009 大聖女、烙印を祓う
「今から魔女裁判を行う! 被疑者、前に出ろ!」
キリストロニフ聖王国にあるゼウパレス修道学院の横に臨時に設けられた魔女裁判所。
その法廷に、ひとりの女が連行される。名を呼ばれた女は、無言のまま法壇の前まで歩み出ると、そこで静かに両膝をつき、首を垂れた。
「貴様は、魔女であることに間違いないか?」
「いいえ、違います! 私は魔女ではありません!」
司祭をはじめとする大勢の教会関係者たちの前で、女は懸命に訴える。そして、自分は魔女ではないと否定し、どうか信じてほしいと、必死に懇願する。
「ならば、その毒々しい桃色の髪はなんだ。それこそが、魔女である証拠ではないのか?!」
「!! これは……騙されたのです! この色の髪にすれば、弟の病気を治してやると、牧師の方が……!」
女は涙ながらに自分は魔女ではないと訴え続けた。
だが『牧師』という言葉を口にしてしまったのは、あまりにも致命的だった。
教会関係者たちは一様に眉をひそめ、「魔女の言葉など信用できぬ」と囁き始める。
「やはり、魔女の言葉など聞く必要はなかったのだ。我ら教会の者を貶めるような発言をするとは……言語道断! 即刻、死刑とする!」
司祭が声を張り上げ、傍らに控えていた神殿騎士たちに死刑を命じた。
その瞬間、女の目前に金色の髪をなびかせたひとりの少女が、静かに立ちはだかった。
◆
桃色の髪をした女性が神殿騎士たちに斬首されそうになるのを目にし、咄嗟にその前へと飛び出した。
「一体、何の真似ですか?
女性の前に立ちはだかる私を、明らかに不快そうな目で睨んでくるのは、神殿騎士団長のルイジエルだった。
今まさに首を刎ねようとしていたところを邪魔されて、ご機嫌斜めのようだ。
一体、どれほど血を見るのが好きなんだ。神殿騎士としての資質を自然と疑いたくなる。
「お待ちください、ルイジエル様。この方は無実です、今、私が証明します!」
私は跪いたまま首を垂れている女性に向かって、浄化の魔法を発動する。
「
その頭に手を触れると、柔らかな光柱が彼女の全身を包み込み、淡く揺れる光の中で、毒々しかった髪の色が、艶やかな亜麻色へと変わっていく。
「「こ、これは!?」」
床に両膝をつけたままの女性の髪が変わったのを見て、法廷にいた者たちは皆、息を呑んだ。
驚きのあまり言葉を失った彼らを横目に、そっと彼女の手を取って立ち上がらせる。
「彼女の無実は証明されました」
そう司祭に一言だけ告げると、まだ足元がおぼつかない彼女を支えながら、私は魔女裁判所を後にした。
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