序章2 打開策はある

 日本で売られていた家庭用ゲーム『さいのディケイ・ワールド』——通称『ディケワ』。

 主人公ジュスティス・ガーシュを操作し、世界を守るために戦うアクションRPG。

 あの少年は、そのゲーム内のサブクエストにおいて「既に殺されている」という設定で写真だけが出てくる人物だった。

 だから、見覚えがあったのだ。

 前世の自分が——冬枯ふゆがれりくが、寝食を忘れるほどに夢中になったゲームの登場キャラクターだったのだから。


(俺は、『ディケワ』の世界に転生したのかっ……!?)


 思考がまとまらないまま、鼓動が加速する。


(だとしたら、いるのか? この世界に、彼女も……)


 頭に浮かぶのは、冬枯陸羽が『ディケワ』で一番好きだった、薄灰色の髪と後頭部の大きなリボンが特徴的な少女。

 十五歳にして、妹を守るために過酷な戦いに身を投じ、最期は傷だらけのまま死んでしまう。

 その上、結局はその妹すらも死亡するという報われない少女。

 救われて欲しかったと、冬枯陸羽がずっと焦がれていた彼女が——。


「やっと捕まえたぜ、この馬鹿ガキが」

「ッ……!」


 耳に飛び込んできた声に意識を引き戻される。

 三メートルほど離れた場所で、三人の男たちが口元を歪めてこちらを見下ろしていた。

 真ん中の男は左手に真っ白な手提げバッグを持ち、右手に拳銃を構えている。

 残りの二人の手にも拳銃が握られている。

 喉元まで死が迫っている感覚に襲われ、テールは背筋を凍り付かせる。

 否応なく現状を理解させられた。


(俺は、『アルティメット・ファイアボール』を食らって……コンテナに叩き付けられたのか……)


 痛みで、自分の身体が自分のものではないように感じられる。

 投げ出された両足は動かない。背中をコンテナに預けていないと、起き上がっている事すら厳しい。

 当然、逃げられるはずもない。


「っ、〈パラリシス〉……!」


 テールは麻痺魔法を発動した。

 しかし迸った電撃は三人の男たちに触れると、泡のように弾けて消滅した。

 彼らの笑い声が響き渡る。


「おいおい! 何だよこのゴミみたいな魔法はよ!」

「不意打ちじゃなきゃ効かないんだよ、雑魚が!」

「こんなんで俺たちに勝てると思ってたのか? お前マジもんのバカだな!」


 最後に喋った向かって右端の男が引き金を引いた。

 ぱすっと空気が軽く擦れるような音と同時、テールは右肩に衝撃と鋭い熱を感じた。


「ッ!? ぐあ、あぁ……っ!」


 思わず左手で右肩を押さえる。苛烈な痛みに意識が一瞬砕けかける。

 けれども、強烈すぎる激痛がかえって痛覚を麻痺させたのか、撃たれる前よりも頭の中がクリアになった。

 震える奥歯を無理やり噛み締めて、テールは顔を伏せる。


「痛いか? 痛いよなぁ?」

「安心しろ、馬鹿ガキ。すぐには殺さねえからよ」

「死んだ方がマシかも知れねえがな! ぎゃははははっ!」


 絶対的な優位を確信しているからだろう。愉悦に浸った様子の彼らは追撃をしてこない。

 確かに、自分の麻痺魔法が弾かれた時点で、自分と彼らとの魔力に絶望的な差がある事は明白だ。

 魔法の効果は、術者と対象の魔力の強さが大きく影響する。

 故に魔力の弱い者が強い者に勝つには、それこそ不意打ちを仕掛ける以外に方法はない。

 ——だが、それは「通常魔法」を用いた場合の話だ。


(もしも、本当にここが『ディケワ』の——ゲーム通りの世界なのであれば……打開策はある)


 緊張と期待と恐怖で鼓動が更に加速して、呼吸が苦しくなる。

 息を止めて余計な感覚をシャットアウトし、テールは逆転の道筋を頭に思い描いた。

 これは賭けだ。失敗すれば、その先にあるのは苦痛に満ちた自分の死。

 テールは息を深く吐いて呼吸を整える。

 そして、彼らに聞こえないように小さな声で——『ディケワ』の物語終盤にて登場する魔法を唱えた。




「——〈汝ら、恐れよ。赤が示すは八つ裂きなりTimete, rubor monstrat lacerationem.〉」






☆—☆—☆




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