009 : 時代劇マニアの遠山君

【今回のお題】

 こわれた傘/三番目の声/机の下の手紙


【完成した作品の味わい】

 小学生コメディ



   ★   ★   ★



 とある小学校。

 雨に見舞われた下校時刻。昇降口で宮本君と佐々木君が呆然と空を見上げていた。

 手には、骨が折れてぐにゃりと曲がった傘。二人とも半べそをかいている。


 そこへ通りかかった沖田先生が、眉をひそめた。


「どうしたの、君たち。傘、壊れてるじゃない」


「チャンバラしてました……」と、宮本君。


「僕もです」と佐々木君。


「授業中に、机の下に手紙が回ってきて……果たし状でした」と宮本君が言う。


「僕のところにも来ました」と佐々木君。


 手紙にはこう書かれていたという。


≪ピロティに かさを もってこい。いざ じんじょうに チャンバラ しょうぶだ!≫


「でも、……僕も佐々木君も、こんな手紙を書いた覚えがないんです。ピロティに行ったら、みんながけしかけるので、思わず全力で打ち合っちゃって……」


 沖田先生は首をかしげた。


「君たち、確かに互いに手紙を出した覚えはないんだよね?」


「はい」「そうです」「そうでござる」


 ……ん?


「傘で打ち合ったのは?」


「剣の代わりに」「剣っぽかったので」「剣は武士の魂でござる」


 ……誰?三番目の声。


 見ると、少し離れたところに、遠山君が立っていた。


「……ひょっとして、手紙を回したのは遠山君?」


「左様でござる。宮本氏と佐々木氏は立ち振る舞いが素晴らしい。二人が立ち会えば、さぞ見事な剣劇が見られると思ったでござる」


 遠山君は、時代劇マニアで有名だった。

 特に、自分の苗字と同じ「遠山の金さん」がお気に入り。

 江戸の町奉行・遠山金四郎が庶民に扮して悪事を探り、裁きの場で背中の桜吹雪の刺青を見せて正体を明かす――そのシーンが格好いいのだという。


 彼は友達に「遊び人の金さんと呼んでくれぃ」とお願いしているのだが、まったく定着しない。

 代わりに”とやまっち”と呼ばれており、不満気味だった。


「遠山君。同級生にチャンバラを焚きつけちゃダメでしょ。ケガさせたらどうするの」


 沖田先生に叱られ、遠山君はしょんぼりとうなだれた。



  ◇  ◇  ◇



 別の日。

 遠山君はジャージのズボンをずり下ろして、忠臣蔵の”松の廊下”ごっこをしていた。

 休み時間、吉良君と戯れながら、リコーダーを剣に見立てて一人芝居を始める。


「おのれ上野介!この遺恨、覚えたるか!――殿中でござる!刀をお納めくだされ!」


 裾の長い袴を模したズボンを引きずりながら、熱演する遠山君。

 クラスメイトは笑いながら見守っていた。


 そこへ、いたずらっ子の鎌田君がやってきて、遠山君のズボンの裾を踏んづけた。

 前のめりにビターンと転倒する遠山君。


「いてて……」


 起き上がると、ズボンとパンツがずり落ち、股間の奉行所がご開門。

 その日から、彼のあだ名は――


 ”遠山のチンさん”になった。




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