エピローグ 雨上がりの夜空に

 壁一面のモニターが淡く光を放ち、

 無数のデータが画面の上を流れていく。

 空調の低い唸り声と、キーボードを叩く音。

 そのすべてが、僕――ノア・アークの日常だった。


「……あと、少しだけ」


 指先が静かに動く。

 黒い画面の上で数式が光り、波形が整っていく。

 目の下には疲労の影が落ちていたけれど、

 心の奥にはまだ消えない熱が残っていた。


 僕は量子情報研究所の主任研究員。

 人間の意識と記憶を解析し、

 “心”のデータ化を目指すプロジェクトの中心にいた。


 この世界で最後の研究テーマになるかもしれない??

 そんな予感を、ずっと前から抱いていた。


 壁際の時計は午前二時を回っている。

 白衣の袖にはコーヒーのしみ。

 机の上には、書きかけのレポートと、冷めきった紙コップ。


 窓の外では、街灯が雨上がりの夜空を照らしていた

 街は眠り、世界は静かで、どこか夢のようだった。

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寝過ごしたら千年後の世界で、世界が滅びかけていた件について 蒼架 @hareruya22

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