第4話
「ねぇ、僕の主になってくれない?」
翠蓮はその言葉に酷く驚き、目を見開いた。自分の聞き間違えかと錯覚するほどに。
九尾という妖怪は気位が高く、人に従おうと考える者は極めて少なく、おまけに妖力も力も強く素早いため無理やり使役することは不可能に近いのだ。
「え、良いのか?自由がなくなるぞ」
「いーのいーの!十分、満喫したからさ。だから、君の背中を僕に預けさせてよー」
「………お前がいいなら良いぞ。陰陽師に使役してる妖怪くらい一人やふたりいないとな」
と言いながら翠蓮は血の契約を交わすために自らの手に刀の刃先をすべらせて血を出させる。翠蓮は、その手の人差し指を自分の額の触れるか触れないかの場所まで近づけ、呪文を唱える。
「我、霖 翠蓮の名において…汝を自らの式神とす。その後は……割愛」
と言い終わった刹那、翠蓮の血が九尾の首に纏わりつく。すると、九尾の後頭部に蓮の花がついた。血の契約の儀式は終えたということである。その印は蓮の花だけではなく、人によって色々な花の印がつくのだ。
それを見た九尾は、嬉しそうに後頭部にある印を見ようとしていた。そんな九尾に笑いながら話しかける。
「そう言えば、お前の名前あるか?」
「ないよ!」
「そうか、じゃあ…俺がつけてもいいか?名前がなかったら不便だし」
「いいよ!君が付けてくれた名前を一生名乗ってくよ」
と言いながら上機嫌に微笑む九尾に翠蓮は苦笑しながら
「まぁ、お前がいいなら良いか」
と言い九尾に優しく微笑む。九尾は嬉しそうに尻尾を揺らして
「早く名前つけて!」
と犬のように上機嫌で翠蓮を急かす。翠蓮は真剣に考えていた。その隙を狙っていた襲ってくる妖怪を祓いながら翠蓮は考えた。その刹那、翠蓮の頭の中にある名前が浮かんだ。そしてその名前を翠蓮は呟く。
「
「ん?」
「雨月はどうだ?雨に月と書いて雨月。お前と初めて会ったときも、雨が降ってる夜だったし。その時の月が綺麗だったからさ」
「良いね!じゃあ、僕の名前は今日から雨月だ!ありがと!よろしくね主様?」
と言いながら九尾…もとい、雨月は嬉しそうに尻尾を揺らす。翠蓮は苦笑しながら雨月に声をかける。
「主様はやめてくれ堅苦しい…」
「じゃあ、翠蓮くん…いや、
「もはや原型ないだろ。最後の方」
「………蓮くんにする!!」
雨月は元気よくそう言い翠蓮に微笑む。翠蓮はため息をつきながら「好きにしろ」とだけ答えて歩き出す。雨月は妖力で空を飛びながら翠蓮の後ろからついていく。その姿は、本当に雨月が九尾だと再確認出来るほどに妖艶だった。すると翠蓮がため息をつきながら立ち止まり口を開く。
「俺も歩くのだるいし飛ぼっかな……いや、人に見られたら面倒だな。やめたほうが良さそうだ」
―――霊力で空を飛ぶ。それをすることは可能だが、術者の繊細な霊力操作を必要とする。その為、翠蓮が霊力で飛ぶということは…自分に実力があるというようなものなのだ。
すると雨月が翠蓮の前に躍り出て、微笑みながら挑発気味に話しかける。
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