第6話 運命の再会
小さな部屋と同じくらいの玄関を抜けるとリビングに入ると思わず「おぉ」という声が出た。広い。とにかく広い。ここだけで2LDKのマンションが一つ入ってしまいそうな感じ。ソファとローテーブル、そして大型のテレビ。ダイニングには大きな8人掛けのダイニングテーブルが置かれている。キッチンを覗くと大きな冷蔵庫とビルトインの電子レンジ、オーブン、そして食洗機が整然と並んでいる。
「こちらは家具付きの物件となっております」
担当者が説明する。なるほど、そういうことか。今手持ちの家具は処分しなければならないが、ここに持って来たところでこの広さに不釣り合いなので仕方ない。洋間が3部屋ほどあり、子供部屋にしては十分すぎる広さがあるが、きっとそうなるのだろう。主寝室はどこだろう、と探していると沙耶の声がした。
「パパー、見て見て、マンションなのに階段がある」
ん、なるほど。メゾネットになっているのか。声に導かれて階段を上がり、二階部分に入ると廊下を挟んで左右に二つのドアがついている。
「こちらが主寝室になります」
その片方を開け、担当者が中を見せる。やはり広い。ベッドを二つ置いても十分な広さがあり、さらに少し奥まった部分がL字状になっていて、半個室な書斎スペースとして使えるようだ。おそらくもう片方も対象な作りになっていてもう一夫婦が使えるようになっているのだろう。
一通り見学させてもらって階段を降りている時に担当者がヘッドセットをいじっているのが見えた。おそらくもうひと家族が到着したのだろう。リビングに戻りしばらく待っていると呼び鈴が鳴るのが聞こえた。一緒にソファに座っていた沙耶と翔太がピョンと立ち上がり玄関の方に走って行く。落ち着かずずっと立っていた菜穂子は髪をいじったり服の乱れを直したり。俺はそのままソファに座ってこちらにやってくるのを待った。
「こんにちはー」
向こうも少し緊張しているのか、少し上ずった声で挨拶をする声が聞こえる。その声で振り返ると沙耶が向こうの子の手を引いて部屋に入ってき、そしてその後にその両親が続く。
「えっ」
「あっ」
「し… いや、神永さん?」
「な、内藤さん?」
「え、もしかして知っている方?」
向こうの旦那さんが奈緒に訊く。奈緒が答える前に俺が答える。
「あ、はい。同じ会社で仕事をさせていただいている、神永です」
「神永さん。あ、そうですか。それはそれは、いつも妻がお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ。いつも仕事で助けてもらっています」
「じゃ、職場も同じく中目黒ですか。あー、それは良かった。何かと助けてもらえそうだ。私今、新百合ヶ丘に住んでいるんですけど、職場が武蔵中原なので方向が違っていて、まあでも一緒の場所に通ったところで私には何もできないんですけど、でもまあ神永さん、お優しそうだからきっと今でも色々助けていただいているのかな。でも、こいつは『通勤が大変だー大変だーっ」ていつも言っていて、私はしがないサラリーマンなので何もできないのですが、代わりに少しでもこいつが楽になればと思って両親に手伝いとかをお願いしていて、まあそのおかげでようやく家事育児と仕事が両立しているような状況で、まあここに来たら両親からは離れてしまうのですが、こいつの通勤は楽になるのでそれはそれで良いかなと思いながら、私はそろそろ親孝行しなきゃかなと思ってたりもするのですが、ここに入るとそれもしにくくなるかもしれず、あ、いや、でもここに入りたくないとかそういうことでは全然なくて、…」
「ちょっと、新一さん!」
少し怒った声で奈緒からツッコミが入った。よく喋る旦那さんだ。緊張してなのか、もともとよく話す人なのかはわからないが、別に悪い印象は受けなかった。良い人そうに見える。
一方で、自己紹介をたっぷり事前練習していた菜穂子は一言も発することができずにいた。
「では、内藤様ご案内させていただきます」
その一言でみなハッと我に返ったようになり、内藤家は担当者に連れられてダイニングキッチンの方へと導かれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます