友より深く、恋より遠く

@hepu

第1話 ある日の飲み会

テーブルを挟んで向かい合う二人の間には、熱気と油の匂い、そして「ガヤガヤ、ワハハ、カンパーイ!」というざわめきが満ちていた。


「はい、今日もお疲れさまでした!乾杯!むかいさん、今日もお疲れのご様子ですね?どんな一日だったんですか?」


そういう彼女はジョッキを一口のむと俺にそう訊ねてきた。

ロングスカートにニットを組み合わせた今日の清楚な瀬目手せめてさんは、俺の理想を具現化したようだ

ひらりとしたスカートから覗く華奢な足首に目がいってしまう。

清楚なニットは、抱きしめた時の肌触りを想像させてきて……

だめだ!しっかりしろ俺!


「今日は後輩に仕事を教えて…どう説明したらいいか悩んでちょっと気疲れしたんだ。でも飲めば元気が出るから気にしないで。それにしても今日は珍しい格好してるね」


以前に聞いた話ではスカートはほとんど着ないと言っていた。

もしや俺のために…!?


「今日はスカートの気分だったんですよ!これお気に入りなんです。似合うでしょう?」

そう言う彼女はにんまりとし、得意げに鼻を膨らませている。



わかってはいたが俺のためではないようだ。


別に期待してたわけじゃないから、がっかりなんてしてないぞ。


しかし自慢げな表情もかわいい。いますぐキスしたい。



「それに、前に迎さんがスカート姿も見てみたいと言ってたので。…どうですか?」








キャーッッ!!!!!


悪戯っぽく微笑む彼女が可愛すぎる!

なんだよ!やっぱり俺のために着てきたのか!?

それともからかわれてるだけか!?

わからんがめっちゃくちゃエロいことしたい!!


だが俺は紳士。猛獣や変態とは違うのだ。ここは紳士的な行動を心がけねば。


「わざわざありがとう。とてもよく似合ってるよ。何を着ても美人さんだね。」


よし。大丈夫だ。かなり紳士的だ。しかも褒め言葉までつけた。完璧だ。



「ありがとうございます。着てきたかいがありました」

ジョッキを回しながら、優雅に「ふふふ」と笑う彼女は余裕の表情だ。


俺の必死の褒め言葉は社交辞令として流されてしまったようだ。

ううむ、手ごわい。だが、かわいい! なんとか照れた顔が見たい。


「ところで……」



楽しそうに話す彼女はとてもかわいい。笑顔がチャーミングだ。

時折こちらに向ける視線にドキリとする。

ジョッキを傾け、喉仏がゴクリと動く。

目を閉じたその一瞬が、なんでかとてもエロくて、俺は焦って自分のビールを一気飲みした。


俺は紳士、俺はジェントルマン。むっつりスケベな変態野郎とバレるのだけは、絶対に阻止しなければならない!



飲み会はまだ始まったばかりだ。今日もがんばれ俺の理性。

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