第7話 帰宅

 白い扉を開けた瞬間、世界が弾けた。

 柔らかな光が視界を満たし、まるで夢の中へと吸い込まれていくようだった。


 だんだん光が落ち着いてきたので、目を開ける。

 そこには、まるで乙女ゲームに出てくるような可愛らしい部屋が広がっていた。

 淡いピンクのカーテンが揺れ、レースのかかったベッドが中央に置かれている。

 家電や食器、食料まで全て揃ってる……。

 本当に、ここで暮らす前提なんだ。


「朕だよ~~。さすがに野宿はまずいので、可愛いお部屋を用意してみたよ。まぁ、今日は一日ゆっくりしましょう。あと、君の親は海外出張しているって設定だからよろしく。」


 返答する隙も与えず、声は消えた。

 神様の計らいで、とりあえず生活空間は確保されたらしい。


 ベッドの上には、小さなリボンが縫い込まれた抱き枕。

 ふわりと花の香りが漂い、指先がシーツの柔らかさを確かめる。

 その感触に誘われるように腰を下ろすと、急に力が抜けた。

 気が張っていたせいだろうか……。

 こんな状況なのに、不思議と心がふわっと軽くなり、まぶたまで重くなった。

 現実世界に帰るための状況整理をしたかったが、もう頭が回らない。

 早く寝たいと身体が訴えるように、まぶたが落ちてくる。


 ――目覚めたら、すべて元に戻っているといいのだけれど。

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