第3話
そして数時間、苛烈な切り合いをしていた。翠蓮はかすり傷こそあれど怪我という怪我はしていなかった。一方で九尾は所々切り傷を作っている。九尾は徐々に勢いが上がってきていた。翠蓮はそれに合わせて冷静に対処する。するとひょんなことで刀が折れた。翠蓮は素早く背中にあるもう一つの刀を鞘から抜き九尾の攻撃を受け流す。すると九尾は追撃をせずに距離を取り折れた刀を拾い翠蓮に渡した。
「ごめん、刀を折っちゃって」
そう言う九尾の尻尾は下がっており申し訳ないと心底感じていることを察した。翠蓮はそれを受け取り苦笑する。
「いや、大丈夫だ。これは霊刀だ。だから、気にするな」
と言いながら翠蓮は折れた場所を自らの刀に寄せて少し霊力を注ぐ。すると刀は次第に元の刀に戻っていった。それを見た九尾は嬉しそうに尻尾を揺らし、翠蓮に拍手をする。
「凄いね!霊刀って言うのは知ってたけど実際に刀が治るのは見るのは初めてだよ!触れても良い?」
「良いぞ」
と言いながら翠蓮は九尾に刀を見せる。九尾は優しく触れながら目を輝かせていた。
「凄い、ほんとに治ってる!」
「あぁ、だから気にするな。そろそろ第2ラウンドと行くか?」
と言いながら翠蓮は優しく微笑む。その声色はいつものようにぶっきらぼうさと乱暴さがなかった。九尾は、無邪気な表情で嬉しそうに翠蓮に問う。
「そう言えば、君はもう一本刀を持ってるよね!?もしかしてそれも…!?」
「あぁ、霊刀だ」
「そうなんだ、凄いね!ねぇねぇ、二本あるんだし両方使って戦わない!?僕、二刀流使いの戦い方に興味があるんだよ!」
「そうなのか?じゃあ…期待に添えられるように、本気出すか」
そう翠蓮が言った刹那、翠蓮は今の今まで抑えていた霊力を解放する。それは普段の霊力の何倍も濃い密度の強い霊力だった。それだけで近くにいる弱い妖怪が祓われる程の凄まじいものだった。そんな翠蓮の姿を見ても九尾は驚き、半歩後ずさるだけだった。
「………流石だね。以前と別人レベルだ。凄まじいほどの洗練された霊力」
と言いながら九尾は、狐火を纏いながら翠蓮に襲い掛かろうと動く。その刹那、翠蓮はもう九尾の眼の前にいた。九尾は驚き無意識に本気の狐火を翠蓮に放つ。翠蓮は刀で切りながら宙を舞い、着地した。そのタイミングを襲おうとした。その刹那、九尾の首筋に翠蓮の刀が突きつけられていた。九尾は正気に戻り、両手を上げた。
「………あはは、降参だよ」
九尾がそう言うと翠蓮は無言で刀達を納めた。翠蓮の表情はとても楽しそうな様子だった。そして翠蓮は揶揄うように九尾に問う。
「ようやく落ち着いたかよ。ったく、殺さない程度にやろうとか言ってたのは何処のどいつだよ」
「ごめん、本能で…」
「そうか、なら仕方ない」
「い、良いんだ」
九尾は拍子抜けと言わんばかりの様子で翠蓮に問う。
「ねぇ、君と俺…会ったことあるでしょ?」
「!あぁ、多分あるんだろうな。俺も心明かりはある」
「そっか、それなら良かったよ」
と言いながら九尾は自分の髪に結んでいた髪紐を翠蓮に差し出した。すると、翠蓮は驚いた。それは11歳の時に無くしたと思っていた両親の形見の髪紐だったのだ。それを受け取った瞬間、思い出した。眼の前の人間の姿をしている九尾の正体に。
―――こんな所で会うとはな。
と翠蓮は懐かしいものを見る目で九尾を見る。
「お前、
「あぁ、覚えているとも。それと君の相棒の彼は…」
「3年前に亡くなった」
「……そっか」
九尾は、悲しげに呟きながら深くは踏み込んで来なかった。翠蓮はその距離感に心地よさを感じていた。すると九尾が口を開く。
「ねぇ、僕の主になってくれない?」
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