008 黒白の螺旋、世界は動き出す
ついに私は夢に向けて大きな一歩を踏み出した。
前世の私が憧れて、夢中になってテレビにかじりつくように見ていた――あの「魔法少女」に、今まさに私は変身したのだ!
――――――――――
前世の私を思い出す。
私は親の教えを守り、勉学に励む真面目な子供だった。
とにかく一流の大学に入り、一流企業に勤めて、高年収の男性と結婚して子供を産む――それこそが「幸福な人生」だと教えられた。
そして、周囲を見渡しても、そんなふうに生きていて、幸せそうに見えたから、疑うことなど一度もなかった。
だが、実際にいい大学に入り、一流企業に就職したものの、現実はそう甘くはなかった。
容姿がよくない私に言い寄る男性はほとんどいなかった。
たまに話しかけられても、話題がアニメや漫画に偏り、結局すぐに興味を失われてしまった。
正直、相手の見た目を気にしなければ、付き合うことも、結婚することもできたかもしれない。
だが、これまで努力して一流の大学や企業にたどり着いたのだから、容姿くらいはいい男性と結婚したいと思うのは、決して過分な望みではない――
――そう信じていた。
しかし気づけば、どんどん年を重ね、いつの間にか職場の同僚たちから「お局様」と呼ばれるようになっていた。
しかも、三つ下の妹は勉強もせず、遊んでばかりだったのに、イケメンと結婚して子供にも恵まれた。
生活は貧しかったものの、それなりに幸せな人生を送っていた。
両親も孫が可愛いのか、いつしか妹のことばかりを褒めるようになり、次第に家族の中で孤立していった。
そして、父が他界し、母と二人で暮らすようになると、母はいつも妹と孫のことばかり話すようになった。
面倒を見ている私には、感謝の言葉ひとつなく、最後に亡くなるときでさえ、看取りにも来なかった妹と孫のことを案じていた。
……結局、自由に生きた妹のほうが正しく、自分を押し殺して努力し続けた私のほうが間違っていた。
それを死ぬ直前になってようやく認めた私は、心にひとつの決意を抱いた。
もし来世があるのなら今度こそ、たとえ周囲に迷惑をかけようと、私は私の思うままに、自由に生きてやると。
――――――――――
魔法少女に変身した私は、前世の自分を思い出しながら、改めて誓う。
この世界では、絶対に「自由に生きてやる」と心に刻み、ドラゴンを目がけて走り出した。
その粒子で構成された
打撃を通して体内にねじ込まれた反魔族粒子は、ドラゴンの全身に深く浸透し、その命は風前の灯だった。
その姿に、ほんの少しだけ哀れみを覚えると、これ以上苦しませないために、一撃で止めを刺すべく、万能魔法を発動する。
私が両手を天に掲げると、黒と白、二色の雷が空から落ちてきて、そのまま両手に吸い込まれていく。
膨大なエネルギーに包まれた両手をぴたりと重ね合わせ、一気にそれを解放する。
刹那、黒と白のエネルギーは螺旋を描いて空間を裂き、ドラゴンに直撃した。次の瞬間、漆黒の巨体は一片の塵さえ残さず、跡形もなく消滅していた。
私は想像以上の威力に呆然する。
そして、前世でずっと憧れていた、プリティでキュアな、ブラックかつホワイトな二人組の魔法少女のことを思い出した。
誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟く。
「プ○キ○ア・マーブルスクリュー……」
◆
――この日を境に世界は、大きく動き出した。
長きにわたり膠着していた人間と魔族の戦争は、たったひとりの謎の少女の出現によって、劇的な転機を迎えることとなった。
その少女は漆黒の衣をまとい、ピンク色の髪を靡かせながら戦場に現れた。
巨人すら凌駕する膂力を持ち、既存の魔法とは異なる怪しくも強大な魔術を操り、魔族八王の一柱、デスドラゴンを圧倒の末に消滅させたのである。
人間たちは、その異常なまでの強さと、理解の及ばぬ異質な力を目にして、口々にこう囁いた。
――かつて、魔族も人間も支配した魔女が、再び蘇ったのだ……、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます