「どういうこと?」
ビゼーは
「助けてくださいっ!お願いしますっ!んんっん〜……」
携帯から役場で聞いた女性の声が聞こえてきた。
ク・ロ:「はっ?」
ビ:「あの町長の娘、女優やってるみてぇでさ。イザベラ・ゴンザレス。名前はそこまで売れてないが、最近ドラマにちょいちょい出始めてるらしい。動画サイトに彼女の出演シーンが違法アップロードされてたからそれをあそこで流した。刑事ドラマだったから状況もいい感じのがあったし。名演技で助かったよ」
ロ:「じゃあ銃声も?」
「お父さん!……もう十分だよ!頑張ったよ!だから……ゆっくり休んでn——バンッ‼︎」
再び携帯から音が流れた。
ビ:「この刑事ドラマの音だ」
ロ:「なんだ〜。よかった〜」
ビ:「本物は今カナダで撮影中らしい。SNSに載ってる」
ク:「うおぉ〜!かわいい〜!」
ロ:「金髪で、細いし、足長いし。町長と全然似てないね」
ビ:「あの
ロ:「ははは……ともあれ無事なんだよね?良かった!」
ク:「なんかビゼーにめっちゃだまされてたな」
ロ:「そうだね」
ビ:「敵を騙すには味方からって言うだろ?」
ク:「マジでビビったんだからな!マジで人ころしちゃったんじゃないかって」
ビ:「人殺しなんてするわけねぇだろ……ロッドは気づいてると思ってたよ。なんかそれっぽいこと言ってたし」
ロ:「それっぽいことって?」
ビ:「町長の娘は死んでねぇとかなんとか」
ロ:「あ〜、あれは君たちが捕まらないようにと思って、出た言葉だよ。根拠なんか何もない。あの時は無我夢中だったからね。君が人殺しになっちゃったかもしれないのに平然としてられないよ!」
ビ:「お前らは俺をなんだと思ってんだ?」
ク・ロ:「人殺|(ごろ)し?」
ビ:「マジで殺すぞ!」
ク:「やっぱそうじゃん!」
ロ:「冗談だよー」
ビ:「分かってるっつうの!んなこたぁ!」
ロッドを旅の仲間に加え、男三人旅が始まった。
彼らはさらに南を目指して旅を続けるのだった。
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