第7話 協議のテーブル
「なるほど、お嬢さんは中一で下の君が5年生か。ウチの耕太が4年生だから一つ違いだね」
見学を終え戻って来た奈緒たちと改めて自己紹介した後、向こうの旦那さんがそんな風に翔太に話しかけて来た。翔太はそれに「うん」と答え、少し気まずそうにしている。そんな雰囲気に耐えられなくなったのか、
「ね、パパ、ベランダに出てみても良い?」
訊くと同時にソファを立っていた。相変わらず落ち着きがない。耕太くんの目もその動きを追っている。その横顔を見ているとやはり奈緒の子だなと実感する。パーツというよりも顔全体の雰囲気がそっくりだ。
その場を離れていこうとする翔太を「おい」と呼び止めようとしたが、気にも留めない。その時、沙耶が「私も」と立ち上がった。一瞬こちらを向いて小さく頷くと、「耕太くんも行こう」と彼の手を取る。耕太くんは奈緒の同意を得てから、沙耶と一緒に翔太の後を追った。
沙耶はこういった場の空気を敏感に読む事が多い。中学の友人とあまりうまくいっていないのは逆にそれが過ぎるためかも知れないが、今は大人同士での話ができる場を作ってくれたことに心の中で感謝した。
「それで」
おもむろに菜穂子が話し始めた。
「私たちとしては是非ともここに入居したいと考えています。内部を見させていただいて、二家族が住むのに十分なスペースがあることも確認できました。子ども達の年齢も近いですし、仲良くできるのではないかと思っています」
話し始めようとした旦那さんを制して奈緒がそれに答える。
「はい、我々も前向きに考えたいと思っています。ただ、我々にとっても子供にとっても大きな決断ですので少しお時間をいただけないでしょうか」
「いや、うちの両親のことならボクがなんとかするよ。この近くに引っ越してもらうことを考えてもらっても良いわけだし」
旦那さんは即答しなかった奈緒にそんな風に語りかける。
「いや、そういうことじゃないの」
そうピシャッと言ったのちにこちらを向いて
「いかがでしょうか?」
と畳み掛ける。この場で何らかの確証が欲しかった菜穂子は不満そうだったが、それ以上何かを引き出せる可能性はないことを悟り、
「わかりました」
と答えた。回答期限前日の来週土曜日に広尾で再会することを約束して、その日はそれで終了となった。
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