序章3 ここはゲームの世界なのか
瞬間、血のように赤い
それらは手枷足枷の如く、男たちの両手足に纏わり付いて——。
「な、何だっ!?」
「腕っ……腕がっ……!」
「痛い痛い痛い痛い……!」
男たちが右腕を真上に伸ばし、苦悶の声を上げた。
三人は挙手のような不自然な格好のまま、顔を歪めて喚いている。
やがてブチブチブチと音がして、彼らの服の袖と——右腕が千切れた。
「「「ぎゃあああああぁぁぁ————!?」」」
赤い液体が噴き出し、男たちが暴れる事で振り撒かれる。
宙に浮かんでいた彼らの右腕が、ベチャリと地面に投げ捨てられた。
飛び交う絶叫。鮮血。刺激を伴う鉄錆の匂い。
想像を絶するグロテスクな光景に、テールは唖然として硬直した。
続けて三人の左腕が持ち上げられた瞬間、テールは耐え切れず目を固く閉じて耳を塞いだ。
しかし右肩が銃弾で砕かれているせいで、左耳しか塞げない。
「うわああぁぁ助げでええぇ!」
「やめろっ……やめでぐれぇ……!」
「ごめんなざい! ごめんなざいっ!」
泣き喚き許しを乞う男たち。
しかし、一度発動したこの魔法は途中で止める事ができない。
右耳から突き抜ける悲鳴に鼓膜を殴られながら、テールは早く静かになってくれと願う事しかできなかった。
暗闇の中で聞こえてくる断末魔の叫び声。
ブチブチと繊維が千切れる音。
やがて、それら全てが消え去った。
静寂の中、テールは恐る恐る目を開ける。
三メートルほど先の地面で、バラバラの肉片が血の海に沈んでいた。
「ぁ……」
内臓が凍り付き、テールは喉を引き攣らせる。
だるまと化した男たちは口から泡を吹き、白目を剥いてピクピクと痙攣していた。
辛うじてまだ生きているようだが、直に死ぬ事は火を見るより明らかだった。
「殺した……俺が、殺した……?」
ゾッと鳥肌が立って、テールは慌てて首を横に振った。
「いや、違うっ!
魔導書による習得が必要な下・中・上級の「通常魔法」や、血筋等による特別な才能が必要な「特殊魔法」とは違う。
誰でも詠唱するだけで簡単に発動できる上、強力な効果を得られる。
今のような「拷問処刑」を始め、「記憶抹消」や「石化封印」など効果は様々。
その手軽さと威力の強大さ故に、危険と言われ歴史から抹消された禁呪類——それが「
『赤の八つ裂き』は、その中でも特に
だからこそテールの記憶にも鮮烈に焼き付いていて、非常時に真っ先に思い浮かんだのだ。
「ゲームと同じ詠唱をしたら、思った通りの魔法が発動した。だったら、ここはゲームの——『四災のディケイ・ワールド』の世界で間違いないはずだ!」
己に強く言い聞かせる。
自分は今、『ディケワ』の世界にいるのだ。だから——!
「これは現実じゃない。ゲームだ。ゲームなんだ! 全ては……」
——ゲーム? このむせ返るような血の匂いが?
瞬間、ぎゅるりと胃が
咄嗟に顔を背け、テールは地面に向けて吐いた。
今度は血ではなくて、胃の内容物が胃液と共にぶちまけられた。
口の中が強烈な苦味でいっぱいになる。
腹の底が鈍く痛み、喉は焼けるように痛い。
そう、痛いのだ。
どれほどゲームだと思い込みたくても、この痛みが現実から逃してくれなかった。
「……これは、ゲームじゃない」
全て現実——そう意識すると同時に、また胃液が逆流してきた。
テールは再び地面に吐く。しかし、吐いても吐いても吐き気が収まらない。
(人を……殺してしまった……)
それも限りなく残虐な方法で。
正確にはまだ殺してはいない。それでも、あと数分もすれば確実に絶命する。
彼らは皆泣き叫んでいた。
痛かったはずだ。今の自分よりも、遥かに。
幾ら悪人とはいえ、苦しめて良いはずがないのに。殺して良いはずがないのに。
罪の意識に心が押し潰される。
身体の震えが止まらない。呼吸が上手くできなくて、苦しい……!
「——〈命ある限り、聖なる光は希望を照らす〉」
不意に優しい声が聞こえ、テールの視界が穏やかな金色の光に包まれた。
吐き気と全身の痛みが和らぎ、暗く沈んでいた胸の中に温かな安らぎが流れ込む。
一瞬にして、心と身体が楽になった。
(今の詠唱……それにこの光は、まさか……)
「君、大丈夫かい?」
声をかけられ、テールの心臓が跳ね上がった。
全身に緊張が走る中、テールはゆっくりと顔を上げる。
「……っ! あ、あなたは……」
そこにいた青年を見た瞬間、テールの鼓動は限界まで加速した。
こちらを気遣うような柔らかな表情を浮かべている、金髪碧眼の中性的な美青年。
我らが主人公——ジュスティス・ガーシュが目の前に立っていた。
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