第2話 ある飲み会でのギャップ萌え

「迎さん、次は何飲みます?」


彼女は空になった俺のジョッキを指さす。

その指先が視界に入った瞬間、俺の脳内は再び危険水域に突入する。

くっ……!あの指は何なんだ!

白くて細くて、マニキュアも指輪もしていない。

誰の所有物でもないってことか!?

いや、それ以前に、綺麗すぎる!かじりつきたい!!!!



理性:「紳士らしく、まず飲み物を決めろ。」

本能:「ちょっとだけ!先っぽだけなら!!!」



「どうしようかな?瀬目手さんは決まった?」


ドリンクを選ぶ俺は冷静さを取り繕いつつ、追加のつまみを選ぶ彼女に声をかけた。


「ちょっと悩んでるんですけど…」

彼女は俺の手にあるメニューを指さした。その指が示したのは――





「熱燗」だと…!?






「熱燗が好きなんですけど、強いから…他のお酒が飲めなくなるかと思って悩むんですよね~」

内心、動揺する俺に気が付いた様子はなく、彼女は眉間にしわを寄せて何やらうなり始めた。

なんだそのチョイスは!?

カクテルしか飲みませんみたいな顔してサワー頼んでた女が、ここにきて熱燗だと!?

どんだけ俺をギャップ萌えさせるんだ!

もう、つぶれるまで飲んでいいよ!?そしたら俺が責任もって……



ダン!!!っという音にハッとする。隣のテーブルでジョッキが勢いよく置かれたらしい。




危なかった!また変態妄想に突っ走りすぎるところだった。

俺は紳士。

今はまだその時ではない。


悩む彼女のため、ここは俺が紳士的な気遣いで株を上げるとしよう。


「せっかくだし飲みなよ。熱燗。お水も頼んでおくからさ」


そういって手元のデバイスで追加注文をした。完璧な気遣いに彼女もニコニコだろう。


「ありがとうございます!お水も頼んでくれるなんて、さすが気遣いマスターですね!」

こちらを見つめる彼女の瞳がやけにキラキラしている。


や、やめてくれ…!そんな尊敬の眼差しで見ないでくれ!

俺はただ、酔いつぶれたお前を介抱して運ぶという次なる展開を見越して水も頼んだだけの、極めて打算的な変態野郎なんだ!


俺の内心の邪な動機とは裏腹に、瀬目手さんはすっかりご機嫌だ。

片手を口元でくいくいとしながら、なんとも魅力的な提案をしてくる。


「せっかくなら迎さんも熱燗どうです?」


なんだその片手くいくいは!!可愛すぎるだろ!握りたいそのお手て!

しかし、悪いがその提案には載ってやれないぞ


「残念だけど、日本酒は苦手なんだ。匂いがダメでね」

「あ~日本酒が苦手な人はみんなそうみたいですね。熱燗なんてもってのほかですね」

彼女は、心底残念そうに肩をおとした。その仕草すら、俺には可愛くて仕方ない


くそっ!俺は紳士だ!なのに、何をやってもスケベな連想に繋がってしまう!

この純粋なガッカリ顔すら、俺の欲望を刺激するなんて……!


自己嫌悪に駆られつつ、やってきた熱燗を横目に少し頭を振ってみた

俺の脳内妄想劇場の幕は上がったばかりだ。こんなもので閉幕するはずもない。


俺は紳士、マジ紳士だ!!!!


かんばれ俺の理性。

飲み会はまだ中盤にさしかかったところだ

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