第2話 ギルド大騒ぎと、おとちゃんの育児講座
ドワーフ鍛冶ギルドは、朝から鉄と火の匂いが満ちていた。
そこへ、親方バルカンが“赤子を抱いて”入ってくる。
ギルド全員が固まった。
「……おい」
「親方が……人間の赤ん坊抱いてる……?」
「誘拐じゃねぇの……?」
「210歳でとうとう犯罪に手を……!」
バルカンは眉を吊り上げた。
「誘拐じゃねぇ!! 捨て子を拾ったんだ!!」
「いやいやいや、言い訳にしても雑すぎるっす!」
「ほら、早く親に返しなよ親方!! 重罪だぞ!!」
ギルド、パニック。
ぼく(赤子)は親方の腕の中で内心ツッコんだ。
——いやお前ら、洞窟の状況見ろよ。
親方は溜息をついて、赤い布の中から“羊皮紙”を取り出した。
「ほら、これを見ろ! 俺の言ってることが本当だって分かる!」
ギルド長が受け取り、目を細めて読む。
『名前はレン。
生後三ヶ月。
どうか……よい人に……』
ギルド全体が一瞬で静まり返った。
「……親方、あんた……」
「命がけで逃がした子じゃねぇか……」
「拾ってくれてありがとうよ……」
さっきまでバリバリ“犯人扱い”していた連中が、
親方の肩を叩いて泣き始めた。
バルカンは照れくさそうに鼻を鳴らした。
「当たり前だろうが。この子の親の意志だ。俺が尊重しねぇでどうする」
親方は誇らしげにぼくを抱き直した。
その瞬間。
「はい、で? 育児どうすんの?」
ギルドの奥から、がっしりした女ドワーフがずいっと出てきた。
腕は太いが、手つきは妙に優しい。どう見ても“ギルドの母ちゃん”的存在。
「赤ん坊はね、親方。あんたが思ってる百倍面倒だよ」
「面倒……? 鍛冶よりか?」
「比べもんになるか!!」
ギルドがどっと笑った。
女ドワーフは棚から何かを取り出して、親方の手に押しつけた。
「はい、これ“ミルク”。薄めちゃダメ。人間の子は弱いんだよ」
「ミ、ミルク……? 牛乳じゃねぇか。これ飲んで育つのか……?
鉄を溶かす炎の前で育つ俺らからすると信じられねぇ……」
ぼく(内心):
——飲む。飲むから安心して。
女ドワーフはさらに布を差し出した。
「はい、これ“おむつ”」
親方は目を見開いた。
「腹当て……じゃねぇのか……? これ何に使うんだ?」
「うんちとおしっこだよ!」
「言うな!! レンが恥ずかしがるだろ!!!」
ぼく(内心):
——いや赤ちゃん羞恥心まだ無ぇっす。
女ドワーフは手際よくおむつの構造を見せつける。
「ほらこれ広げて……足持って……こう包んで……」
親方の顔は真剣そのもの。
「……うぉ……複雑だ……鍛冶の型紙よりむずい……」
「それが普通だよ!!」
ギルド全員、また爆笑。
続けて女ドワーフは指を折りながら説明しだした。
「赤ん坊が泣く理由はだいたい決まってるよ。
“お腹すいた”
“おむつ変えて”
“暑い”
“寒い”
……あとね、“眠い”でも泣く」
親方:
「…………は?」
「眠いなら寝ろよ!? 寝転んでるだろ!? なんで泣くんだよ!?!?」
ぼく(内心):
——すまんおとちゃん。眠いときって、逆に泣きたくなるんだよ。
ギルド、床を叩いて笑う。
女ドワーフは湯の入った桶を持ってくる。
「最後に“お風呂”。ほらこうやって支えてね。
首の後ろと背中をこう——」
親方は手を震わせた。
「無理だ!!片手で支えて片手で湯!?
鎚は振れても赤子は振れねぇ! こっわ!!」
ぼく(内心):
——振られたら命がねぇっす。
それでも親方は、
必死に赤子の抱き方を練習した。
肩に当てる角度を間違えて
「ぎえっ!?」とレン(ぼく)が変な声を出すと、
ギルド全体が
「親方やめろ!!」
と大騒ぎする始末。
ギャグの渦の中、ギルド長が静かに言った。
「保護者登録、出しておくか。
レンは今日から正式にお前の子だ」
親方は鼻をすすった。
「……ああ。俺が……この子の“おとちゃん”だ……」
ぼくは反射で「……あー……」と母音を出した。
親方は両手でぼくを高く掲げた。
「聞いたか!? 今“おと”って言ったぞ!!」
女ドワーフ:
「言ってない。今の“あー”だから」
親方:
「俺には聞こえた!!!」
ギルド:
「親バカ極まってきたなぁ!」
ぼく(内心):
——まあ、悪くない。
こうして、
おとちゃんの育児はドワーフギルド総出で始まった。
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