第2話
「服、これなんだけど…」
「はっ?」
そう言って手渡されたものに私は立ち尽くすしかなかった。
それは、ゴリゴリのロリータ服だった。
レースのついたバルーン型のパステル調スカートに、首元には白い襟。
襟元にある、柔らかい紐で作られたリボンの中心には、「√」と彫られた小さい宝石。
そこらじゅうにひらひらがついており、魔法使いの帽子にも、柔らかなリボンが付いていた。
いや、可愛いんだけど。
可愛いんだけどっ!!
これ着るの勇気いるじゃん!!!
無理。
世界救うのやめちゃおうかな…なんて。
無理か。
「…ねぇ」
「この、リボンの中心の宝石を押すと、服が宝石内に収納されて──」
「それいいから。何、これ。誰の趣味?」
私が問うと、青年は髪をかき上げた。
「親父だけど…」
「だけど、何?」
怯んだように青年は一度口をとじ、再び開く。
「デザインに俺も一枚噛んでるのは申し訳ない…」
ん?
共犯者じゃん!
何親父の趣味とか言って。
青年は気まずそうにそっぽを向いた。
「で?電卓界はどんな状況なの?魔法少女になる必要性は?どうして魔法少女が必要?」
「ハッキリいうと───脳の柔らかさ、だな」
「は」
「幼い子は脳が柔らかく、思考も柔軟。電卓魔法に大きく影響する〝発想力〝が強い。魔力の次に大事な力だ」
ふーん。それで?
「あとは、男子より女子の方が真面目だという古い考え方と、女の子に可愛い服をきさせたいという親父の願望と、その他もろもろ」
やっぱり、説明する時はやけに饒舌になる。
「その他もろもろ」に君の願望も含まれてるのかな?
「電卓界で何が起きてるの?」
青年は少し考え込むような仕草をした後、口を開いた。
「異世界から、魔王がやってきて、電卓界を占領した」
「ん?もう一回言って?」
「異世界から、魔王がやってきて、電卓界を占領した」
「ん?」
「だから───」
「違う!そういうことじゃなくて」
異世界から、魔王がやってきて、電卓界を占領した?
めっっちゃ王道ストーリーじゃん。
そんな世界現実にあったんだ。
「まるでお話だね」
青年は首を横に張った。
「これだってそうだろ」
「ん?」
少しの沈黙。
「とにかく、これ」
そう言って青年が渡してきたのは、一枚の板だった。
電卓だ。
そりゃそうか。
電卓界を救う魔法少女は、電卓で救わなきゃいけないんだもんね。
「電卓魔法は、いわゆる数字遊び。こうやって使う」
青年は私に一度電卓を渡してきたにも関わらず、私から電卓をひったくり、私に画面が見えるように見せてきた。
『1+5』
「これは?」
いちたすご?
「6?」
「違う」
青年はそう言ってから『=』を押した。
パーン!
電卓が小さく光ったかと思うと、青年の手のひらに赤い物体が乗っていた。
「『1+5』は、イチゴだ」
そういうなり、青年はイチゴを頬張った。
あー、発想力ってそういうこと。
「これで、武器生成、敵の抹殺など、色々できる」
術式っていうか、数式(?)の発想次第で無限ってわけだ。
電卓はガラスで作られていて、ところどころ精巧な彫刻があり、高級感がある。
電卓をしばらく眺めていると、イチゴを食べ終わった青年が気まずそうにしていることに気づいた。
「服、着てみて欲しくて…っていうか、着ないと向こうに行けないから」
………。
率直に思ったことは─────
「やっぱり青年もロリコ───」
「違う」
私は年齢的にもロリじゃないけど。
千歳以上なので。
容姿はロリとは言われたことあった…気がする。
「えー」
私は明らかに嫌な顔をした。
「魔法服改正の打診はするから」
手を合わせる青年。
世界救ってあげるって言っちゃったし?
仕方ないか。
「じゃあ、真ん中の宝石を2回押したら着替えれるから。俺も準備してくる」
準備、とは?
私が言う間もなく、青年はさっきの角へ曲がっていった。
うー。
押したくないけど。
押してしまうんだよなぁ……。
カチ、カチ。
2回押すと、独特な音がした。
ぐるぐると歯車が回るような音がして、私の体自体が光始めた。
これ、変身シーンてきなやつか。
自分の体にリボンが巻き付いていき、そこがロリータ服に変わっていく。
変身中は周りがキラキラしていて、可愛い浮遊物がたくさんあった。
ぱぁん、ぱぁん。
柔らかい音が弾けて、私を魔法少女にしていく。
変身が終わった後、私はなぜか決めポーズを決めていた。
なに、これ!
絶対に意識してるよね?
あれを。
「意外と似合ってるタクね」
角からとことこ歩いてきたのは、ブカブカのズボンをサスペンダーでたくしあげ、ネクタイを締めている。
電卓界のうさぎ────たしか、タックン。
そして、本当の姿は先ほどの青年。
なんでその姿になる必要が…。
「親父に渋られるからだタク。君も、純粋無垢な魔法少女でよろしくタク」
純粋無垢って。
なんか、うさぎになると胡散臭くなるな、コイツ。
「語尾つけなくていいんじゃない?」
「役に入るには時間がかかるんだタク」
サスペンダーうさぎは私のところまで歩いてきた。
私の肩にのるサイズだ。
「じゃあ、いくタク」
いつのまにかうさぎは、私にわたした電卓の色違い電卓を手にしていた。
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