墜星の使徒は原作シナリオを破壊する〜モブキャラ転生から始まるバッドエンド改変プラン〜

初霜遠歌

序章1 せめてサメの餌と言ってほしい

「出てこい馬鹿ガキっ! スズメダイの餌にしてやらぁ!」

「イワシかアジかもなぁ!」

「ウミタナゴやゴンズイもいるぜぇ!」


(そこは普通、サメの餌とかじゃないのかよ……)


 小魚ばかりなのが微妙に腹立たしいが、今はそんな事に構っている場合ではない。


「——大丈夫だよ、必ず助けが来るから。それまでここで隠れててね」


 泣き震える少年の頭を撫でて、テール・イヴェールは倉庫から飛び出した。

 秋めく潮風の中、夕焼けに染められて立ち並ぶ湾岸倉庫。

 その隙間を駆け抜けて、テールは大型トラック用の広い駐車場に躍り出た。

 向かうは駐車場を挟んだ向こう側にあるコンテナ群。

 今日が日曜日だからか、或いは誰かが操作したからなのか。

 まだ夕方なのに、輸送車も関係者の姿も全くない。

 今この場にいるのは自分と、先ほど隠した名も知らぬ少年と、それから——。


「いたぞ、あそこだ!」

「もう一人がいねえぞ!?」

「どこかに隠れてるだけだろ! まずはあいつを捕まえろ!」


 背後から追いかけてくる怒鳴り声。

 テールは唇を噛む。


(不意打ちで放った『パラリシス』は、大した時間稼ぎもできなかったか)


 追手は三人の中年男性。彼らが人を殺す事に躊躇ためらいを持たない事は分かっている。

 あの少年が銃を突きつけられているところに、自分は割って入ったのだから。


(本当に、あの子は誰なのだろう……)


 街中で白い手提げバッグを抱えていたあの少年。

 見ず知らずのはずなのに、テールは何故か気になってその跡を付けてしまった。

 そしてこの場所で撃ち殺されそうになっている彼を見て、焦燥感に駆られるまま介入してしまったのだ。

 とっに麻痺魔法『パラリシス』を男たちに放って、少年を逃がしたところまでは良かった。

 しかし自分は下級通常魔法すら満足に使えないし、別に武闘派でもなければ戦闘訓練を受けた事もない。

 生まれて十六年、危険な事とは無縁の生活を送ってきた一般人だ。

 一応何かあったときのためにと、義務教育で習った護身用の下級通常魔法は幾つか習得しているが、その程度である。


(捕まったら、もはや抵抗する術などない……)


 隠した少年の居場所を拷問で吐かされて、最期はそこの海で「サメの餌」にされるのだろう。

 押し寄せる死の気配に心臓が暴れ回る。酷使し過ぎた肺が痛む。

 テールは歯を食い縛って走り続けた。

 警察には既に通報済みである。

 今自分にできる事は、警察の到着まで時間を稼ぐ事しかない。

 等間隔に設置されたコンテナ群まであと少し。

 その合間に潜り込めれば、ある程度は時間を稼げるはず——。


「おらぁ! 〈アルティメット・ファイアボール〉!」

「っ!?」


 聞こえてきた上級通常魔法の呪文。

 強烈な熱に背中を焼かれ、テールは戦慄して振り返る。

 視界を覆う鮮烈な炎。咄嗟に両腕で顔をかばう。

 直後、轟音と衝撃に揺さぶられてテールの意識は途切れた。






☆—☆—☆






 どこか遠い場所で死のうと思い、冬枯ふゆがれりくは全財産を持って最寄りの駅に向かった。

 雪の舞う昼下がり。

 駅の前にはゲームショップがあって、新作ゲームの広告が窓ガラスに貼られていた。

 その中でふと、『さいのディケイ・ワールド』というゲームの広告が目に留まった。

 そこに描かれていた、悲しげに目を伏せる薄灰色うすはいいろの髪の少女。

 ラネージュ・パニエという名前のキャラらしい。

 りくは何故だか、その少女から目を離す事ができなくて——。






☆—☆—☆






 目が覚めた。

 同時に吐き気が込み上げ、テールは堪え切れずにぶちまけた。

 溢れ返る酸味の混じった鉄錆の味と匂い。

 右手で口元を拭い、その手の甲を見る。

 吐き出されたのは真っ赤な血液だった。

 激痛が身体中を巡っている。

 しかしそれどころではないほどに、テールの思考は混乱していた。


(俺は、冬枯ふゆがれりくという日本の高校生だった……?)


 今やはっきりと思い出せる。

 幼い頃に両親から虐待を受けていた事も、高校でいじめに遭っていた事も。

 ある日、ビルから看板が落ちてくるのが見えて、前を歩いていた幼い女の子を咄嗟に押しのけた事も。

 痛みの中、その少女の無事を確認したところで意識が途切れて——。


(俺は死んだのか? 死んで、この世界に転生した?)


 これは、いわゆる「前世の記憶」というやつだろうか。

 冬枯陸羽という男子高校生が日本で過ごした記憶が、確かな実感を伴って蘇ってくる。

 だけどそれ以上に、信じがたい事実がテールの脳を揺さぶっていた。


 ——先ほど隠した少年。どこか見覚えのあったあの子は、まさか……。


 あの少年の顔が、冬枯陸羽の記憶にある情報と一致した。


(まさか、『ディケワ』のサブクエストに出てくる「死んだ運び屋の少年」なのか……!?)






☆—☆—☆



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