010 : 夏の配達

【今回のお題】

 古い木の箱/静かな坂道/青い紙のメモ


【完成した作品の味わい】

 のどかな幻想譚



   ★   ★   ★



 木々が生い茂る山の中、しとしとと雨が降る。

 雨は斜面を伝い、ごうごうと川へ流れ込む。

 春は終わって今は梅雨の季節。空はどんよりと暗い。


 そんな森の中を、影のようにぼんやりとした姿の、荷物を抱えた”何か”が、ゆるゆると歩いていく。

 傘を差し、手に抱えた荷物に雨がかからないよう、慎重に進んでいく。


 森の中ではカエルがケロケロと合唱を繰り広げている。

 ”何か”はそれを聞いて、頷くように上へ下へと頭らしきものを動かす。

 どうやらお気に入りの音のようだ。


 やがてそれは森を抜け、丘を登り始める。

 静かな坂道を、ゆるゆると登っていく。

 長い坂道だが、息切れすることもなく、ただゆるゆると。

 そして、丘の上にある家へとたどり着き、呼び鈴を押した。


「夏樹さん、お届け物です」


 それは、夏樹という少年に荷物を渡し、伝票にサインをもらった。

 どうやら”何か”は荷物の配達人だったようだ。



 少年は荷物を開けた。

 中には、古い木の箱が収められていた。

 年代を重ねてあめ色に変色した、つややかな箱だ。

 そして、その表には青い紙が貼られていて、白い文字で「夏」とメモ書きされていた。


 彼はその箱を開けた。

 中には、きらきらと光る黄金の粉がぎっしりと詰まっていた。


「よし、今年も良い出来だ」


 そう言って彼は、しとしと雨の降る中、外へ飛び出した。

 そして、丘の下に広がる街へ向かって、その粉をそっと振りまいた。


 粉は風に乗って舞い、屋根の上、木々の間、通りの隅々へと広がっていく。

 すると街は輝きはじめ、雨はすっかり上がり、強い日差しがカッと差し始める。


 彼はどんどん粉をまき続ける。

 雨水は日差しによって蒸発し、むっとした蒸し暑さが立ち込めてくる。


 こうして夏が始まる。

 夏を振りまくのは彼の毎年の仕事となっていた。

 

「うん。これで明日にでも梅雨明け宣言が出せそうだ」


 夏樹はほっとした。

 と、ふと気を抜いた隙に、飼っていた猫が急にじゃれついてきた。

 驚いて、手にしていた粉を多く振りまいてしまう。


 街の空気が一瞬、熱を帯びたように感じた。

 ――今年は、きっと、うだるような猛暑になるだろう。




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