第8話

 その様子に翠蓮は首を傾げながら飲み物を置き雨月に声をかける。

 

「雨月、どうかしたのか?」

 

「いや、ここの家主である蓮くんより先に座ったら駄目かなと思って…」

 

「何だそんなことか。お前は真面目だな、そんなん俺は気にしないから気にするな」

 

 と言いながら翠蓮は座椅子に座る。すると雨月が翠蓮の言葉に驚きを隠せずにいた。どうやら、そんな言葉を言われるとは思っていなかったようだ。だが、雨月は

「君がそう言うなら」

と言いながら翠蓮の対面の座椅子に座る。そして二人は稲荷寿司を口に運んだ。雨月は美味しそうに目を輝かせながらパクパクと食べ進めていた。喉が詰まってしまうのではないかと心配担ってしまうくらいには。その一方では、翠蓮は一口食べると目を見開きもう一口食べた。翠蓮は懐かしい味を確かめるかの如く、咀嚼していた。家族の誕生日は皆で稲荷寿司を作って食べるという仕来りがあった。その際によく食べていた味だったのである。最後にその稲荷寿司を食べたのは8歳の頃で、翠蓮と零は詳しい作り方は覚えていなく二人が作るとどうしてもその味を出せずに諦めていたのだ。

―――あいつにも食べさせてやりたかったな。

 翠蓮はそう考えながら自分の分の稲荷寿司をもう一つ食べる。あの味であることを再確認する様に。すると翠蓮の様子に気づいたであろう雨月は思わず心配そうに恐る恐る翠蓮に話しかける。

 

「れ、蓮くん?どうしたの」

 

「いや、これをあいつにも食わせてやりたかったなと思ってな。」

 

「……そ、っか」

 

「あぁ、この味を中々出せなかったからな」

 

 翠蓮はそう言いながら、稲荷寿司を2つ皿に乗せて家族の仏壇に置いた。それらが翠蓮の物だと察した雨月は、無言で座椅子を立ち上がり自らの稲荷寿司を2つ皿に置き手を合わせた。それを見た翠蓮は驚きながらも雨月に礼を言う。

 

「ありがとう。ほんとにお前を式神にしてよかった」

 

「……俺がやりたかったからしたんだよ?珍しく大袈裟だね、君は」

 

 と言いながら雨月は翠蓮から目を逸らす。だが、表情は嬉しそうにしていた。そして尻尾は翠蓮の顔に優しく触れていた。その行動は翠蓮を慰めているような物である。そんな雨月の思いやりに翠蓮は心が暖かくなりながら雨月に話しかけた。

 

「じゃあ、食べようぜ。…稲荷寿司は気に入ったか?」

 

「気に入りすぎて俺の大好物になったよ!こんなに美味しい物を食べられて良かったよ。ありがとう、蓮くん」

 

「喜んでもらえたようで何よりだ。また作ってやるからな」

 

「うん!楽しみにしてるね!」

 

 雨月は上機嫌で尻尾を激しく振りながら稲荷寿司を食べていた。その姿を見て翠蓮は座椅子に戻り二人で稲荷寿司を食べていた。すると翠蓮の携帯から連絡が来た。その人物は、梅だった。

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