第10話
―――
と考えながら子供っぽい様子の雨月を見て翠蓮は笑いを堪えられなかった。それを見た雨月は稲荷寿司を食べ終えると
「笑いすぎでしょ」
と、不満気に頬を膨らませながら器を手に取りながら、台所へと歩いていく。翠蓮もそれを追うように自分の器を冷蔵庫に入れるべく台所へと向かう。そして翠蓮は自分の器に埃よけをして冷蔵庫に入れた。すると雨月は慣れていない様子で自分の器を洗っていた。その刹那、雨月は泡により手が滑り器を落としそうになった。翠蓮はそれを素早く器を受け止めて器は無事で済んだ。呆気にとられている雨月に器を渡して翠蓮は何事もなかったかのように食器棚の整理をする。すると器を洗い終えた雨月が翠蓮に声をかけた。
「蓮くん、ありがとう。君のおかげで器を割らずに済んだよ」
「あぁ、お前に怪我がなくてよかったよ」
「あはは、器のことは気にしてないの?」
「……器より大事なもんがあるだろ」
当然の如く言う翠蓮に雨月は驚きで目を見開いた。だが、即座に飄々とした表情に戻り先程までの揶揄い口調に翠蓮に問う。
「へぇ、俺のことはそんなに大事なんだー?」
と言いながら雨月は翠蓮の顔を覗き込む。そんな雨月を面倒くさそうな表情をしながら、食器棚の整理をしている手を止めて雨月の方を見ながら答える。
「俺が、どうでもいい奴と式神契約なんかすると思うか?」
「しないね。君はどうでもいいと思っている人間や妖怪を助けようとはしない」
「だろ?」
「でも、なら…何であの時か俺のことを救ってくれたの?あの時の俺は少なくとも君の足手まといだった。君が俺を助ける義務も義理もなかったはずだよね?」
雨月は真剣な表情で翠蓮に問う。その目は何処か、確信をついているような物であった。それを言われた翠蓮は少し考えて言葉を告げる。
「……俺も、仲間に裏切られた経験くらいしてたからな。それにあの時の絶望してる姿を見て身体が勝手に動いたんだよ。こいつを助けないと、俺は守られるだけの存在になっちまうって。……あと、両親が守ってくれた命を少しでも善人や善妖を守ることに使いたかっただけだ」
翠蓮はそう言うと、食器棚の整理を再開した。どうやら、雨月がどんな反応をしているのか見たくないのだろう。だが、翠蓮の言葉には偽りが一切なかった。雨月も翠蓮の答えに息を呑んだ。それはそうだろう、先程のようにはぐらかされると思っていたのだから。
―――まさか、こんなにも真剣に答えてくれるとは…
と考えながら、雨月は困惑を隠せなかった。そんな雨月の様子に気づいた翠蓮はやり返しだと言わんばかりにニヤニヤと笑みを零しながら雨月に声をかける。
「何だよ、鳩が豆鉄砲食らったような顔をして?真剣に答えてもらえるとは思わなかったみたいな顔しやがって」
「…だって、君がここまで芯のある人間とは思わなかったんだもん」
雨月は大きなため息混じりにそう言った。すると翠蓮が珍しく驚き、目を見開いた。少しして正気に戻った翠蓮が重い口を開いた。
「………俺って、芯のある人間なのか?」
と。
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