第11話

「………俺って、芯のある人間なのか?」


 その言葉を聞いて雨月は自分の耳を疑う。雨月からしてみれば翠蓮本人から紡がれたその問いは、信じられないものだったのだ。

………自分からすれば『芯のある人間』と言う言葉が出たら真っ先に翠蓮の顔が浮かぶのに当の本人は自覚がないのか?

 と。雨月は冗談だろうと考えながら、翠蓮の顔を見ると本当に分かっていない様な表情でこちらを見ていた。雨月は、そんな表情をしている翠蓮に向けて当然かの如く答える。

 

「当たり前でしょ?君程、責任感があって、慈悲深くて、自制的で、暖かくて、賢くて、それでいて自分の意思をしっかり持ってる芯のある人間はなかなかいないと思うけど?」

 

「……お前さぁ、何でそんな小っ恥ずかしい謳い文句ダラダラ言える理由わけ?それと、お前、俺のこと、買い被りし過ぎな。」

 

 と言いながら翠蓮は複雑そうな表情で台所を後にしようとする。それを雨月は急いで追いかけて行く。すると翠蓮は、使っていないある部屋に入って行った。それを追いかけて雨月もドアを開ける。刹那、雨月の目の前に広がっていたのは、少々埃っぽいが使うのには然程、支障がない部屋だった。翠蓮は窓を開けて部屋の掃除を初めたのだ。雨月はそんな翠蓮を手伝おうと、翠蓮の方に歩み寄ろうとした。すると翠蓮は、雨月に声をかける。

 

「雨月はここに入る前に、このバケツに水を入れてきてくれないか?結構床も汚れてるから」

 

「分かったー」

 

 と言いながら雨月は翠蓮に渡されたバケツを手に持ち水を入れに行った。翠蓮はその間に壁や家具達に被った埃を床に落としていた。そして雨月がバケツを手に持ち戻ってきたため、二人で床を雑巾がけをした。そして埃が被っている部屋が見違えるほどに美しく綺麗な部屋になった。すると翠蓮は掃除道具を片付けながら、雨月に声をかける。

 

「この部屋、お前の部屋な。好きに使ってもいいが、壁とか床とかは壊すなよー」

 

 と言いながら翠蓮は部屋をあとにした。一人残された雨月は驚きながらも部屋を見渡した。そして雨月はテクテクと寝台に腰を下ろす。

―――思ってたより待遇良いなー

 と雨月はそう思いながらも寝台に横になる。そして雨月は次第に重くなってきた目を閉じる。

……暫くして、翠蓮が風呂が湧いたことを伝えるべく部屋を叩いたした。それでも雨月に反応はなかった。翠蓮は不思議に思いながら

「雨月、入るぞ」

と言いながらへやの扉を開ける。すると翠蓮の視界に入ってきたのは、雨月が布団も着ずに眠っている姿だった。その姿を見た翠蓮は雨月に布団を被せようとしたのだが、雨月は掛け布団の上で眠っていた。

―――疲れてたんだろうな。

とぼんやりと考えながら自分の布団を持ってきて雨月に被せて部屋を出る。

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