俺の織姫ちゃん

 世界チャットや個人チャットのほかに、私たちにはディスコードのサーバーがあった。

 ――持っていた、と言っても、あれは私が勝手に作ったサーバーなのだが。

 サーバー作りなんてしたことがない私を支えてくれた人たちが有能すぎるおかげで、気づけば立派に整っていた(笑)


 毎日、某キノコアプリに明け暮れていた。

 学校から帰ればサーバーに潜り、家事をしながらキノコを育てる。

 当時、はまりにハマりすぎて携帯二台持ちだった。(お兄ちゃんありがとう)


 そんな平穏な日々のある日、問題が勃発ぼっぱつした。

 私と、とある青年(?)の喧嘩。理由はもう覚えていない。

 日頃から暴言を吐かれ、セクハラを受け、それを指摘したところ


 ――築き上げたサーバーを削除された。


(その節は本当に申し訳ありません。)


 過激すぎて書くか迷っていたが、執筆中に思い出して大笑いしてしまったのでそのときに吐かれた暴言を記しておく。

「二毛作ま〇こ」。

 ……いや、お前「二毛作」の意味わかってた?(笑)

 言葉の定義も曖昧あいまいなまま暴言するとは末恐すえおそろしい。

 可哀そうに。誰にも指摘してもらえないまま消えていったのね。

 これからも、きっとどこかで恥をかき続けるのだろう。


 当時は傷ついたような顔をしていたけれど、ネットの治安なんてあんなものだ。

 今となっては気にしていない。むしろ、自ら知能の低さと境界面の混濁こんだく露呈ろていしてくれたことに感謝したいくらいである。


 ――そして、その時に声をかけてくれたのが、後に問題となる元彼だった。


 罵詈雑言ばりぞうごんを浴び、嘲笑ちょうしょうされていた私を見て、彼は「大丈夫?」と話しかけてきた。

 その一言で、私は崩れた。

 学校のこと、家のこと、家族のこと、体調のこと――全部、洗いざらい喋ってしまった。


 今なら思う。「そんな話されたら誰でも優しくするわ」と。

 でも当時のやさぐれた私は、それを“特別”な好意だと勘違いしてしまった。


 前話でも書いた通り、学校と児相の間をたらい回しにされていた頃だった。

 誰にも聞いてもらえなかった話を、彼はずっと聞いてくれた。

 その安心感にすがって、私はサーバーを立て直した。


(そのサーバーは今もどこかに残っている。多分……)


 彼との関係は、そこから動き出した。


 彼は育てていたアネモネを「君だと思って大切にする」と言った。

 花は枯れるまでだけど、君のことはずっと大切にする――と。

 3月1日にはこんなツイートもあった。


「ようやく僕に逢いに来たね。僕だけのために咲いていて欲しい。

 一生かけて君を咲かせる。

 アネモネ、花言葉は『君を愛す。』」


 その直後、「君のことだよ」とわざわざLINEしてきたくらいだ。


 サーバーを立て直した直後、私は彼を個人通話に誘った。

 深夜。日付が変わると同時に新しいサービスが開始される予告があったので、どうしてもその日中に立て直したかった――その焦りごと覚えている。


 誘うと、彼は喜んで応じてくれた。

 いつものグループ通話での声とは違う、優しい猫なで声。


「よく立て直したね」

「がんばったね」

「しんどかったよね」


 慰められて、私は泣きそうになった。なんなら、泣いた。

 電話を切った後、「楽しかった、ありがとう」とツイートした。


 翌朝、彼のTwitterにはこうあった。


「キノコ伝説やってて良かった。ありがとう」


 通話履歴は3月6日。

 その夜も通話し、また彼はツイートした。


「愛しくて、切なくて、恋しくて、寂しい――

 声は近いのに遠く離れ離れ。

 織姫も彦星もこんな気持ちだったんだね。

 こんな気持ち、知りたくなかった。」


 それ以来、私はS20の中で“織姫ちゃん”とからかわれるようになった。


 7日。

「恋っていう必須科目受けてなかったから課題で忙しい」


 このツイートの直後、私は気づいてしまった。

 ――あ、この人、私のこと好きなんだ。

 だから拒否した。彼との関係を壊さないため、サーバーの空気を壊さないために。


 するとツイートは変わった。


「おはよう、今日も一日がんばろう」

「みんなの想像通り、察しろ」

「俺は強い」


 11日。

 何度もアタックしてくる彼に折れた日。

 そして、彼のアネモネが“花開いた”日。


「綺麗に咲いてくれてありがとう。

 愛をずっと注いでよかった。

 華を開いた君は笑顔を振りまいてるみたいで、僕まで笑顔になる。」


 ここから、“会おう”という話が持ち上がる。


 3月17日――

 この日から、私の希望と絶望は、同時に花開き、実を結ぶことになる。


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