第8話 生徒会の仕事
窓から差し込む日差しで目が覚める。
――「実は夢でした」みたいな展開を期待したが、世の中そんなに甘くはなかった。
時計を見れば、そろそろ学校へ向かわなければいけない時間だった。
昨日と同じ制服に着替え、急いで扉を開ける。
扉を抜ければ、昨日と同じく生徒会室へつながっていた。
どういう仕組みかわからないが、とにかく学園まで無事にたどり着けたことにほっとする。
生徒会室には私以外に誰もおらず、電気も消えていた。
壁紙を確認すれば、彼らは既にそれぞれの教室へ向かっているらしい。
また、昨日助けられたメモと同じ筆跡で指示があった。
「行き先の記入を忘れずに!あとこのメモは読んだら捨てておいてほしい。」
――やはり、この筆跡に見覚えがある。
しかし、思い出そうにも脳内を黒い靄が支配してくる。
……そろそろ授業も始まるだろうし、今はメモに従おう。
オレンジ色のメモ用紙を捨てつつ「2-A」と記入し、生徒会室を出た。
「文化祭の準備で残る人も放課後には帰ること!それでは、明日も元気な姿を先生に見せてくださいね。日直さん、挨拶をお願いします。」
「起立、礼、さようなら」
生徒会室を出た瞬間――気づけば放課後になっていた。
眩しい夕日が教室を染めている。
授業を受けた記憶が、すっぽり抜け落ちている。
わけがわからず、周囲を見回した。
何事も無かったように同じ制服を着た人達が文化祭の準備を進めている。
時間の流れに違和感を感じているのは、どうやら私だけ。
どういう時間の仕組みなのか。
……まぁ、乙女ゲームの世界に私が存在している時点で訳が分からないのだ。
理屈を考えても仕方ない。
じっとしているのも落ち着かなかったので、教室から出ることにした。
教室の扉を抜けた先は生徒会室だった。
明かりの灯る室内には、既にルルさんと馨さんが到着していた。
生徒会長専用のデスクで書類の山を手際よく捌いているのはルルさん。
対して、ティーポットを片手に本日の紅茶を選んでいるのは馨さん。
「おや、真宵さん。お疲れさまです。授業はいかがでしたか?」
私が入ってきたことに気づいた馨さんが、優しく微笑んでくれた。
「あっという間に授業が終わりました。」
「ふふっ、あっという間に感じるほど、面白い授業だったのですね。先生も喜んでいますよ。」
そういうわけではないのだが……。
「頭を使って大変だったでしょう。少し休憩に、紅茶でもいかがですか?今日の紅茶はアールグレイティーですよ。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
「ええ、どうぞ。席に座ってください。」
労うように椅子を引いてくれた馨さんに従い、そのまま着席する。
私が座ったことを確認した馨さんは、ティーカップに紅茶を注ぎ、2つ分の砂糖を溶かした。
「紅茶の準備ができましたよ、真宵さん。熱いので気を付けてくださいね。」
目の前に置かれたティーカップから湯気が立ちのぼる。ふわりと漂う柑橘の香り。
「いただきます。」
「ええ、召し上がれ。」
…………熱い。でもフルーティーな香りが口いっぱいに広がり美味しい。
「ふふっ、真宵さんったら。さすがに入れたては熱いですよ。」
「とても美味しかったので……。ありがとうございます。」
「ええ、どういたしまして。」
少しずつ紅茶を味わう私を、馨さんが嬉しそうに眺めている。
しばらく経ち、新しい紅茶が出来上がった。
ハーブを使っているのだろうか。室内に爽やかな香りが広がる。
それを、馨さんがもう一つのティーカップへ注げば、ルルさんの机上へそっと置いた。
「ルルさんも、落ち着いたタイミングで召し上がってくださいね。」
「ありがとう、馨。後でいただこう。」
「……そうだ、真宵。」
ルルさんは、書類を机上に置いて、私と向き合う。
「お前にとって、生徒と会話するのは慣れないことだろう。しかし、生徒の様子を確認しつつ作業を手伝ってあげてほしい。それが、俺様、そしてお前の力になる。……どうか。よろしく頼む。」
初仕事で緊張していた私の様子を察してくれたのだろうか。
忙しいはずなのに声をかけてくれるなんて、まめな人だ。
気持ちに応えられるように、頑張ろう。
ルルさんの言葉にこくりと頷く。
その反応に満足したのか、彼は目を細めれば、再び手を動かした。
「ねぇ、真宵さん。ゆっくりと紅茶を味わった後で構いません。よろしければ、私と一緒に家庭科室へ行きませんか?」
馨さんが、声をかけてくれた。
後片付けを終えたので、今から活動を始めるらしい。
記憶を失った私にとって、生徒会を傍で見学できる機会はとてもありがたい。
「ぜひ!よろしくお願いします。」
「ふふっ、ありがとうございます。では、先に向かっています。家庭科室でお待ちしていますね。」
まだ紅茶を飲んでいた私を気遣ってくれたのか、馨さんが先に退室した。
せっかくの活動内容を見学できないのは勿体ない。
馨さんへ追いつくために、まだ少し熱い紅茶を何とか飲み干す。
そして、食器を元の場所へ戻そうと立ち上がった時、ふとルルさんの様子が目に留まった。
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